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父と競馬と板チョコと
金木犀の花が散り始め、11月に入りだいぶ秋らしくなってきました。
この11月という月は、私にとって少しだけほかの月とは異なって特別な月です。
松茸食べましたか?栗ご飯食べましたか?私は新高梨が大好きで・・・って、あいにくそういう話題ではございません😅
お風呂上がりに羽織るガウンが昭和の大スター石原裕次郎ばりに似合ってしまう、昭和一桁生まれの男、私の父のお話にしばしお付き合いいただけると幸いです。
馬が来る🐎
これは私が幼稚園生くらいの頃の記憶です。
休日の午後、父はラジオに向かって「来い!来い!」と言ったり「ああ〜!」と溜息まじりに項垂れたりしていました。
「なにか来るの?」
子どもながらに、父がラジオに向かって声を上げているのが不思議で聞いてみました。
「お父さん、お馬さんをかったからお馬さんが来るんだよ」
「お馬さん?お馬さんがウチに来るの?」
「そうだよ。お父さんの好きなお馬さんが1位になったらね」
ウチにお馬さんがくるのかぁ。私はすぐさま家の狭い庭で馬が草を食む姿を想像しました。
こんな狭い場所で飼えるのかな?でも本当にお馬さんがきたらうれしいな。
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/64914435/picture_pc_6d46729e3636e36cb8bb86ba36337c3b.jpg?width=1200)
※あくまで馬が草を食むイメージ画像です。
(いや、皆さんお分かりですってば)
「お父さんは○番のお馬🐎さんが1位にならないかなぁと思って応援してるんだ」
ラジオからファンファーレが鳴り、早口の実況が始まりました。
実況が始まるや否や父の顔つきが変わり、またラジオに向かって
「来い!来い!」
わけも分からず私も一緒になって
「来い!来い!」
ラジオからはただならぬ盛り上がりが伝わってきます。
そして父が「よし!」と言って、私の手をとりガシッと握手🤝をしてきました。
父がなぜそんなに興奮しているのか、当時の私にはさっぱりわかりませんでしたが、その様子から応援していたお馬さんが1位になったことは理解できました。
「やったーー!」
![画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/64914846/picture_pc_45a96755bc9abf648d1289b8889ddd72.png?width=1200)
「お馬さんがウチに来る!お馬さん飼うんだ!」
喜びでピョンピョン飛び跳ねました。
すると父が
「ハハハッ!本当にお馬さんがウチに来るわけないだろう」
笑顔で言い放ちました。
えっ、さっきお馬さんがウチに来るって言ったのに!
うそつきーーー!
心の中で叫びました。
父の言う「お馬さんをかったから、お馬さんが来るんだよ」を正しく訳すと、
馬券を買ったから、その馬に賭けている、という意味だったのです。
確かに「馬を飼う」とはひとことも言ってはいなかったけど、けども、子ども相手だからって適当なこと言ってひどいじゃないか。
おかげで幼稚園児だったの私の心は粉々に砕けたぞ。
それは競馬だと理解する
やがて自分が大きくなるにつれて、父が熱心に興じているものは「競馬」というものだと知りました。
そして父の言う
「馬を買いに行く」は馬券を買いに行く、
「馬が来る」は賭けいてる馬が1着になる、
「馬を当てた」は馬券を当てた、
「大穴を当てた」は万馬券を当てた、
という意味なのだと理解しました。
動物園へ行こう
父にまんまといっぱい食わされた馬が来る事件(幼稚園児からしたら父親に夢を砕かれたショックな出来事でした)から10年近く時は流れ、今度は中学生になった頃のことです。
姉と動物園にでも行こうかという話になりました。
神奈川の実家から行ける動物園は上野動物園と多摩動物公園の2つ。
上野にはパンダ🐼がいるし、多摩にはコアラ🐨がいる。
さてどっちを見に行こうか?
このときはコアラブームだったこともあり多摩動物公園に軍配が上がりました。
家からバスと電車を乗り継いで多摩動物公園へまで約1時間半強ほどの道のりです。
いきなり途中下車の旅
そこへ話を聞いていた父が「お父さんも府中に行くから車で送って行ってあげるよ」と言ってくれました。
府中は家から動物園までの経路上にあるので、途中まで車で送ってもらえるのはとても助かります。
姉と車の後部座席に乗り込みさあ出発〜。
30分くらい車を走らせると、父は車を広い駐車場へ停車させました。
「もう着いたからここで降りて」
えっ、ここ何処ですか?
ちっとも駅じゃないんですけど。
「ここ府中競馬場(東京競馬場)だから、あとは駅まで歩いて行って」
なんですと?
府中駅じゃなくて府中競馬場(東京競馬場)とな。
そういえば新聞を手にした父とよく似た感じの人がわんさか歩いてる。
てっきり駅まで送ってもらえると思っていたので、競馬場で車を降りろと言う父に怒りがフツフツと湧いてきました。
確かに父は府中へ行くと言っただけで「府中駅まで送る」とは言っていませんでした。
またこのパターンか〜い!
はぁ?車なんだから駅まで送ってくれたっていいじゃない!
内心そう思いましたが、親に向かってはっきり文句を言えない気弱な自分。
今みたいにスマホで地図を確認することができない時代でしたので、知らない場所に放り出される不安は現代の比ではありません。
「ここで降りろって・・・。駅までの道なんてわかんないよ!」
そう訴えたのですが、父は窓の外を指さして、
「たくさん人が歩いてきてるでしょ?あれ皆駅から来た人たちだから、この人たちと反対に歩いていけば駅に出るよ」
サラッと言うな、この親父。
父の気持ちはもう競馬にがっつりと持っていかれており、かわいい娘たち(自称)をどうやっても駅まで送って行く気がないことをようやく悟りました。
姉はここでいくら父に文句を言っても時間の無駄だということを私よりも早くに悟り、「もういいからサッサと行こう」と促してきます。
もう、なんなの?信じらんない!
私はプンスカしながら車を降りました。
そのままプンスカしながら、新聞片手の人並みを逆流するようにズンズン歩いていきます。
10分くらい歩けば駅に着くだろうと簡単に思っていたら、これがなかなか歩いても駅にたどり着かない。
中途半端な距離の所で車から降ろされたことにまたイライラプンスカ。オノマトペばんざい🙌
20分ほど歩いてようやく京王線の府中駅に辿り着きました。
そこから電車に揺られ多摩動物公園に着く頃には、私の怒りはすっかり治まっていました。
ちなみにこの時のルートはこんな感じです👇
![経路略図](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/64919260/picture_pc_0d0468a034eb3351506c175c80e3ccb0.jpg?width=1200)
こうしてようやく辿り着いた動物園では、コアラを見たり日本では唯一多摩動物公園にだけあるライオンバスに乗ったりして動物園を満喫♪
多摩動物公園は広大な敷地に自然の地形を生かすように獣舎があるので、アップダウンがあり、全部を回ろうと思うとけっこう歩くことになります。
なので、もし行かれるときは歩きやすい靴で行かれることをオススメします。
父の戦利品
子どもの頃、競馬に夢中になっている父のことは正直あまり好きではありませんでした。
家で馬を飼うという夢は、父によって瞬時に砕かれましたし(根ニモッテマス)、動物園へ行くときには電車の府中駅じゃなくて府中競馬場(東京競馬場)で車を降ろされましたから、私の中では競馬に興じている父には、正直あまり良い印象がありません。
20歳を過ぎてギャンブルができる年齢になってから、たまに一緒にやってみようかな?という気分になって、年末の有馬記念だけは何度か父のアドバイスを参考に馬券を買ったことがあります。
年末になるとテレビでも今年最後のレースを見逃すな!みたいに煽ってくるし、父だけでなく、競馬好きの上司までなんだかソワソワしてくるので、こっちまで落ち着かなくなりつられて年内最後のお祭りに自分も便乗し、見事にスッてましたww😅
一攫千金は甘くない!と身をもって学びましたね。
父は競馬だけでなく、パチンコも少しやっていましたが、大金を注ぎ込むようなことはしていなかったと思います。
いつも「お父さんが賭けてるお金なんて少ないもんだよ」と言っていたので、娘としては、その言葉を信じたいと思います。
たま〜に「競馬で勝ったから」と言って、母には内緒でこっそりお小遣いをくれたり、パチンコで勝ったときには、お菓子を紙袋いっぱいに持って帰ってきました。
「お父さんの戦利品だ〜」
そう言ってパチンコでとってきてくれた板チョコやポッキーは、なぜか特別な感じがしました。
「チョコ食べていい?」
「いいよ。食べすぎると鼻血出るから気をつけてね」
「はーい」
子ども(5・6歳の頃)にとって板チョコ一枚を一人で食べられるのはサイコーに幸せで、まさにこんな感じで食べました。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/64871481/picture_pc_8ef10cf5f2a33e3161b9b5001d0312d1.jpg?width=1200)
チョコを食べ過ぎると鼻血出る、親からよく言われましたが、本当にそんなことあるのでしょうか?
板チョコ一枚を頬張り完食して鼻血を出したかどうかは憶えていませんが、チョコを包んでいる銀紙をペリペリと破いて、CMのタレントみたいにパクッと齧り付いたときの甘い幸福感は、紛れもなく父がくれたものでした。
11月は父の誕生月です。
6年前に旅立ってしまいましたが、生きていたら87回目の誕生日を迎えます。
今まで一人で寂しかったと思うけど、今年はお母さんもそっちへ旅立って行ったから、これからは二人でお祝いできるね。
絶対、お母さんが来るの待ってたでしょ?😊
お父さん、87回目のお誕生日おめでとう。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!