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【インタビュー】縛りの中で、「変化」を愉しむ。/読書珈琲リチル・店主 宮地孝典さん

雑多な街、今池の路地裏にある読書珈琲リチル。一見、普通のアパートのようなその建物の2階を見上げると、窓からかすかに漏れ出るオレンジ色の光。そして、お店の扉を開けると、そこには大人の秘密基地のような空間が広がり、「珈琲」「本」「静寂」をコンセプトとした贅沢な「ひとり」時間がはじまります。そんな魅惑的な空間を作り上げ、お店を守ってきた店主・宮地さんに「変化」というテーマを軸にお話を伺いました。



読書珈琲リチルのはじまり

写真:http://www.litir-books.com/guide/


――まずは、少しお店のことを教えてください。読書珈琲リチルさんは今年の10月1日で開業してから13年目とのことですが当初からお店のコンセプトは変わらず「珈琲」「本」「静寂」だったのですか?

いえ、最初は古本屋とカフェを併設した店で物販がメインでした。私語禁止ではなかったので「静寂」というのもなかったですね。

――そうなんですね。今と昔ではガラッと変わったということですか?

ガラっと変わったというよりは、僕の中ではグラデーションのように変化していったイメージですね。

もともとは本が好きだったこともあり古本屋をはじめる計画でした。でも、それだけでは食べていけないということで、そこにおまけ程度で珈琲コーナーを作ったんですよ。次第に古本よりも喫茶のほうが売上に繋がることが分かって、色々メニューを出していきました。

そんな中、本を一人でゆっくり読まれているお客さまと、カップルやご夫婦、友達同士で来店され、おしゃべりされる方とが混在していて、それぞれの居心地を考えるとどちらかに絞らないといけないなとはずっと思っていました。

あと、珈琲も、もともと興味があったわけじゃなくて。ただ、少しずつ知識が入ってきて珈琲の淹れ方とかを勉強していくうちに、だんだん自分的にも沼にはまっていきました。もちろん本も好きなんですけど、途中から自分の中でだんだんと珈琲の比率があがっていったんですよね。

結果、「本」というお店の軸を考えると、静かにしたい人に焦点をあてるべきだろうと思って。そこに自分の中で高まっていた「珈琲」というカテゴリーが合致したんですよね。色んな過程を経て、最終的にはこういう形に落ち着いています。  


変わっていないように見えて、変わっていかないと生き残れない

写真:http://www.litir-books.com/guide/


――「変化が常態」というのが宮地さんのモットーだと伺いましたが、こう考えるようになったきっかけって何ですか?

もともとは、「変化が常態」って、僕が前に勤めていた会社で上司からよく言われていたことなんですよね。当時僕は小売の現場でマネージャーとして店頭に立っていたんです。雑貨とか、服とか本とかを取り扱う中で、やっぱり時代に合わせて売場を変えたり、売る物を変えたり、値段を変えたり、そういうのを常にやっていかないとだめだ、という意味合いで上司からずっと言われていました。

今やっているこのお店は、以前の会社とやっていることも業態もまったく違うけれど、こういうお店だからこそ、変化してないようにみえて実は変化していかないと、対応していけない。生き残っていけないと思っているんですよね。

真相は知らないですけど、大手のお茶のメーカーとかもちょっとずつ味を変えているらしいと聞いたことがあるんですよ。こういうお店も、やっていることは一緒に見えるかもしれないけど、ちょっとずつ店主が服装を変えてみたりとか、メルマガやってみたりとか、本業のことでいうと珈琲の入れ方を変えてみたりとかしています。

当店は小さいお店なので、僕が変わっていくことでちょっとずつお店の雰囲気って変わっていくんですよね。ですので、基本的には僕が、常々新鮮な気持ちでいようという心がけはあります。

――そういえば、宮地さんはジムにも通われていましたよね?それもこの心がけが影響していますか?

そうですね(笑)ジムは僕の中で大きくって。やっぱりそれによってだいぶ内面が変わったので、たぶんそれがお客さまに雰囲気などで伝わっているところが大きいんじゃないかと思います。

――具体的にはどんな変化があったのですか?

まず、外面の変化が大きいですね。ジムに行き初めてすぐに10キロ痩せました。それで体が軽くなったら心も軽くなって。今はその状態に慣れてしまったのですが、ジムに行き始めた直後は、テンションがめちゃめちゃ上がりました(笑) こういう小さいお店ってうちに限らず、スタッフの雰囲気ってなんとなく伝わるじゃないですか。イライラしてやってるなとか(笑)、適当にやっているなとか分かるじゃないですか。前と比べて店主の雰囲気という面では、いい変化があったかなと思いますね。  


続くお店、続かないお店。明暗を分ける要素の半分は「運」

写真: https://www.instagram.com/litir_coffee/


――リチルさんは、扉をあけるまでお店の中が見えないので「入るのに勇気がいる」と思われるお客さまも多いのかなと思いますが、どうしてこのスタイルを?


もっといい場所、例えば一階のもっと目立つ場所とかでやりたくないことはないんですけど、やっぱり今のこういう場所は安いですよね、家賃。

ーーでも、こういう裏路地のような場所は、お店のコンセプトとしてもすごく素敵な気がします。あえてこういう場所を選ばれたのかと。

あえてという気持ちもあるのは本当です。だけど、こういう感じの場所で、設備的な面でももうちょっといい場所はないかなと探しています。

ただこれも、あとづけというか結果論ですけど、こういう入りづらい、ちょっと見つけづらい場所っていうのは、エンターテイメントとしては、面白いかなって。

――エンターテイメントですか?(笑)

お店の外観は普通のアパート。でも扉を開けたら全然ちがうやん!っていう感じは面白いのかなと思って(笑)

――確かに、ちょっと秘密基地のような雰囲気がありますよね。そして扉を開けるまで席が空いているかどうか分からない (笑)

そうそう(笑) そうなんですよね。
店内の様子が見えないので、よっぽど扉の前にセンサーをつけてみようかなと思っていました。トイレとかによくある赤とか緑とかのランプを(笑) お店に入ってくるまで席の空きが分からないというのは、申し訳ないので。まあそういうシステムはあってもいいのかなとは思いますけど、今のところはなしでやっています(笑)

――たしかに、お店の中の様子が分からないとどうしても扉を開けるのには勇気がいると思うのですが、こうして今の店舗でも長くお客さまに愛されて続いているわけですよね。やっぱり、その背景にあるのはお店の中が見えないからこそ知りたくなるという心理的な部分や、お店の雰囲気・魅力に惹きつけられた根強いファンがいるということでしょうか?

うーん、言われたことももちろんあるとは思うんですけども、それだけではなくて、色んな要因が重なっていると思います。

続くお店とすぐにダメになっちゃうお店の違いって、もちろん実力とか、おいしいというのは大前提として、経営をする技術だと思うんですよね。珈琲が好きで、おいしい珈琲を入れられるからといって、続くお店ができるとは限らない。

あとは、どこまで人間力をあげていけるかというのと、SNSをどうやって発信するか。あとは、お金。身も蓋もないお話をすれば、お金をどう使うかですね。一気にばーんって使うのか、小出しに使うのか。

それから、お店が続くのって運の要素もすごくあると思うんです。

こういう立地を見つけられるかも運だし、子供がいないから自由にできるとか、共働きのおかげで暮らせているとか、親を介護する必要が今のところないとか。そういう意味で僕はラッキーな境遇だと思っているんですよね。例えば、いくらいいお店を作って、店主さん自体もいい人だったとしても、周りの事情でお店を開けられなくなるとかってあると思うので。そういうことを含めた運というのはあると思うんですよね。ですので、続けてこられた理由は、半分運、半分実力。

縛りの中で、「変化」を愉しむ ~これからの読書珈琲リチル~

写真: https://www.instagram.com/litir_coffee/


――リチルさんがある今池は、41年続いた映画館名古屋シネマテークさんが2023年閉館したり、一方で都会的なマンションが次々と立ち並んだり、どんどん変化してきていますよね。逆に、お気に入りの場所だからこそ、読書珈琲リチルさんには、いつまでも変わらないでいてほしいと思っているお客さまって多いと思うんです。そんなファンの期待を背負って「変えない部分」とやっぱり生き残っていくために「変えないといけない部分」もあると思うのですが、その「変えること・変えないこと」について宮地さんの中で何か軸はありますか?

軸ですか。そうですね、「本」と「珈琲」というコンセプト、単純に言えば、ここを変えなければあとは変えてもいいと僕は思っています。もちろんお客さまの気持ちはすごく大切にしたいです。

売上ってクラウドファンディングのようなものだと思っているんですよね。通販もですけど、応援してくれている投げ銭のようなイメージでしょうか。

お客さまにとっては、珈琲とか静かな時間への対価として払っていただいているという気持ちもありつつ、僕としては応援していただいているという感覚が強いんですよね。クラウドファンディングとして続けていくためのお金をいただいているという気持ちが強いんですよね。

だから、もちろんそのお客さまが、今のこのお店の形を好きでいていただいていて、こういう形を続けていってほしいという気持ちはすごく大切にしたいと思っていて。むしろそれがないと続けていけないので。趣味でやっているわけではないですからね。

先ほども言ったように「本」と「珈琲」というコンセプト、ここを変えなければあとは変えてもいいと思っています。お客さまが求めている柱はそこだと思うので。あとは「静けさ」かな。その柱さえ変えなければ、あとは変えてもいいというか、何かしら変わっていきたいなっていうのはありますね。それはお客さまのためでもあり自分のためでもあるんですけど。ずっと同じ仕事をやっていると、性格的に飽きちゃうので(笑)。

もちろん昔ながらの喫茶店みたいなところで、ずっと同じ値段で同じことをやっているお店も尊敬します。そういうところが落ち着く気持ちも、変化なくやっていることがすごいことも、もちろん分かるんです。でも僕が目指しているのは、性格的にもそういうタイプじゃないんですよね。ずーっと同じ感じでやっていたいっていう気持ちが全くないので、どんどん新鮮なものを注入して、アドレナリンを出していかないと、続けられないんですよね。

――なるほど。宮地さん自身のためにも「変化」していく必要があるということですね!

毎日、刺激が欲しいんですよね(笑)だから何か毎日新しいことをして、それに何かしら反応があるという刺激が僕は欲しい。それには、そういう刺激がないと生きていけないという僕側の理由と、あとはやっぱり「これをこう出してきたんだ!」ってお客さまを驚かせたいっていうエンターテイメント的な理由があります(笑)

例えば、いわゆる“ブックカフェ”みたいなイメージがあるじゃないですか。最近だと本を置いて珈琲も出しているお店ってよくあると思うのですが、そのよくあるお店のイメージから、何か外していきたいんですよね、僕は(笑) 絶対はずしてやろうと思っている(笑) 

だけどあまりにも外しすぎると、やっぱりお客さまは「何やってるの?」って、ついてこられなくなってしまうので、「本」、「珈琲」、「静寂」というコンセプトは軸として持ちつつ、何か外したい。この3つの軸は僕の縛りとしてあるんだけども、その縛りの中で、いかにお客さまの期待や予想をいい意味で裏切っていきたい、見たことがないものを出していきたいという想いがすごくありますね。  


後記


「外から得た情報を自分なりに解釈し、リミックスして出すことが好きだ」とインタビューの中でお話しされていた宮地さん。メルマガ「リチルからの手紙」や、「散歩の記憶」という宮地さんのお散歩記録スナップが並ぶInstagramアカウント( https://www.instagram.com/litir_sanpo/ )にもすべてにそこに行きついた背景がありました。面白いです。今回のインタビューもまた宮地さんの中でのリミックス材料として、今後の「変化」のカケラになれると嬉しいです。


読書珈琲リチル
愛知県名古屋市千種区今池4丁目3-17 柴田ビル2F
営業日はインスタグラムのカレンダーをご確認ください。
Instagram  https://www.instagram.com/litir_coffee/


インタビュー&文:森岡麻衣
写真:読書珈琲リチルSNSより


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