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通り雨 #描写遊び

ポツリと落ちてきた雫が、頬を濡らすのと、雨の匂いを感じたのは、ほぼ同時だった。

ふと空を見上げてみたけれど、空は明るく雨なんて降りそうな色ではなかった。

斜め前に向かって手を伸ばすと、またポツリと落ちてきた雫を感じる。
次の瞬間には、大粒の雫がポツポツと降り注いできた。

傘など持っていなかった私は、慌てて近くの店の軒先に避難する。

空は明るいままなのに、光と混じって降る雫は、とてもキラキラとしていた。
斜め前に手を伸ばすと、いくつもの雨粒が私の手を濡らしていく。

傘を持っていない人々は、急ぎ足で通り過ぎていった。
私はそんな人々をただだまって見送った。

大粒の雫たちは、少しずつ勢いを弱めていく。
さっきよりも空が明るくなり、雨の匂いもまた光の中に溶けていった。


参加させていただきました。

2021.8.15

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百瀬七海
いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。