刻と職人と光
スマホを常にみる時代である。
腕時計を毎日きちんとしているひとはどれくらい居るのだろう。
とは偏見というか思い込みか。
いつからか付けなくなってしまった。
ちょっと整理をしていたら偶然4本くらいいろんなやつが出てきて、
でも全部止まっていたから
「そういや時計の電池交換とか皮製品とか合鍵とか靴修理とかの店できてたっけなー」なんて軽い気持ちで持って行ったのがとある日の午前中。
「まあ持って行ってみるか」「たまにはつけてみるか」
軽い気持ちで仕事の休憩がてらに。
店のガラスの引き戸をあけると職人さんがぱあっと笑顔で迎えてくれた。
控えめだけれどなのに「ぱあっと」という言葉がまず浮かぶような表情。
エプロン姿の、同世代か、
いや、たぶんわたしより年齢は下かもしれない同性の職人さん。
きびきびと対応してくれ、
それがもういいな気持ちいいなって、出会って数秒でもう嬉しい。
「15分くらいで出来ますよ」と言われたが、
いったんお預けをし、仕事の続きをしてから立ち寄る。
全部動くようにしてくれていて、
勿論仕事なのだからあたりまえなんだけれど、
きちんとしたでも押しつけがましくもきつくもなく
自然な感じと対応が仕事ぶりを感じさせるようで、
電池やベルト交換だけだとしても、嬉しいな、素直に思う。
持って行った中のひとつだけは電波時計だったらしい。
電池交換や修理じゃなく光にあてると時刻が合うもの。
とは、説明してくださったことで、知ったのだけれど、
「たくさん持ってきていただいたので、
これ、有料ではないんですが、お越しになるまで光にあてておきました」
ぱあっと。
体の中から「ありがとうございました」と言葉が出てきて出したら
「こちらこそありがとうございました」とまた笑顔が返ってきた。
職人が好きだ。
そう意識するようになったのはいつからだろう。
はっきりと覚えている。
でもこんなところでは語らない語りたくない。いやちょっとは語ろう。
くっそ熱いものを秘めながら感じが悪いほどにぶっきらぼうで武骨で変わり者だと誤解されもしていた人の仕事ぶりがいわゆる職人だったから。
「俺は職人さんなの。せっせこ作ってせっせこ(舞台を)見せるの」
誰がが誰かの仕事をしていること。
そのことそれだけのことそのすごいことが日々力になる力をくれる。
ただ誰かが誰かの仕事をすることがおおきなものに繋がっていたりする。
繋がるときもあるし繋がらないこともあるかもしれない。
けれど、ただ現状今生はひたすらに淡々とそれをすることしかないかもしれないし、それしか出来ないということもある、それが繋がっていることもおおきくあるし、
それぞれが自分がやるべきことをやっているとそれらが集まり力になることも、は、ある。
あたまばかりになってしまうときはからだ大事に出来るだけあったかくして、手を動かし自分のしごとをするとあたまは自然と着いてきて体は動くべきときに動くべき方向へ自然と動き出す。とは、最近よく思うこと。
「光にあてておいたら動き出しました」
同じ街の近い場所に、いや、どこか遠くにも、
それぞれの皆が居て日々自分の仕事をしている。
そのことでたぶん灯はともる。
どうやらたぶんすこしだけ時間を早く進めてくれていたみたい。
その日はいつもより時間に余裕を持って待ち合わせにも行けた。左腕をクッと曲げて時間を見る瞬間が嬉しかった。とは、後付け。見るときは時間のことしか頭にない。でもね、なんだか一日がたっぷり感じられた。気もして、シャキリとする。
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構成作家/ライター/エッセイスト、
momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。
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