青天のヒーローたち
汗臭い泥臭い人間臭すぎるヒーローたちと詰めかけた大勢の観客が笑っていた。
近所じゃないけれど遠くもない寺で
時折大阪プロレスの興行が来ると知ったのは
古くから縁あるラジオ局の某番組での告知でだ。
プロレス(&演劇)ファンを公言するDJは
毎週末の関西近辺での興行を読み上げる。
メジャー団体は全国を廻っていたり
どうしても関東中心になったりするから、
告知は自然とインディーの団体のものが多くなる。
聴きながら毎週「とほほ」と口に出すのはばかにしているからではない。
むしろ逆。よく知っている(とも言い切れないけれど)から。
中でも大阪プロレスの告知は多い。
つまり常にどこかしらでやっているということ。
どこどこの企業の祭とかスーパーの駐車長でのイベントでとか学園祭とか、
勿論、当然、有料のビッグマッチもあるけれど。
「え、そんな試合日数多いん。毎週やん。たいへんやん」
「え、また無料」「何。ちびっこプロレス教室って」とか思って
毎週「うおう」となる。
数多く観てきた訳ではない。
でもそのこれまでというか、
ミナミに持ち小屋(会場)があったときだとか
しんどいときだとか
もっとしんどくなっていたときとか
いろいろ見たり聞いたりしてきて知り合いがゲストで出たりもしていたから。
まさか近所じゃないけれど近所にしかも寺に来るとは。
前回は見逃した。嘘。「興味はあるけど別にいいや」だった。
今回も「お、行こう」からの「もうええかな」でも「ま、行ってみるかな」なんて仕事を中断して歩いて出向いてみた。とある日曜日のこと。
ものすごい晴れた真っ昼間、
お寺の駐車場には近所から来た人やファミリーや寺関係の人や
着物など着た檀家的な人やデッカいカメラを提げた撮り鉄ならぬ撮りプロ(そんな言葉はない)を含む熱い追っかけの人やぎゅぎゅっと集っていた。
試合前からもうお腹いっぱいである。
お子さまファンを押しのけて写真を撮るええポジションをとろうとしているひと、
住職に「このたびは呼んでくれてありがとうございます」と過剰にごまをすっているファン、
熱量強すぎる追っかけのうるさすぎるコール、
「おいおい」すぎて「……」。
有名どころの選手がリングサイドや控室付近でぼーっとしているのも
「おいおい」。
昼、太陽の下の覆面にはなんだかいつも以上に哀愁を感じる。
くいしんぼう仮面やえべっさんに至っては
貼りついたマスクの笑顔がどこかジョーカーみたいにすら見えもして、
いやいや、深読み、こじつけ、皆のアイドル。
てかブラックバファロー、変わらないね、お元気そうでなにより。
試合前にはこういったイベントだからかリングアナによる前説があって、
コールの練習などに地元民追っかけ共に盛り上がる。
ブーイングの練習で「これだけ盛況となったので来年からは有料大会にします!」のあおりには笑ってしまった。
でもね、
いざ試合が始まると、皆、皆が、しんっと、
しんっとわぁっと、
ちょっとびっくりするくらい行儀よく真剣に観て盛り上がっているからグッと来た。
老若男女、詳しい人も、
はじめて観ただろう人も、
興味がある人も、特にないような人も、
熱い人も、つきそいの人も、
皆、とてもとても真剣に観て、
声を出すところでは出したり、笑ったり、熱くなったり、している。
熱心な追っかけの度がすぎるコールだけはうるさい。
けれど。これも御愛嬌として許せるぎりぎりレベルでもあるか? むむ?
選手たちは、全3試合、シリアスなもの、コミカルなものを織り交ぜ、見せてくれた。
お笑いというイメージだけを持たれているかもしれない、
でも、体も、技術も、とても、とてもある。
この場とこの場の観客に向けた内容を、ちゃんと見せていた。
客が多い方向に、とか、なんだか、とても、真摯に。
ちびっこプロレス教室ではトークも超流暢に、
いじりはするけれど誰も傷つけない笑いで盛り上げる。
他団体からこの団体に来てずっと長くやってる牛とか虎の覆面の2人は
「50歳です!」なんて言いもしていて、
やはりどこか哀愁めいた空気はなくはない、
でもでも、来ていたお客さんが皆ほんとうに楽しそうで、
わたしはなんだかじぃんとした。
ここで生きるということ。こう生きるということ。生きているということ。仕事人として。プロレスのやり方ややる場所や方向はたくさんあって、
メジャーやインディーだとか、いろんな意味でお金の問題など、
いろいろある、ありすぎる。
でも。ここで。
ばかにするのでも過剰に褒めるのでもなく、ただ、心の底から「いい生き方やな」「いい生き方なんとちゃうかな」などと思いもした。
他人の気持ちなんてましてや仮面の下の気持ちなんてわかりゃしないけど。
現社長の、ゼウスも、よかったな。
社長やねんよなあ。すごいなあ。
なんだか感慨深いというか遠い目にもなる。
ええ表情(かお)してた。
彼がマイクを持ってガラガラ声で叫んだ同団体のキャッチフレーズ
「激闘! 感動! 爆笑!」と、
彼がずっと使っているコール「ワッショイ!」がとても映え眩しかった。
とある青天の、日曜日。
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構成作家/ライター/エッセイスト、
momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。
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