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桃谷蛙月
2020年4月16日 23:41
それが、雅巳なりの駄洒落だと気づく頃には、もう遅かった。 雨が降りそうな日、雅巳はいつもキャンディを僕に差し出した。「もう直ぐ降るから」 なんで用意しているんだよ、とか、折り畳み傘の一つでも出してくれたらいいんじゃないの、とか、言いたいことは山ほどあるけれど、全部飲み込んで差し出されたキャンディを受け取った。見慣れた棒付きキャンディ。乱暴にフィルムを剥いて口に含めば、人工的なグレープの味が
2020年4月11日 19:22
青春とは綺麗に言ったもので、結局のところ病と大差ないのだろう。渦中はそれが世界の全てだと思い、過ぎ去った後は免罪符になる。あの時は青春だったのだと、レッテルを貼って仕舞えば、綺麗なまま取っておける。綺麗な、病気だ。 そんなことを一人でぼやく私も、例に漏れず、青春という病の患者だ。厭な事に、本当に厭な事に。 それを自覚したのはいつだったか、多分、心待ちにするようになってからだろう。彼のS N
2020年4月11日 16:25
私たちは、いつも二人で遊んでいた。 お爺様の家の時計は、家の大きな柱にも負けない、大きくて立派な木でできている。鈍い金色をした振り子が、ガラスの向こうで大きく、規則正しく揺れていた。「この振り子にしがみ付いて遊べたら、きっと楽しいと思うわ」 大きな目で振り子をじっと眺めながら、沙耶が言った。「ガラスを壊して仕舞えば、遊べるかしら」「駄目だよ」 私がそう言えば、沙耶は大きな目をゆるりと