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日々日々

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1日(なるべく?)1エッセイ。思うこと考えることを綴っています
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濃いコーヒーと陽

締め切りの迫ったコラムのチェックをするために 近くのファーストフード店に駆け込んだとある街とある日のお昼すぎ。 年配の女性お二人が入ってきた。 「コーヒー。これな。コーヒー頂戴」などと ゆっくりすぎるほどのマイペースで注文をしてわいわいとお座りになる。 「これ、朝はよ起きて炊いてきたから」「いやーわるいわぁそんなよぉけもろて」 タッパーウェアに入れたおでんをお裾分けし合っている。 その後はかかりつけの病院の噂話だ。 聞こうとしてではなくとも嫌でも耳に入ってきてとほほほほ、 せ

強さとかき氷

近くのふるいボクシングジムにはずっと きったない手書きの紙が貼られたままだ。 「オヤジボクサー募集」 なかなか集まらへんのやろか。 ずっと気になっているわたしは興味があるんやろか。 オヤジじゃないとあかんのかな。 てかどんなひとが来てるんやろう。   強さってなんだろうなとはよく考える。 強さはむずかしい。 誰かを傷つけることとも裏表で紙一重。 強さに酔うみたいなことも起こりがちでもあるその意識もなしに。 強さって一言では言えないし言い切れないと思うけれど それはそこには広さ

東京新聞「あの人に迫る」(11月4日)に三沢さんの最後の対戦相手であり今月引退する齋藤彰俊のロングインタビューが載っていると知りどーしても読みたくて知人からやっともろて読んだ。 最後の対戦相手が昨夜決まったことも知る。 三沢さんが亡くなったときは知人の新聞記者から即連絡が来た。 キヨシローが亡くなったときも同じ人から即来た。 何故か思い出した。他にも色々あるが何故かキヨシロー。 胸にくるインタビューだった。 選手本人がXのポストに添えたハッシュタグも印象深いからかもしれ

どろっ

あたらしい原稿を考えるときなどなどは二駅向こうのショッピングモールにあるチェーンのカフェ行くのがいつの間にか恒例行事というか担いでないけど験担ぎみたいになっている。 特に食べたくないがホットサンドを食べるのもお決まりになった。 すげー広くて隣の席との間隔があいていて、 ひとり分の吸える空気が多い気もするそこは 古い洋楽が薄くかかっていて適度にざわざわしていて混みすぎていなくていい。 ホットサンドは特に美味いわけでもないしやっぱり小麦粉は控えたいが片手で食べられるからいい。

ボクサー Man of La Mancha

セルフレジに向かってシャドーボクシングしているおっさんを見かけた。 混雑した店の中の一台に冴えない風貌のおっさん、 いやニイサンは軽快なパンチを繰り出していて まわりの皆は見て見ないふり。苛々。ひそひそ。 かくいうわたしもぎょっとして二度見してしまい、ヤバいな、 あかんあかん、いや、そんなん見たり思ったりすることがそもそも失礼や。 と、思いなおし己の用を済まし立ち去ったのだが、 華麗なファイトは頭を離れなかった。 帰り道も。その後数日も。   あれは吉田戦車のしいたけやったん

kenema 気音間と花酔骨

先日なんかなんとなくポチった手拭が届いた。 巻かれていた紙の帯の言葉を二度見三度見した。   kenema   (気 ke)美しい気配 (音 ne)美しい音色 (間 ma)美しい間合い   気音間   朝からぱぁーっと晴れたと思ったらズザーッと降った。 また晴れてまたズザーッと降った。 天気雨というのともちょっとちゃうし、 「え? 常日頃の情緒?(笑)」 って誤解招きそう。また笑う。 「日本人の美意識を支える三つの要素です」   雨は夜にはすっかりやんで選挙カーらが走り回っ

ミラーボールと秋祭 いちにちいちにち一瞬一瞬と人間の美

坂東玉三郎がドキュメンタリー番組で言っていたことを時折なぜか思い出す。 「明日のことだけ、考える」 一見というか一瞬「?」とか「うーん」と思う言葉かもしれない。 少なくとも若いというか幼い頃の私は「?」「えー」と思っていた。 でも、でもでも。 いい祭に会った。ミラーボールの下、秋空の下で。 ◆◆ 構成作家/ライター/エッセイスト、 momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。 各種SNSまとめや連載コラムやプロフィールは 以下のリンクにまとめています。 ご連絡やお仕事の

卵と青い鳥 至高と優勝を超えたオムライスがあった

人生とは美味いオムライスを探す旅なんじゃないか。   極めてシンプルな食べ物だ。 卵と米と野菜。完全食? 洋食だけれど和食な気もするし町中華にもあったりもする。 誰にでも作れるけれど高級グリルやこだわりの洋食屋でも目玉になっている。 しっかり焼くものもとろっとふわっとしたものも人気だし 中身はチキンライスが当然のはずだが、え、なんで白いご飯? というのにも遭遇する。 チキンライスの中身だってグリーンピースが入っていたり入っていなかったり、 え、具は入っていますかねどこに居ます

ラムネの玉やんの唄 朝日新聞小泉信一さんのこと

どうやらわたしは誰かのことを思い出すとき顔と共に歌が浮かぶらしい。 声、顔、選ぶ歌の内容、エピソード。 歌っていたときのこと聴いたときの空気。 そのひとの場合は、藤田まことの1曲だ。 十三のねえちゃんの歌ではない。ラムネの唄だ。 曲間にセリフがある。大阪のラムネ売りのおっさんの売り口上だ。 「冷やこいで、冷やこいで」   昭和文化。昭和歌謡。酒場。芝居。寅さん。プロレス。ストリップ。銭湯。 ずっと記事を読んでいて、あれも、これも、「ああ!」「わあ!」。 この夏亡くなられた大先

365歩 どうも、人です

夜道を歩いていたら背後に気配を感じた。 思わず振り返ると後方すこしとおくに人影がゆらゆら。 竦んでしまった。 暗い道だったから。 影には伝わったみたい。 声が来た。 「あの、いや、怪しい者じゃないですよ。ないですからね」 「ないですからね」に“💦💦”がめちゃめちゃ見えるような声と言い方。 酔った知らないおじさんだったみたい。 謝った。心の中で。 謝りながら、でも、なのに、なんだか怖さが抜けず、足早に歩いた。いや、歩いてしまった。 ごめんね。ありがとう。   数日後、昼前、朝、

まっすぐなコーヒー 或いはしあわせについて

パン屋さんのイートインというか、 ブーランジェリーやらベーカリーというような店も好きだがただただ「パン屋さん」みたいな店ででも喫茶も出来て若い人は勿論年配の方々がコーヒーと新聞を楽しんだりお喋りに花を咲かせていて皆自由で干渉もしないし意識もし合わないしみたいな店がわたしは好きで。 自由な皆の傍らで職人さんが黙々とパン生地を捏ねたり焼いたり淡々と自分の仕事をされている決してきれいなんかじゃない作業着姿で淡々とというのが静かに真っ直ぐな気持ちになる。 そんな店で飲むコーヒーは美

車輪と日々と いいも悪いもいつも“今”

とある人気作家の言葉をふと思い出した。 「車輪やと思うねん」 「え?」 今とは全然違うキャラだった頃、 後に映画化もされたとある作品を出されたとき、 インタビューで話してくれた。 「車輪は常にぐるぐる回ってる、 けど地面にその面がつくのんって一瞬で、 少しずつずれていってる訳やんか。 同じ面がつくことはないんちゃうかとか 全く同じ面がつくんってどれくらいの確立なんかよぉわからへんし、 もしかしたら奇跡かもしれへんねんけど、 でもずっと回ってて回り続けてて、 その一瞬一瞬が毎

昼と夜 人間って、なんか、ほんま、ええよなあ

解体工事の若い人たちが土の上で昼寝していた。 ガタイのええ2人が太陽の下クレーン車の横で作業着のまますげえ気持ちよさそうに転がっていた。 熱いやん。焼けるやん。でもああ皆生きてるな生きてるんよあ。 「!」「?!」からの意味不明にじーんとしながら通り過ぎた。   街を歩いていたら桑田佳祐の祭りのあとが流れてきたから思わず言ってしまった。 「なんでやねん」「ダサ!(笑)」 せやけどこれ聴いて歌って泣くおっちゃんらとか少なくないんやろな。 エモいという言葉はこういう時使うのがしっく

アリクイと名月とさんま

最寄り駅ですれ違った人の鞄にアリクイのぬいぐるみが付けられていたから二度見した。 思い出したのは夜のことだった。   なんでアリクイやったんやろ。 アリクイってどこにおる動物やったっけ。 アリクイ。アンツイーター。 めっちゃ強いプロレスラーみたいな名前やな。虎ハンター的な。関係ない。   なぜちいかわではなくおぱんちゅうさぎでもなくサメでもなくアリクイだったのか。 余計なお世話である。  ただアリクイだっただけ。 アリクイが好きなのかもしれないしたまたまなのかもしれない。 意