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バス停 誰そ彼

そのバス停は妙だ。
きっとなにかがある。
いや、ない。
わたしが勝手にそう思い、
思い込んでいるだけでしかない。
 
またバスを待っていたその日も。
また目のまえでバスが行ってしまい
20分寒空の中ベンチに座っていたらまた現れたので身構えた。
訊かれる。
「まだ来てない?」
「来てないー。あと、5分くらいかなあ」
同じバス停、同じ曜日、同じ時刻。
でも隣に座ってきたのは以前とは違って以前よりも上品な雰囲気の老女。
二度遭った雪女じゃない。今度はなんだ。今日は誰だ。
 
この街のひとかと訊かれ隣の大阪からだと答えるとふわりゆらりとおっしゃる。
「わたしもこっちの者じゃなくてねえ。
ちょっと前にこっちに住みだしたのやけどねえ」
身の上話的な奴が来るのかな、と思った。
違った。違うけど違っていなかった。
「あれかしらねえ、よそ(違う土地の意味)から来ると、なんかよくないことが起こるのかしらねえ」
 
「?」
 
わたしは思わず彼女の顔をみた。
 
彼女もほぉっとこちらを見ている。
 
「なんだか最近よくないことばかり起こってねえ」
「今年に入ってからなんだかねえ」
「なんだか人が信用できなくなってるの」
 
ぎゃー!
 
口には出してない出さない。
 
こちらもぽつぽつだがゆっくり前向きな言葉を彼女に返す。
気休め程度にしかなれへんな、なれへんよなあ、と思いつつも、
「年が変わったから、きっと、いい風に行きますよ」
「続く時は、続くもんねえ。でも、続いたから、これからはええこと起こるはず」
「ねえ、人ってねえ、信用出来ひんことのほうが多かったりするよねえ、ほんま。
でもそれでもきっとお人柄をわかってくれる方も居ますよ、うん、きっと居る居る、大丈夫」
軽い。でもね、今ここで、今このひとがわたしに言葉を気持ちを発している。
だから、言いたかった。うるせえな、軽いくせにうるせえな、偉そうに、と、思いながらも。
 
言葉はあまり届いたような感じはしなかった。
でも、ふわりゆらり、ぽつりぽつりと微笑みが返ってきた。
「いやあ、ええこと言うてくれはる。ありがとぉ」
にこにことかぱぁっとじゃない。でも。
「どこまで乗りはるん?」ふわあと微笑んで先に乗られた。
どこで降りたかは知らない、バス内はどんどん混んでいった。わたしも目的の停留所で降りた。
 
その日電車の中で読んでいたのは禅僧の本。
ふわりとつかみどころがない、なのに、ぎらぎら、ロッキン。あれ何あれ誰。バス停こわい(笑) 何方様も、今日も元気で。


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構成作家/ライター/エッセイスト、
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momo|桃花舞台
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