【京都歳時記】十二月遊ひ 十二月
月日 やうやう過暮て、極月にうつり行こそ、人の名残も 世のいそがはしきも 思ひしらるれ。
すさまじき物は、十二月の月夜といひけん。くもりなくさしける 空のけしき、さすがにみる人もなし。
月のすゑにいたりぬれば、心ほそく成行まま、又くる春のいそきにとりかさねて、家々うちはらふ すすほこりの立まよふて、色めもみらぬに、町々は 行人 帰る人 これかれめせといふて、門の松、ゆづり葉、かざりのしめほ、なかの、歯朶 、こゑごゑによばはるも いとたうとし。
かがみもち いつくとて、どよめきにきはふも、またをかし。年月暮て、季節候と おどりはねて 物をこふところもあり。ことのいそがはしきに、とりくはえて うたてしくも、おかしかりけり。
大つごもりの夜 いたうくらきに、たいまつかひともしなと 手ごとにもちて、夜半すぐるまで人の門たたき、はしりありきて、あしをそらになし、つもりかさなるあきなひ 物のかけをきのり、そのかはりをこふに、ことごとしくののしりて、いさかひあらそひて、どよみになるもうとまし。
あかつきかたよりは、さすがに家々もしづまりつつ、物●もなく成ぬるこそ、年の名残はいま一時よと思ふにも、いとど心ほそからぬかは。明行空のけしき、きのふのいそがはしきに引かへて、一きはめづらしき心ちぞする。
世のけはひも 花やかにうれしげなる、又あはれ也。いひかはす ことばもめでたき、春のよろづ世をいはふ若水に、屠蘇白散をちりうかして、かすみをくみつつ 年の千とせを いはふとかや。
年ごとの 日々月々のあそび物、世の人のなすことわざよむとも かくともつきすましけれど、とり●て 此十二月のなりはひ 上つかたより したつかたまで、おなじくつとめいとなむ事にて、年月をば をくりむかふる物なり。
色うづむ かきねは雪のいろながら
としのこなたに にほふ梅がえ
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筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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