ツラツラ小説。 同じ暮らしと温かい世界。
小説。 同じ暮らしと温かい世界。
同じ時間に家を出る。
多くの人が似たような格好をして、互いを値踏みし合い、苦痛を味わいに行く。
SNSで似たような境遇の人を探し慰め合い、傷を舐め合いながら、今日も同じ暮らしを始める。
「時間がいつのまにか過ぎたよなーあの頃はさぁ〜」
アッコが、あの頃は〜って歌ってた理由が分かり始めたこの頃。思い出というものが神格化してきた日。あの頃にはもう戻れないんだぁという現実がはっきりしてきた。
例えば、あんなに夢中になってやっていたテレビゲームが億劫で起動しなくなった日。例えば、理想が壊れ次々と現実に変わり、少しずつ周りに期待をしなくなった日。大人になるってこういうことなんだって思い知らされた日。1日1日だけでは、変わらないようで、変わっていったよ。たぶん僕も。
「お前だけは、あの頃のままでいてくれよ。頼むから。」
変わらないテンションで、同じ暮らしの中で、あの時見えていたものと同じ感情で、同じものを見ることができる。そんな人が私は宝物でありたい。
________________________同じ暮らし。
かくして僕は、義務教育も、高校生活も大学生活も終え、人並みに恋愛だったり失恋だったり、喧嘩だったり、他人を傷つけたり傷つけられたり、先生に反抗したは良いものの別に度胸も知識も何もなくコテンパンにされ反省文を書くような、ごく普通の一般的な学生生活を終えた。そして、意外にも残ったものは、思ったより会わなくなった友達と、車や一人暮らしをするためのお金だけだった。劇的な刺激もなく、高校の時に永遠を誓った彼女はあっさり違う男に取られた。夢を見て育っていた私たちは、現実に放り投げられた。残りの時間を自分のために生きてるのか、税金を払う国のために生きてるのか、明確な答えが出ないまま息をしている。
「私はどこから来て、どこへ行くのか」
タイトルを呼ぶように、私は何かの登場人物になる。振り返る私。前を向く私。
私はどこかへ向かう。片道切符で。
________________________温かい世界。
目を覚ますと、温かい世界にいた。
ホストマザーは、僕に、休息を取るように言った。どうやら僕は、頑張りすぎていて心配に思った学友が僕をホームステイに送り届けたらしい。ゆったりとした時間が流れる日本とは違う街。時の流れや、空気まで何もかもが違う生活。起きてホットミルクを飲んで、黄昏ていると、見覚えのある街並みが道路を横切っている。何台も何台も通り、目を背けても意識に入り込んでくる。やがて、ホストマザーが僕にこう言った。
________________________同じ暮らし。
自宅の庭で目が覚めた。僕は鍵を忘れたことに気づきいつの間にか家に帰り、そして、庭で眠っていたらしい。家の鍵は空いていたが、何も盗まれてはいないようだった。僕はいつものように家でニュースを見る。日々、多くの人が、生まれ、死んで、行方不明になって、詐欺に遭っている。飽きもせず淡々と告げるニュースキャスター。やがて、デパートの地下食品街の特集が始まり、お腹がすいた僕は、コンビニへ向かう。デパートの地下にあるようなものは買えないけど、僕はコンビニで味の濃い体に悪そうな一握りの夢を買うのだ。
________________________温かい世界。
僕はいつまでここにいるだろうと思うようになってきた。生活から離れたところで生きていると、7割くらいの安心と、どこかに置いてかれないかの不安に襲われる。僕はどこに行くんだろう。これからどうなっていくのだろう。不安に苛まれる。不安から離れているはずなのに。僕は気づいてくるとよく頭痛に襲われる。ホストマザーはいつも笑ってる。だから、安心してしまう自分もいる。でも安心しちゃいけない気もしてて、なんだか、バaggつってきてるんじゃnkなって思うようnなる。たぶん気づいてはいけないのだ。
________________________同じ暮らし。
反省する。コンビニ店員と本当にちょっとしたことで口論になった。今から戻って謝ろうか、いやでもそんなことして、気持ちが晴れることではないのだ。ただの自己満足になってしまう。温厚に生きてきたから怒るなんて相当なことでもない限りないはずなんだけど、ダメだった。僕は、少しずつ変わっていってるのかもしれない。望んでいた変わり方とは違う。しかし、人間は成長していく過程で価値観やこだわりみたいなものが少しずつ変化していくのだと思う。だから、これからの僕がこれから生きていくために選んだ道なのかもしれない。昔を思い出すことが増えた。違和感を感じている。
「ハリボテのような毎日。あーディスイズ、、、ハリボテ?、、ハリボテ……あーー、にあー、、フェイク?エブリデイ?。
ドゥーユーアンダースタン?」
________________________温かい世界。
のどかな街並み。どこまでも続く緑。日本に馴染みのない世界。まだ見たことのない景色。いつまでも笑ってるホストマザー。
不思議な世界に入った。これが海外なのか。
これが求めてたものなのか。これが夢なのか。これが変化なのか。詰め込んで詰め込んで、圧縮して、コンパクトに持ち歩いて、使い所がないまま、使用したティッシュとかと一緒に、ゴミ箱に捨ててしまった。
その時、こんな小さな何気ない行為がきっかけで、この温かい世界に同じ暮らしが介入してくる。僕も僕も繋がり。何気ないこの瞬間。今このタイミングで、まるで狙っていたかのように。
世界に音楽が流れて、ホストマザーは
「この世界は存在しない」と言っていて、
全て同じ暮らしの中の空想ってだけで、
ニヤニヤと僕は笑っていて、
同じ暮らしの中で僕は笑ってて、
でもその時にアメリカの僕は泣いていて、
あーそうか、これ夢なんだって泣いてて、
朝、出勤して夜に帰る生活に限界を迎えていたことを実感して、コンビニ店員と喧嘩して、母に甘えて、でもそれでもどうしようもなくて、世界ができて、同じ暮らしが終わって、温かい世界に帰ってきて。
遠い昔に親友に言われた言葉を
僕は最も容易く裏切った。
終わり。