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雷獣と仙人 連載中のTabistory最新話も出ていますおおきにねの話

昨夜、獣に遭った。
近所のコンビニ近くの細道を細長い狸のようなものが歩いていて、
傍で三毛猫とおっさんがぼーっと見ていた。
まず猫に気付いて「あ、猫。猫や―」と呼びかけふと目線を下ろすと
狸にしてはちいさくてイタチにしてはおおきいやつがゆっくり歩いていた。
幻ではない。結構長い時間だったから。
悠然と歩いて行って暗がりに消えていった。
三毛猫はぼーっとしていた。
なんだか気まずいのでおっさんとは目を合わさずにコンビニに向かった。
向かいながらあれは雷獣だったのではないかと思った。
害獣、でも、古来よりの書物には妖怪として雷獣と書かれているあれ。
そんなことを考えていたら先日遭った仙人のことを思い出した。
 
なんてことないを通り越した
どぉってことないチェーンの呑み屋というか中華屋のカウンター、
いやセパレートされた席でハイボールを吞んでいたときのこと。
腰を曲げた御老人がよれよれと歩いてきて隣の席に座り、喋りかけてきた。
「ここ、ええ? あっちはな、あかんねん。あっちはな、うるさいねん」
奥の方でギターケースなどを持ち込んだバンドマンたちらしき集団が
テーブル席を占領して酒盛りしていた。呑み会じゃない。酒盛りという感じで。
「うんうん、どうぞどうぞ。うるさいですよね向こう」
腰の曲がった御老人は更に曲げて
「うん、うん、おおきに」って頷くというか
海老みたいに折り曲がって礼のような仕草をして座ったので、
わたしはスマホを見ながらハイボールを呑む自分時間に戻った。
しかし御老人は蠢きだした。
ひゅう、ひゅう、みたいな歳をとった人特有の息が漏れる音が聞こえる。
うるさい。耳ざわりでついそちらを見てしまう。
老人のもうひとつ隣の席の若い男性も同じ気持ちだったらしい。
両隣から覗き込むと、
じいさんは、指を震わせながら呪文のようにつぶやいた。
「ラーメン、一番安いこのラーメンをな」
タッチパネルをうまく押せないらしい。
わたしより先に若い男性が言った。「やりましょうか」
「ラーメン、一番安いこの、このラーメン。
うん。うん。ありがとう。おおきに」
なんにも入ってない一番安いちいさなラーメンがすぐに運ばれてきた。
じいさんは、盛大に音を立てて啜りだした。前傾姿勢で。
ボイスパーカッションくらいやかましい。
お世辞にも清潔にとかうつくしくとかとは逆だ、真逆だ。
若い男性は席を立った。
呑んでいたうすいレモンサワーと揚げすぎたポテトフライを
詰め込むようにして食べてまさに退散という感じで。
気持ちわかるわあ、と思わず笑う。
じいさんは前傾姿勢をちょっと上げた。
何千年生きてきた蛙だかなんだかが身を持ち上げるみたいな感じで
目だけ向けて言うた。
「おおきに。おおきにな。ありがとうな」
男性は帰った。わたしは残された。
じいさんはちょっとしか量のないラーメンをまだやかましく啜っている。
 
こういうときぴったりの言葉が浮かんだ。
「無理」
でも最近この言葉やこのことをちょっと考える。
こんな傲慢な言葉ってないんじゃないか、って。
いや、それこそ「生理的に」やから「しゃあない」っていうか
考える必要もないかもだ。
でもわたしはなんだか最近いろんなことを考える中で、
「傲慢さ」ということについてもとても考えていて、
傲慢であることや傲慢さって、すべての人間に、
そうではないとかそうは見えないような人間の中にもぜったいあって
何パーセントか何ミリかはあって、
でもそれって、最も、失礼だったり、
よくない、よくはないことでもあるんじゃないか、って。
せやのに「無理だからしゃあない」って自分で決めつけたり
言い訳に使ったり守りに使ったりしているようなときやことも
多いよなあって。
失礼とかよくないとかは漠然としているか。
でももっと漠然とした言葉を敢えて使うと、
とてもこわく、とても、危なかったり、
おそろしいことにも繋がることもあるんじゃないかなって思いもしていて。
ということを、ふと思い出した。こんなときにこんな場所で。
いや、だからこそ、なのかな。
無理やけど、無理と決め付けてしもて
思い込んでしもてることとかそのこわさとか、
無理かもやけど「そうやないかもしれない」とも
考えてみることで変わることもあるかもしれないな、なんて。私は、ね。すぐに思ってしまうからこそね。
 
「すべてのひとと仲良くしよう」
そんなこと、ちいさいお子たちの頃に頃から言われるし、
でもそれこそちいさい頃から無理だと
わたしたちは知る知ってしまいもする。
それこそ「無理」に限りなく近しいことを私たちは思うし思ってしまうし、
それが出来たら戦争だってたぶん起こらん。
時折書く時折会いにというか世話に行っている93歳の祖母はテレビのニュースを見るたびに言う。
「なんで出来ひんねやろな。
せーので「もう(戦争を)「やめましょう」言うたらええねん偉い人が。
なんで言わんねやろな」
なんかじぃんとしながら、
でも、どう返事したらええか迷っていたら、言う。
「プーチンなんておらんなってしもたらええねん」
「おらんなって」はほんともっと単純で物騒な言葉だがだから敢えて書かないことにする。
はっとさせられ、うーん、とか、うーむ、となる。
「無理」「生理的に無理」
そこにある傲慢さとか、欲とか、我とか。
でもハクビシンは触れないもんな。
しかしなんで横に座るかねえ。隣り合うかね。
あ、酒盛りでうるさいからか。
しかし「一番安いラーメン」をこんなに満喫って、すごいことよな。
わたしは私たちは皆普段たぶん、
ラーメンやいろんなものに対しても傲慢かもしれへんな。
じいさん、ほんまに、満喫してるよなあ。
もしかしたらこの一杯のために生きてるかもしれないし、
いや、そんなことはなくただ食うてるだけかもしれない。
なんかじわじわ来たり、思ったり、ボイスパーカッションみたいな中で。
しゃあないよな、歳とると、身体もうまく使えなくなってきたり、
いろんな不具合や不自由が生じてくるのもあるもんな、
その中で「食べる」「食べれる」ということ。皆、皆。せやけど、うるせー!
じいさんはまだ盛大にラーメンを食うている。
ありえないほどの量の紙ナプキンを使っている。
啜っている。満喫してる。うるせえな。元気で居てや。
ハイボールも、読んでいたスマホ内の文章も読み終わった。
わたしは席を立った。蛙の目がこちらを見た。
「おお、おおきにな。ありがとうな」
あれは仙人だったんじゃないかとずっと考えている。
あなたが落としたのは金の斧ですか銀の斧ですか、あ、それは違うやつや。
仙人。仙人ってなんや。違う。人間だ。だから、うざい。
蝦蟇だったのかな。いや、人間。こちらこそ、おおきにね。
 


ということで、(繋がってないけど)
WebマガジンTabistoryの連載コラム最新話も昨夜公開となりました。
餃子の話です。あの番組の話です。なんてことない話です。よろしくお願いします🥟


今月アップされたこちらのWebマガジン最新話も、
読んでいただき、すごくすごくうれしかったです。
これを書いたことで、読んでいただいたことで、
極めてパーソナルな思い出や気持ちを伝えて下さった方も、本当にうれしかった🎐

 *
さいきんnoteにつぶやきばかりや軽いものばかりで
まとまった文書けてなかったですが、書いていきたい所存。
いろいろ、書いてます。書きます。いつも、ありがとうございます。

◆◆
【略歴や自己紹介など】

構成作家/ライター/エッセイスト、
momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。

旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。

普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。

劇場が好き。人間に興味が尽きません。

舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。

某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。
lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
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noteは「ほぼ1日1エッセイ」、6つのマガジンにわけてまとめています。

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