知り、学び、考えること。歴史は繰り返さないこと。「黒い司法 0%からの奇跡」より
今「あなたはこれまでの人生で、差別をされたことがありますか?」と聞かれたら、なんて答えるだろうか。大多数の人がNOと答えると、わたしは思う。
さらに、「肌の色で差別されたことがありますか」「普通に歩いているだけで警察に止められたことがありますか」「何もしていないのに(何もしていないといっているのに)疑われたことはありますか」と聞かれたら、NOと答える人は一気に増えるだろう。
日本は世界の中でも小さな小さな島国だ。人口の多くは日本で生まれ育った日本人で、両親も祖父母も日本人。日本語を読み書きし、日本から出ずに一生を終える人も多いだろう。
歴史を振り返ると、何度外国が訪ねてきても(それがたまに暴力的な行為でも)、ここまで小さな国が文化を持ち、長い歴史を作り上げてきたのは、素晴らしいし誇るべきものだと思う。
だけれど、人種差別に疎い。今でこそハーフやクウォーターが増えたなと感じるが、昔は周りを見渡せば日本人ばかりだった。肌の色が違う、話す言葉違う、見た目が違うことは当たり前じゃなかった。むしろ、その数が少なすぎて、そもそも世界には肌の色も話す言語も違う人がいると認識するのは、もっと大人になってからだろう。人によっては、一生向き合うことのない課題なのかもしれない。
ただ、世界には肌の色が違うだけで、生まれた瞬間から絶対的に弱い立場に置かれたり、差別をされたりすることがあった。
いや、もしかしたら、「多様な社会」とは口ばかりで、わたしがまだ知らない今もどこかで行われているのかもしれない。
「黒い司法 0%からの奇跡」は、1980年代のアラバマ州で冤罪なのに死刑囚となった男性と、「黒人」というだけでまともに扱われなかった死刑囚の弁護をし続けた男性の話だ。
出演は映画「ブラックパンサー」の悪役で一躍有名となったマイケル・B・ジョーダン、映画「Ray/レイ」でアカデミー賞主演男優賞を受賞したジェイミー・フォックス、映画「ルーム」でアカデミー賞主演女優賞を受賞したブリー・ラーソンなど。
この映画のあらすじで注目したいのが、「1980年代」と「アラバマ州」ということ。
1980年代とは、ほんの40年前。わたしが生まれる前ではあるものの、大昔というわけでもない。この10年後にはインターネットが登場するのだから。そんな時代にまともな証拠もないまま、死刑囚として牢屋に入れられていた人が、一人だけでなく大勢いるのだ。
そして、場所が「アメリカ・アラバマ州」だということ。昔からアメリカは南部に白人が多く、多種多様な人がいることを受け入れ発信してきたのはいつだって、ニューヨークやロサンゼルス。アメリカ南部は同じアメリカでもまだ黒人差別が根強く残っていたのだ。
ここで言いたいのは、死刑を廃止しろとか考え直せとか、そう言ったことではない(わたしは死刑は反対だけれども、議論がつかないため割愛する)。
確かに、人を殺めてしまったり危害を加えてしまったらそれなりの罰を受ける必要がある。ただ、マイケル・B・ジョーダン演じる弁護士が次々と会うのは、まともに裁判もされず、確固たる証拠もないまま、死刑判決になった黒人なのだ。
「俺たちは生まれた時から罰を受けている」
涙が出た。わたしは一生、彼らの辛さや苦しみはわからない。何が法の下の平等だ。裁判をすればどこまでも圧力で不利になる。全ては白人のおじさんの手の内で動かされている。
2時間16分の上映中、どうしたらいいかわからなかった。もしかしたら、今この瞬間にもただ生きているだけなのに、差別を受け続けている人がいる。見た目だけで怖いと思われたり、中身も知らないのに軽蔑されたり。
ただ、どうしたらいいか考え続けた。答えが出るはずもなかった。
わたしたちができることがあるとすれば、歴史を知り、歴史を学び、原因を考え、そうしないようにすることだけだ。
だって今からアメリカに乗り込んで「そんなのやめてください!」なんて言ったって、変わりはしない。残念ながら市民権もないのだから。
わたしはこの映画を見て、心が痛んだ。そして、アカデミー賞で白人ばかりがノミネートされていることを批判する「ホワイト・オスカー」の意味や、黒人が誤って撃ってしまい亡くなる事件が大きな話題になる意味を再確認した。
日本でも、肌の色で職質をかけられたり、いい思いをしない人がいるとよく耳にする。実際にわたしの友人も日本人(黒人と日本人のハーフ)なのに常にパスポートを携帯していると聞いた。
これ以上、差別や冤罪がなくなるよう、私たちができることは、学んで、考えること。「黒い司法 0%からの奇跡」はそのきっかけを私たちに与えてくれる作品だ。
「黒い司法 0%からの奇跡」(2020月2月28日公開予定)
出演:マイケル・B・ジョーダン、ジェイミー・フォックス、ブリー・ラーソン、