石品(いしのしな)
石は山骨なり。物理論に云、土精石となる石は、気の種なり。気の石を生ずるは、人の筋絡爪牙のごとし云々。
されども、其 石質におゐては、萬國萬山の物、悉く等からず。是、風土の変更なれば、即、気を●つて生ずるごとしかり。
又、草木魚介、皆よく化して、石となれり。本草に松化石、宋書に柏化石、稗史に竹化石あり。代醉編に 陽泉夫餘山の北にある清流数十歩、草木を涵て、皆 化して石となる。
又、イタリヤの内の一国の一異泉あり。何の物といふことなく、其 中に墜れば、半月にして、便ち、石皮を生じ、其 物を裏。
又、歐暹巴の西国に一湖有り。木を内に挿さんで、土に入る一叚化して鉄となる。水中は、一叚化して石となるといへり。
本朝、又、かゝる所多く、凡 寒國の海濱、湖涯、いづれもしかり。すべて器物等の化石を其 所になると知るべし。
又、石に鞭うちて、雨を降し、雨をやむる陰陽石ありて、日本にても寶亀七年、仁和元年、及び、東鑑等にも其 例見えたり。江州石山は、本草にいへる陽起石にて、天下の奇巌たり。
※ 「物理論」は、三国・晋の楊泉による『物理論』のことと思われます。
※ 「本草」は、明の李時珍によって編纂された本草学書。『本草綱目』。
※ 「宋書」は、南朝宋の歴史書。『宋書』。
※ 「稗史」は、稗官が民間から説話を集めて記録した歴史書。『稗史』。
※ 「代醉編」は、明の張鼎思によって編纂された『琅邪代酔編』。
※ 「江州」は、近江国のこと。
又、日本記雄略の皇女 伊勢斎宮にたゝせ給ひしに、邪陰の御うたがひによりて、皇女 の腹中を開かせ給ひしに物ありて水のごとし。水中に石ありといふことみゆ。是、医書に云、石■ [疒+叚] なるべし。然ば、物の凝なること理においては一なり。
品類におゐては、鍾乳石、慈石、與石、滑石、礬石、消石、方解石、寒水石、浮石、其餘の竒石、怪石、動物などは、曩に近江の人の輯作せる雲根志に盡ぬれば、悉く辨するに及ばず。
イシといふ和訓ハシといふが、本語にてシマリシツム。俗に、シツカリなどのごとく、物の凝り定りたるの意なり。
イハとは石歯なり。盤の字を書ならべり。かならず大石にて歯牙のごとく徤利の意なり。
イハホとは、巖の字に充て、詩經維石巌々といひて、おなじく尖利立たる意なり。萬葉には、石穂とかきて、秀出るの議なり。又、いはほろともいへり。かたがた轉じて惣てを、いしとも、いはとも、いはほとも通じていへり。
日本にて、器用に造る物すくなからず。就中、五畿内西國に産るがうちに、御影石、立山石、豊島石等は、材用に施し、人用に益して翫物にあらず。故に、其三四筒條を下に挙げて、其余を略す。
和泉石は色必ず青く、石理精にして、牌文等を刻す。又、阿州より近年出すもの是に類す。其石ねぶ川に似て、色緑に 石形 ■ [厂+丁] たるがごとし。石質は硬からず。又、城州にては、鞍馬石、加茂川石、清閑寺石等、是を庭中の飛石、捨石に置て、水を保たせ、濡色を賞し、凡て貴人茶客の翫物に備ふ。
※ 「雲根志」は、江戸時代中期、木内石亭が著した石の博物誌。
※ 「詩經」は、詩経。中国最古の詩集で、五経の一つ。
※ 「維石巌々」は、「節たる彼の南山、維石巌々たり、赫々たる師尹、民具に爾を瞻と」という詩の一節で、人の上に立つ者は慎まねばならないという教え。参考:国立国会図書館デジタルコレクション『東洋倫理学史 上巻』
※ 「阿州」は、阿波国のこと。
※ 「城州」は、山城国 のこと。
筆者注 ○は欠字、●は解読できなかった文字を意味しています。
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