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糸と笑顔 一見好太郎と一見劇団

一見好太郎と云う役者が、
ちょっと面白いなあと思っている。
近年こそ関西の小屋でも公演しているが、
ずっと関東(圏だけ)の劇団として知られていた座長だ。元々は西の出身だけども。
なんだか妙によく聞く名前だった。
常にまわりにこの人を追う人が居た。
よくも悪くも居た。
私が観ていない時代からである。
 
実際に観たのは11年前、
同じく関東の「劇団美鳳」の、前の前の太夫元三回忌追善座長大会(2011.5.24@篠原演芸場)にて。
不思議な印象を持った。ガラス製? 陶器? 透明な人形のよう。
脆そうで、今にもぐしゃっといきそうで、なのに、芯が強そうでもあって。
笑ってるような泣いてるような、
でもゆらゆらと笑みをたたえたあの顔が脳裏から離れなくなった。
 
どりゃ! どや! 俺やで! 俺を見よ!
っていう旅芝居特有の「熱と汗」な座長たちが多い中で、
いや、それが仕事である旅役者たちの中において、
だから印象深いのかもしれない。
例えば仏像とかにも近い「にほんの」「にほんてきな」それのよう。
触れたら壊れそうな、あの笑ったような泣いたような顔。
だから情がこんこんと湧くのじゃないか客の中に、と、勝手に納得もした。
あの微笑みだからこそ、他よりもさらに「私の方をみてくれた」ような気がするのでは? なんてことも思った。
楽しくわっと盛り上がった帰り道に、ふっ、とあの顔を思い出す?
ともすれば時にさみしそうにすら見えるあの顔を。
それはつまり〝鏡〟なのだろうけれど。
魅力なのか魔力なのか。いや、魔なんて毒々しさや言葉は全然合わない。
引力? この言葉はちょっと近いような気もする。
引き付け、情を「寄せさせる」力(意識的にではきっとなく)、あの顔。
 
初めて観た時、「人形のよう」と書いた。
糸にひっぱられて動く綺麗なあやつりにんぎょう。
その糸をひっぱるのは2人。いや、正確には2人「だった」。
お客さん。そして、太夫元たる〝おかあさん〟。
彼女は昨年亡くなった。そう、亡くなったのだ。
 
上からの強烈な糸から離れた人形は微笑みを浮かべながらどこへ行く?
 
機会に恵まれ、10月の大阪で観た。
劇場の片隅には仏壇、そんな中で。
ちょっと不思議でありがたい日の芝居とその後の舞踊を観た(この日)。
正直に言う。ひさしぶりに「芝居」に集中した、集中出来た!
彼の力であり、彼が座長をつとめる劇団の力(そもそも論として、私が興味を持つその芝居の作者の力は言うまでもなくね)だと感じた。
そのままのテンションで観た舞踊も印象に残った。『花』だった。
終演後のお見送り(送り出し、という)にて思わず声をかけた、かけたくなった。
「芝居、よかったです!」
最高の笑みをくれた。
「マジっすか! ありがとうございます!」
ああ、皆がこうして「私の方をみてくれた」と情を寄せるねやなあ!
 
翌月、関東で観る機会にも恵まれた。
〝聖地〟浅草・木馬館での「芸道30周年友情会」だ。
所要により芝居は間に合わなかった。『刺青奇遇』。好きな芝居である。
しかし辿り着いたら彼が演じるヒロインお仲の出番は終わっていたマジかよ。
でもね、前売り券やお祝いのレイやピンの発売の際、彼は出てきた。
お仲のままの格好で。つまり、病のお仲、あの拵えで。
感じた、引力を。お仲だったからか。うん。でも、きっとそれだけじゃない。
「にほんの」「にほんてきな」あの笑みを浮かべていた。
あれはお仲なのか好太郎なのか。今も考える。
 
舞踊ショーはでは縁深いゲスト座長たちや座員たちが踊る。
そんな中、袴で踊った。『栄光の架橋』だった。
私は旅芝居で定番化しているこの曲この格好この舞踊が嫌いだ。
なんの自己陶酔だ、と、ひややかな気分になる。
にも関わらずスマホのシャッターボタンを押す指が止まらなかった。
きもちがひたひたに滲んでくるような気がした。
そんなに深く知らないのに。
もっと言うと、知っていたって、他者の気持ちなんて完全完璧にわかることなんてきっとないのに。
でも、そう感じたのだ。選曲に。丁寧に踊る姿に。なによりあの顔に。
泣いているような笑っているような、なのに、万感こもったようないい笑みに見えてならなくて。

さらに出てきたもう1本の立ち(男)舞踊にもちょっと感心した。とても不思議で。
意識的? うん、でも、きっとだいぶ無意識。ってか、曲の中にいる。
『てぃんがーら』
これまでありがとう僕に力を下さい支えられてこれからも生きていきます。
じわじわと、ゆらゆらふわりと、でも強く客席に伝えている気がしてならなかった。
大仰な振りや表情をする訳でもないのに。
あの「にほんてき」な泣き笑いと笑い泣きの顔で。
なんなんだ。ひたひたと滲むなにかが確実にこちらに沁みてきた。

面白いなあ。
 
上からの糸で引っ張られていた頃、
私はかの劇団を素敵に見世物小屋みたいだと思った。
悪い意味じゃない。でもさまざまな意志が宙に浮いているよう。
素敵な俗悪さと、統制と、つくりあげられたもの、がっちりと。
サーカス団の親玉“ハチマキかあちゃん”と、素敵に躾けられたファミリーたち。
異様で、でも、皆がそれぞれちゃんと生きていて、そんな中に、あの顔がある。中心で、笑っている。
 
今、解き放された。
いいとか悪いとか、悪いとかいいとかじゃない。
あの不思議な引力の人が、糸から放たれ、今、東へ、西へ、あの笑顔で舞台に立つ。
節目の公演の日に舞踊で御礼と意志を体で芸で「生きていきます」と宣言し、ふぅわり、ゆらりと、立つ。
 
糸。あやつられているようで、あやつっているのかもね、実は、皆を。ね
え、ほら、あの顔、あの笑顔。
 
で、今、今だから、ちょっと興味を持っているのですよ。ゆらゆら、ふわり。



omakeに。すこし。

兄弟。バディ。古都乃竜也座長。
2人がいるから、隣にいるから、ええねんよなあ。
この劇団の要、関東の要やなあ。
まさに仙台四郎。
(との例え、以前、御自身で言っておられたがまさにー。)
九州の雄・玄海竜二会頭の弟子。
という、「関西出身で関東の雰囲気で九州のものも持っている」劇団、無敵。
ということでこの日は『ヤットン節』でした。客席喜んでたなー。

THE関東劇界の宝(友人と私談(本気で思ってる))、関東の粋の体現者、
梅乃井秀男座長。
中村雅俊の『あいつ』。友情会にこの選曲の憎さ。
キメの「あいつは」のこのポーズの憎さ。
(と、7年前記事。自分でもちょっとニヤける記事(笑))

ゲスト。白富士一馬座長。
かまやつひろしの『我が良き友よ』、この選曲の憎さ。イケメンです。
芝居は鮫の政五郎役。

ゲスト。沢村菊乃助座長。
玄海会頭の息子、二代目片岡長次郎座長(故人)のお孫さん。
数年ぶりに見てびっくりしちゃった。
会頭にそっくりになってこられましたね! 
お父さんも十八番な袴舞踊。曲は『白虎隊』、詩吟入りのあれ。

そしてこのひと。このひとを見たかったのも大きい。
OSKからSKD、レビューと新日本舞踊の家元。
レジェンド。松浪伽乃里先生。
(師事してないのに先生と呼びたくなるオーラ)
最後のご挨拶では「竜也のバァバです。年齢言ってい~ぃ?」
(からの、客席「おおー!」)
『影を慕いて』と『赤と黒のブルース』。最高でした。もう一度言います。最高でした。


(一見劇団  2022.11・24@浅草・木馬館、芸道30周年記念公演、昼の部 )


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大阪の物書き、中村桃子と申します。 
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
普段はラジオ番組の構成や資料やCM書きや、各種文章やキャッチコピーやら雑文業やらやってます。
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