鯨及海豚各種之図 三
イルカ
イルカ 正名、海豚
其一種、腹色微紅を帯ふるもの、長さ六、七尺許。魚人、海中入、枹て是を捕得るに、性鈍にして、敢て人を害する事なし。
貝原翁云、長一間許、色黒く、形、鯨魚に似たり。胴丸く、皮厚く、油多し。口は 鱵 の如く、上下共に長く尖れり。胸ひれ●に似たり。形、豚の如し。故に、海豚の名あり。肉赤くして、鯨の赤身の如し。肉には油多からず。味も又、鯨に似たり。魚人、煎して油をとる。古人云、此は、雌雄陰陽、人の如し、と。魚鰌の類も亦同じ。両乳ありと未是を詳にせず。
■ [■は魚+匊] 居六切音菊 正字通
奔䱐一名 ■ [■は皿+魚+炎] 前同
江魨
江猪 今清俗
スジイルカ
或 ストイルカ とも云り。長さ上に同。
カマイルカ
カマイルカ 相州方言
其長さ六、七尺許。正名、海豚。
ダイナンゴト 紀州熊野浦方言
チゴクジラ
チゴクジラ 紀州熊野方言
其長、大なるもの 一丈五尺より、及 二丈一、二尺
或曰、長さ五尋。味上品。油凡二十樽。但、一樽二斗入の積。
アカボウクジラ
アカボウクジラ 紀州方言
其長、大なるもの一丈五、六尺に及。俗に只、ボウと呼ぶ。
或曰、長四尋。味下品。油凡十七樽。
口中、下歯あり、上歯なし。
ザトウクジラ
ザトウクジラ 紀州方言
又、俗に、メクラと呼ぶ。背上の鰭、琵琶を屓ふに似たる。故に名く。
或曰、長さ七尋、味上品。油五十樽ほど。大は四、五丈。一片は黒く、一片は白し。形、瞽者の琵琶を屓ふに似たり。因て名く。盲魚には非ず。
背上の鰭、其形、琵琶の如し。魚人、呼て、疣と云り。
マツカウクジラ
マツカウクジラ
其色、抹香の如し。故に、名づく。是また、ゴトクジラの種類。
或曰、俗に、真甲鯨と書て通用す。マツコ鯨とも云。長さ七尋。油五十樽程取る。鯨糞出る色、黒白あり。その白色なるは、得がたし。此もの、牙あり。小牛角の如し。
子、昼は腹外に遊び、夜は腹中に入る。
ナガスクジラ
ナガスクジラ 紀州熊野浦方言
其長、大は十余丈より、及 十七、八丈。正名、海■なり。[■は魚+酋]
或曰、此もの、水底に沈て、浮○事稀なり。故に、得難し。○○大抵、十五尋程あり。味下品。油四百樽ほど。俗に、長須鯨と書て通用す。
シヤチホコ
シャチホコ 肥州五島方言
或、呼て、サカマタと称す。又、クロドホウとも云へり。其、長なるは、一丈四、五尺許。或云、肥前にてタカマツと云。好て章魚を啖ふよし。他の鯨と異なることは、潮を二筋に吹と云り。俗に、モヤチホコと呼ぶ。鱐の字を用ゆ。略して、シヤチとばかりも云へり。
或曰、サカマタ(又、俗、シヤチホコとも云)
長四尋。味下品。油凡十五、六樽。貝原翁云、黒トンバウと云て、勢州の海にあり。性剛にして能一切大魚を咬食ふ。大さ、五、七尺より三、四間に至る。油多し。皮に、牡蛎生す。今城門の棟の両端に瓦にて造りて建つ。即此魚なりと云。魚虎をシヤチホコと呼誤なり。事物紀原、所謂、鴟尾、是也。蘇鶚演義載蚩尾、今人多作鴟字、又俗間呼為鴟吻云也。去ながら、蚩は海獣なりと云、非なり。蚩字は義を説くが為なり。
口中、上下歯あり。至て利鋭なり。鯨魚、海鰛の外に、他魚を啖へば、此もの怒て囓と云。至て海鰍の属、此ものを懼るゝと云。若、此ものに、啖傷せられて、鯨魚、疵痛み疲て、魚人に獲らるゝことあり。俗に、是をシヤチガケと云。
前■ [■は髟+者]、魚人呼て、達波と云。
ムマンボウ
長五、六尺。惣身サメ層にして、皺あり。色は灰、或は黒、或は青みがちも有。肉潔白、至て淡薄、味よし。冬月の外は、肉、腐餒しやすし。
昌臧按に、綱目の牛魚なり。もと述異記、及、咸●録に出。此ものの肝の油をとる。多く出るものなるよし。福建の俗称、海油魚と云説は、庶物類纂、魚獣油の下に見たり。
歯は上下二枚にして、河豚の如し。二図、倶に改むべし。
ウキ
マンボウの大膓をほしたるを、俗に、うきと云。貝原翁云、ウキ。木奥州、常州の海にあり。他州にはなしと云なり。近年、薩州海中、方言シキリと云魚、同物なることを●明せり。今、茲寛十戊午秋、其膓を洗乾●めたるを、薩州より将来す。水府、及、岩城の産に異ならずとて、橘宗仙院、悦て、栗本瑞見に図を添て贈らるゝ処也。
厺年迄は、毎年、魚人、獲れども食ふことを不知。其、温補杔裡の功あることをも得会せず。喉中にある二個の印魚ふみを取、貴重の物とす。此魚を無益のものとなして、其侭、棄たりと云。今は、其、食料にし、膓をほし、薬用にすることを始て覚悟す。一物と■ [■は厶+虫]とも、始て開けたるは、豈愉快ならずや。寔、宗仙院の一切徳と云べし。
貝原説に、東北海にのみ有と云は誤なり。古なくして、近年有と云こともあれども、其一例を以て論ずべからず。魚人、而己、知て、国人の知らざる故に、開けざるものなるべし。喉中より印魚の出ることも、水府のマンボウよりも出つ、怪にたらず。
ゴトクジラ
ゴトウクジラ 紀州方言
魚人、俗に、ナイサとも云り。按るにごとの数多ゝ也。皆、其、●大なり。ゴトは蓋巨頭の謂欤。
或曰、長さ三尋。味下品。油六樽程。
シオゴトクジラ
シオゴトクジラ 紀州熊野浦方言
海の幸と云。魚図を載る二冊の本あり。巻末に鯨類の名目を挙る。ゴト鯨、四種あり。其、一品、潮ゴトウと云は、此ものなり。
セミクジラ
セミクジラ 紀州方言
其、長さ、小なるは二、三丈許。大なるは十一、二丈に至る。
或曰、俗に、背美鯨と書て通用す。長十尋。味上品。油三百樽程取る。これ鯨●にて、味の上品なる物也。大なるは十余丈にして、油二百斛に至。又云、セミ一本に背干とあり。
子■は腹外に遊び、夜は腹中に入。[■は尺+皿]
魚人、タツパと称す。即ち前■なり。[■は髟+者]
スナメリクジラ
スナメリクジラ 総州方言
其長、大なるは二、三丈許。享保中、総州行徳海浜にて、是を得たり。其、雄は二丈七尺、其雌は三丈六尺有と云。
品川の海にスナメリとて、黒き大魚、背ひれを出すことまゝあり。弓にて射、又、刃物を●て、偶に得ることあり。貝原翁云、ナメリ、一各波の魚形、同くして、黒色。海■に似たり。[■は魚+猶の右側] 長五、六尺、或は、二間許。海上に背を差出すを、鉄炮にてうつ。油多して、食すべからず。魚人、■ [■は前+火]して油を取、利を得るものと云也。按に、此魚の小者か、別に一種ありや、考へし。
魚人、尾刷と云。
陰茎、黄白色。魚人呼て、タケリと称す。長五、六尺許。
牙形、芋子に似たり。
ナイラギ
ナイラギ 紀州方言
其、長大なるは六、七尺許。
ケンサキナイラギ
ケンサキナイラギ 紀州方言
其、長大なるは七、八尺許。
昌臧按るに、松岡著す処の食療正要に黄鱘。俗に、カシト○○○○もの是なり。朝廷元旦より十五日に至まで、此乾肉を以て酒芼と○○事を述。
シユモクザメ
シユモクザメ 相州方言
其、長大なるは五、六尺許。九州の地方にて、又、カセブカとも○。
或曰、俗に、撞木鮫と書て通用す。筑紫方言、カセブカと云。損軒翁云、其形状、婦女の布の経緯を巻所のカセと云。●に似たり。因て、名づく。昌臧按に、福州府志の雙髻鯊、八閩通志の■ [■は巾+田+日]鯊、寧波府志の了髻鯊と称するもの是なり。
腹下白し。口は頂の下に当たる。
イラキサメ
イラキサメ 紀州方言
其、長大なるは六、七尺許。遠州横須賀辺にて、魚人呼て、カツウオサメと称す。
昌臧按に、此もの、牙至利鋭にして、八重に疂生す。齦骨経年のもの、鼠の為にはぐきを咬傷るゝものを見るに、骨中空ありて、小牙、纏着すること、新に生するがごとし。古人も、其●骨年者と蚩牙更生と云。理なきに非ず。俗に、ハザメと云て、小牙を竝重て、刀■ [■は木+䩗] の巻したとす。潔白光沢至て美なり。形扁く尖り、鋸歯あり。化石になりたるを、俗に、天狗の爪と云。其、深岩中より得るを異と云。
ミヅザメ
ミヅザメ 相州方言
其、長六、七尺許。
ワニサメ
ワニサメ
其、長大なるは、丈余に至。
昌臧、嘗て水府の人に聞云。此鮫を人喰ざめと云。水戸の海中にあり。其地の魚人、俗に、甚兵彳サメと呼ぶ。是、此地に名を知られし鮫を、釣を業とせしものなりしが、終にこのさめの為に呑る。故に、斯名を得と云。魚人、甚是を懼るゝものなり。又、一種に、俗云、ミヤウガサメあり。大同小違也と云。其種、数多しと知へし。
貝原翁云、筑前にてウバブカと云。六、七尋あり。歯なし。因て、嫗ブカと云。人を丸呑にす。
口中、歯牙なし。
ハンザウ
ハンザウ 又云、ケヱイ
武州方言 カヱイ
或云、ヱイの類に、毒ヱイと云あり。誤食へば、遍身紫黒色に腫れ、煩懣死に至。先年、浅草辺にて、商人、ヱイの大なる肉を断鬻ぐに遇ふ。其価、至廉なるにめでて買帰り、同店の者、四五輩、是を食ふもの立に死す。病状、前文の如し。是、此魚の類か知べからず。形異なる大魚妄に食べからず。寧波府志の地青魚か、考へし。
白色なるは刺なり。
口は腹にあり。
ギメ
ギメ 志摩 ハンソウ 熊野 ケヱ 上に曰
背の色、紺なり。背肉あつく、次第にうすし。目の先ひらひらとして骨なく、口細く横に長し。歯なし。骨白くやはらかなり。肉軽く、味よし。●さ異品●●頭骨に●物なし。口の上、骨一つ半月の如し。
ハリ小なり。背ひれ小なり。尾細長し。
筆者注 ○は欠字、●は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖