【小説】うしろの正面どっちだ?【ショートストーリー】
またか…
玄関で靴紐を結んでいると、頭痛と共にある映像が浮かんでくる。
人が階段に立っている映像だ。
その映像にある階段は、俺のすぐうしろにある。
いつからだろうか…
玄関で靴紐を結び、出かける準備をしている時に必ず起こる。
幽霊…?
俺は今まで幽霊というものを見たことはなかったが、こう頻回に起こるとそれを疑わざるを得ない。
はっきりとした映像ではないのに、女という事だけはわかる。
悪い感じはしない。
俺を見守っているような、そんな感じが伝わってくる。
いつも出かける時にしか現れないのは、俺が出かけるのが寂しいからなのだろうか?
しかし、気になる事がある。
はじめの頃は、階段の1番上に立っていたのが、最近は真ん中辺りにいる。
俺に近づいている?
何の為に?
そんな疑問が残ったまま、数日が過ぎた。
いつものように靴紐を結んでいると、あの現象が起こる。
今日は階段の下まで来ている。
いつもと違う強い視線を感じる。
だが、悪い感じはしない。
俺に何か伝えようとしているのか?
何かの警告か?
明日になったら女は…
不安を抱えたまま、朝を迎えた。
いつもと違う空気を感じる。
悪い感じはしない。
玄関へ行き、いつものように靴紐を結んでいると、頭痛と共にあの映像が浮かぶ。
凍りついた空気が俺を包む。
女はすぐうしろにいる。
これは悪い感じがする…
そう思った瞬間、強い力で体が引っ張られ、ふわっと浮いた。
なんだこれ…
浮いたのか?
ぼやけて何も見えない…
だんだん視界がはっきりしてきた。
目の前には、うずくまっている俺がいた。
え?なんで俺がいるんだ…?
まさか死んだのか?
嘘だろ…!
うずくまっていた俺は急に立ち上がった。
あれ?生きてる…
でも俺はここにいる…
俺は、俺の体を触りはじめた。
何やってるんだこいつは…
そんな所触るんじゃねーよ…!
そして、こっちを振り向いた。
「んだよ!お前のナニ、小せえじゃねえか!こんなんじゃ女も抱けねえよ!!使えねーな」
酷い暴言を吐かれた瞬間、俺は俺の体に戻った。
な…なんなんだ今の…
ハッとした俺は自分の体を確認する。
「俺のだ…」
その日以来、女…男は階段に立つ事はなかった。