生海鼡(なまこ)
生海鼡 贅海鼡 海鼡腸
是殽品中の珎賞すべき物なり。江東にては尾張和田、三河柵の島、相模三浦、武蔵金澤、西海にては讃州小豆島 最 多く、尚、北国の所々にも採れり。中華は 甚 稀なるもつて、驢馬の皮、又、陰莖を以て作り贋物とするが故に、彼国の聘使商客の此に求め帰ること夥し。是は小児 虚羸 の症に人参として用る。故に時珍食物本草には海参と号く。又、奥州金花山に採物は形丸く色は黄白にて腹中に砂金を含む。故に、是を金海鼡と云。
漁捕は、沖に取るには、網を舩の舳に附て走ればおのずから入るなり。又、海底の石に着たるを取るには、即 贅海鼡の汁、又は、鯨の油を以水面に●滴すれば、塵埃を開きて、水中透明底を見る事 鏡に向がごとし。然して、攩網を以て是をとらふ。
贅乾の法は、腹中三條の腸を去り、数百を空鍋に入れて、活火 をもつて煮ること、一日。則、鹹汁 自 出で、焦黒 燥 硬く、形 微 少なるを又煮ると、一夜にして再び 稍 大 くなるを取出し、冷むるを 候、糸につなぎて乾し、或は竹にさして 乾 たるを 串海鼡 と云。また大なる物は、藤蔓に繋ぎ懸る。是、江東及び越後の産かくのごとし。小豆島の産は大にして味よし。薩摩、筑州、豊前、豊後より出るものは極て小なり。
和名抄、老海鼡と云物は、則 贅海鼡に制する物是なりといへり。又、生鮮海鼡は、俗に虎海鼡と云ひて、斑紋 なるものにて、是又別種の物もありといへり。東雅云、適齋訓蒙圖會には沙■[■は口+巽]をナマコとし、海参をイリコとす。若水 は、沙■[■は口+巽]、沙蒜、塗筍 をナマコとし、海男子、海蛆 をイリコとす云々。いずれ是なることを知ず。されど、海男子は五雑俎に見へて、男根に似たるをもつて号たり。
海鼡腸
本朝食鑑 に、或は俵子と称するといふは誤るに似たり。俵子は虎子の●したるにてたゞ 生満鼡 の義なるべし。
海鼡腸を取り、清き潮水に洗ふ事、数十遍。塩に和して是を 納 なり。黄色に光り有て、琥珀のごとき物を上品とす。黒み交る物下品なり。又、此三色相交る物を日影に向ふて、頻 に撹まはせば、盡く変じて黄色となる。或は、腸一升に鶏子の黄を一つ入れ、かきまはせば、味最も美なりともいへり。往古は此腸を以て 貢 ともせしかども、能登、尾州、三河のみにて、他国になく、是まつたく黄色なるもの稀なればなり。
又、一種腸の中に色赤黄にてのりのごときものあり。号て海鼡子といふ。味よからず。
◇
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖