薬膳空想物語『七十二候の食卓』
雨水
土脉潤起 ~つちのしょううるおいおこる~
四皿目
冷たい雪が暖かい春の雨に変わり、大地が潤いはじめてくる頃。
少しずつ寒さも緩み始め、万物の生き物たちが目覚めてきます。
まだうっすらと所々雪が被った田んぼ道を散歩してみた昼下がり。
茶色と白の中から突然現れた可愛いひよこの頭か?とドキリとしてしまう。
今年初の黄色い花の福寿草が顔を出していました。
ふつうの花ならば芽が出て葉が育ち、そして蕾が顔を出しやっと花びらが開いてくる。
けれど、この福寿草は葉が出るより花を先に咲かせることができるのです。
冬の間に土の中で地下茎に栄養を静かに蓄えて、暖かさを感じた時に花が咲き
「わたし、ここにいるよ」と控えめながらもしっかりと春の訪れを主張してきます。
そして、ぱぁっと開いたパラボラアンテナのように太陽の光を追ってしっかりと温かさを花に蓄えます。
蜜をもたない不思議な特徴があるにもかかわらず、その温かさを求めてミツバチたちは福寿草に寄ってきて温かさに癒され、その中で休息し、花粉もついでに運んでもらうのです。
特に今年の冬は寒かった。
家の中に籠っていたわたしはまるで巣箱の中で蠢くミツバチだ。
そろそろ太陽の暖かさを感じたのなら、おそるおそる様子を伺いながらあの福寿草の布団に包まれたい。
黄色くてふわふわして…と想像していたら卵料理をこしらえてみたくなった。
旬の野菜の菜の花とふわふわ卵の和え物を作ってみよう。
菜の花(※1)をさっと茹でたら軽く絞って食べやすい大きさに切る。
フライパンに油をひいて溶き卵(※2)を流しこみ軽く混ぜてふんわりしたら一旦取り出す。
ボウルに麺つゆ、アルコールを飛ばして煮きったみりん、練りからしをお好みで入れて調味料を作る。
菜の花、ふわふわ卵を合わせた調味料と全体が馴染むように和える。
菜の花は温性の食材なのでまた肌寒いこの季節にはうれしい食材。
体内で滞った血の流れも促すといわれているようです。
卵は良質なたんぱく質源で気、血、津液を補う万能食材。
からしの程よい辛味のアクセント。
こんなひと皿で、昆虫たちと一緒に春の目覚めを感じましょうか。
※1 菜の花 五味:甘 五性:温 帰経:肝・肺・脾
※2 卵 五味:甘 五性:平 帰経:肺・脾・胃・心・肝・腎
※食味:酸味・苦味・甘味・辛味・鹹味([かんみ]塩からい味)を五つに分けたもの。
※食性:熱性・温性・平性・涼性・寒性と食物の性質を五つに分類したもの。
※帰経:生薬や食材が身体のどの部分に影響があるかを示したもの。ここでいう五臓は「肝・心・脾・肺・腎」の事だが、単に臓器の働きにとどまらず精神的な要素も含まれ、ひとつひとつの意味は広義にわたる。