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『料理綱目調味抄』(9) 煮物の部

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『料理網目調味抄 5巻 [2]

煮物にものの部

あつもの也。大概、汁におなじ。少の差別しやべつあり。

煮物は

魚鳥菜類を加摸かもして、漿仕立、だし仕立に、山葵、山椒みそをも掛る。又、ねりみそ。

※ 「漿」は、醤油のこと。

笋羹しゆんかん

たけのこに不限、菜類をせんにして、ゑび、いか、あわび、いりこ、印の類を加摸し、漿仕立也。

※ 「笋羹しゆんかん」は、普茶料理のひとつで、季節の野菜などを盛り込んだ煮物料理。
※ 「不限」は、限らず。

煮醤にあへ

牛蒡ごぼう、大根、芹、蕗、あらめ、黒豆 等に、鳥、塩とり、串鮑、ぼうだら、田作り 等を加、漿仕立。

※ 「あらめ」は、海藻の一種。荒布あらめ

杉焼き、鍋焼、貝焼、煎鳥、准麩じゆんふの類、皆煮物也。三 委註也。

※ 「准麩じゆんふ」は、麩になぞらえた物。准麩汁では茄子を麩になぞらえるようです。
参考:『大日本国語辞典(准麩汁)』『泉:日本大辞典 第3巻改修版(准麩汁)』


  煮物  鳥の部

つる がん

生・塩共に鳥づまにて、煮物は、だしに、漿少用㕝もあり。大具、小具、山葵。吸口、柚、あへにも。

※ 「塩」は、塩漬けのこと。
※ 「㕝」は、こと。こと

かも

烹物 用 㕝、所々有り。甘湯仕立は右のごとし。取合、松茸、しめじ、芹、水菜、なめ、うど、焼ふ、針牛蒡、しゐたけ。

※ 「なめ」は、なめたけ。

はく

ねぎ、塩松茸の類。或は、いり鳥、山葵みそ。

蒼鷺あをさぎ

甘湯仕立は、鴨のごとし。濃餅のつぺいは漿仕方。しめじ、なめ、やきふ、ごぼう、しゐたけ、いはたけ、わさび、葛引き。

※ 「濃餅のつぺい」は、油揚げ、しいたけ、人参、里芋、大根などを煮込んで、塩、醤油などで調味して、片栗粉や葛粉でとろみをつけた汁のこと。のっぺいじる。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『料理網目調味抄 5巻 [2]

きじ

生はだし仕立、鴨のごとし。塩は烹あへ、牛蒡(針)、焼ふ、芹、こんぶ(たんざく)、くろまめ、なめ、しゐたけ、山葵。濃餅にも。

一書、きじの身ばかり如常うすく作り、黄色なるきもをなべにやき付、下地(だし事)を入ているべし。からみ、わさび。

※ 「如常」は、常の如く。
※ 「きも」は、きも
※ 「いるべし」は、るべし。

ばん

水鶏くいなさぎ、調味おなじ。蒼鷺あをさぎにおなじ。なまとりを用。

※ 「なまとり」は、生鳥。

にはとり

家鴨あひるおなじ。漿仕立、牛蒡、大根、やきふ、葱、もうれうと云。

うづら

だし仕立したて、漿少加ふ。大つま。とり合、牛蒡(かは)、大こん、葱、せり、なめ茸類、濃餅のつぺい、漿仕立、やきふ、くわへ、石たけ、山葵。しぎ、うば鴫、こばと、ひばり、すゞめ、むく、ひゑとり、つぐみの類、調味皆おなじ。生鳥を用。

※ 「くわへ」は、慈姑くわい
※ 「石たけ」は、岩茸いわたけのこと。
※ 「ひゑとり」は、ひよどりのこと。

鶏卵たまご けいらん

浮々煮。又、塩仕立のふは/\に、いり酒の葛だまりかけて、山葵かけたるもよし。麩の焼をせんに切り、物の取合よし。又、巾着きんちやくにして、煮物、笋かんに加へ、又、黄斗を巾にてこし、煮物に掛る事もあり。

一書に云、むかしの浮々烹ふは/\には、土器かはらけに下地を入、かへらかして、あかゞいをうすく作り打入て、にゑばなをそのまゝ●ね、土器かはらけをしてまいらす。あかゞいなければ、あわび、はまぐりをもすべし。こせうをかゞせてよし云々。

※ 「浮々煮」「浮々烹ふは/\」の参考:『日本料理法大成(浮々煮)(玉子浮々煮)(鳥浮々煮)(魚浮々煮)』『雅俗作文字引
※ 「笋かん」は、笋羹しゅんかん
※ 「黄斗を」は、黄ばかりを。卵黄のみという意味と思われます。
※ 「かへらかして」は、煮立たせて。かえらかす。
※ 「にゑばな」は、火にかけた汁物や煮物の煮え始め。煮え花、煮え端。
※ 「こせう」は、胡椒こしょう


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『料理網目調味抄 5巻 [2]

  煮物  魚の部

たい すゞき

火取ても、又、はま焼きにして茄子なすび(ふたつわり、くしがた)、又、茸類にても、漿仕立にて、加摸かもするもよし。杉焼は別に註。ねりみそ。

鯛をさしみのごとく身とり、なべに漿酒、少こきかげんしてにやし置、身三四 ● ねいりて、生にへなるに、すり山椒かけ、そのまゝ出す。

※ 「火取」は、火であぶること。
※ 「にやし置」は、誤読しているかもしれません。
※ 「生にへ」は、生煮なまにえ。

さけ

だし仕立、大具、魚皮うをのかはの方を火どり、小かくに切てよし。東国にて、かすがみと云あり。

こい ふな

ねりみそ、筒切、おろしたるは造り水にさらし、みそをたらせて、すに魚を入れば、はぎれしてよし。取合、石たけ、きくらげ。

煎海鼠いりこ

能 いりこのひねをよく漬、よくゆで、中を取り、丸ながらも、切ても、だし、酒に砂糖を加へ、わらを入、半日斗にる。漿加へ、山葵わさび、又、わさびみそ 掛る。又、いりこ、常のごとくつけ ゆでて、なかほどうすく木口に刻、やきふの糸、青まめ、黒豆、針牛蒡、焼ぐり、石茸、木くらげの類 加へ、葛引、山葵。

※ 「煎海鼠いりこ」は、干し海鼠なまこのこと。
※ 「能」は、よく。
※ 「ひね」は、ひね
※ 「半日斗」は、半日ばかり。

串蚫くしあはび

能漬、よくゆで、柔成をうすくへぎ切にして、だし、酒にて●る斗煮る。漿加、●干を加模し、しるの多きよし。又、山葵わさびみそをも掛る。

※ 「柔成」は、柔らかなる。

麪條しろいを

甘湯だしいり塩仕立、うぶ水を用。漿少加、取合、水な、鶯な、せり、なめ、よめな、土筆、松露しやうろ海苔のり、ふきのとう。

かき

いり塩仕立、だし、産水をさし、しるにたてゝ、かきは煮ざるよし。産水なきには、うすく葛を加べし。漿用るなかれ。胡椒。


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『料理網目調味抄 5巻 [2]

摺身すりみ

はむ、又、何魚にても、すり身よくしたゝめ置、だし、漿仕立の煮物に、摺身をかさね、又、少火どりて加ふ。取合は内容次第、大様 白魚に云がごとし。濃餅には、取合、牛蒡、しゐたけ、木くらげ、石茸、やきくり、焼ふ、山葵。

※ 「はむ」は、はも

鰻餅はんべい

摺身同分に、薯蕷やまのいもか、常の芋をろし、すり、交へ、だしを加へ、柔らかにして、煮汁、だしに、酒漿のかげんしてすくひ切にして、煮る。又、摺身に豆腐を同分すり加ふ。漿仕立の煮物に加摸す。取合、水菜、芹、葱、針牛蒡、なめ、わり山椒。

※ 「鰻餅はんべい」 参考:『日本芸林叢書 第7巻(はんべい)』

雜類ざつるい

ゑいあさびあかゞいはまぐり、此類、粘皷ねりみそくじら焼鮎やきあゆ、貝類、ゑひ類は漿仕立也。取合、時々物によるべし。


精進

粘皷、ふくさみそ、漿仕立、漿仕立に青皷、生姜皷、山葵皷、山椒皷、擦芋おろしいも、青海苔のり、掛る。

煮物

豆腐、焼ても、麩(奥に委しるす)、揚麩あげふ(線に切)、蒟蒻こにやく、笋、茸類、豇豆さゝげ、瓜、茄子、水菜、其外、時節の取合。

※ 「奥」は、奥書き。
※ 「委」は、くわしく。

右の外、煮物の杉焼、貝焼等、三之巻 委仕様等註なり。



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