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御影石(みかげいし)/龍山石(たつやまいし)

御影石みかげいし

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

摂州せつしう武庫むこ菟原むはら二郡にぐん山谷さんこくよりいだせり。山下ふもと海濱かいひん御影みかげむら石工いしやありて、これ器物きぶつにもせいしてつみいだす。ゆへに、御影みかげいしとはいへり。

※ 「摂州せつしう」は、摂津国せっつのくに
※ 「武庫むこ」は、摂津国武庫むこ郡。
※ 「菟原むはら」は、摂津国菟原うばら郡。
※ 「御影みかげむら」は、現在の神戸市東灘区西部。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

御影山の名は、城州じやうしう 加茂かもあふひ をやまにして、このくにに、山名さんめいあるにあらず。たゞ 村中そんちう御影みかげまつありて、続古今集しよくこきんしう基俊もととしきやう古詠こゑいあり。

※ 「城州じやうしう」は、山城国やましろのくに
※ 「加茂かもあふひ」は、ふたばあおいのこと。双葉葵。平安時代、賀茂かも神社の祭りに用いられたことで知られるそうです。
※ 「基俊もととしきやう古詠こゑい」は、藤原基俊ふじわらのもととしが詠んだの歌のこと。「よにあらば  又かへりこむ  津の国の  みかげの松よ  面変わりすな」

奥深く採りて
廿丁も上の住よし村より牛車を以て継で
御影村へ出せり

もとこのやま海濱かいひんにて、往昔むかし牛車うしくるま などに負ふたることはなかりしに、今は海渚かいしよ 次第しだい侵埋うもれて、やまとをざかり、いしにも山口やまくちものとりつきぬれば、今はおくふかりて、廿丁もかみすみよし村より牛車うしくるまもつついで、御影みかげむらいだせり。有馬ありま街道かいどう 生瀬なませ川原かわらなどのいしも、この 奥山おくやまとはなれり。

此 上ひんの石といふは、いたついろしろく、黒文くろふなし。是は、むかしいでて、今はすくなし。されども、その 費用ひようをだにいとはずして、高嶽かうがく深谷しんこくいつては、ざるべきにあらずといへども、運送うんそう車力しやりき便たよりなきところのみおゝし。

※ 「すみよし村」は、武庫郡住吉村。
※ 「有馬ありま街道かいどう」は、摂津平野と有馬方面を結ぶ街道。
※ 「生瀬なませ」は、有馬街道と武庫川沿いに位置する生瀬村のこと。

石質いしのしやう
文理いしめは、きやう 白川しらかは石にて、いたつかたし。かゝるがゆへに、器物きぶつせいするに、微細びさい稜尖かと手練しゆれんおうず。

白川は、酒落ほろ/\して、たくみまかせず。石工、大なるもついたつては、難波なには天王寺の鳥井とりゐなどをはじめ、城郭じやうかく石槨せきくはく佛像ぶつぞう墓牌ぼひ築垣ついかきつくり、啄磨たくましては皮膚ひふのごとし。これ萬代ばんだい不易ふえき器材きさい、天下の至寶しほうなり。

※ 「石質いしのしやう」は、質に しょう の読みを充てていると思われます。
※ 「石槨せきくはく」は、石で作った棺を入れる外箱のこと。石槨せっかく
※ 「啄磨たくま」は、玉などをとぎ磨くこと。
※ 「萬代ばんだい不易ふえき」は、永遠に変わらないこと。万代不易。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

品數ひんすう
直塊のつちは、大鉢おほはち中鉢ちうはち小鉢こはちはちとは、手水てうずはちもちゆるにより本語ほんごとはすれども、柱礎はしらいし溝石みぞいしなど也。はじめその用多し。

頭無づなしは、おほき大抵たいてい一尺五六寸にして、そのうへものを一ツ石となづく。
又、六人といふは、一六宛むつづゝになふなり。

栗石くりいしは、小石にして大雨たいうときには、山谷さんこくころおつものゆへ、石にかどなし。これは、鉢前はちまへ蒔石まきいしとうに用ゆ。いしをくりといふこと、應神記おうじんきうたにみへたり。また、萬葉集まんようしう奥津おきついくりともよみて、山陰道さんいんどう●● なりともいへり。大小にかゝはらずいふとぞ。

※ 「鉢前はちまへ」は、書院の縁先の手水鉢ちょうずばちとその周囲の石で造形される構えのこと。
※ 「蒔石まきいし」は、茶室の庭などに配置される飛び石のこと。

割石わりいしは、大割おほわり中割ちうわり小割こわり延條のべながきりたる石なり)、蓋石ふたいし大抵たいてい長二尺斗、はゞ一尺一二寸、あついさ三四寸)、いづれも築垣ついがき橋䑓はしたい石橋いしばし庭砌ていれき土居とゐなど、そのようおゝしまた石橋いしばしかくものべつ阿州あしうよりいだすいしありなり。

切取きりとるには、矢穴やあなほりて、れなげ、いしをつてひゞきのいりたるを、手鉾てこもつはなしとる打附うちつけわりといふ。またよこ一文字いちもんじわるを すくいわりといふなり。

※ 「二尺斗」は、二尺ばかり。
※ 「庭砌ていれき」は、庭の石だたみのこと。庭砌ていせい


龍山石たつやまいし

播州ばんしうさんして、一山いつさん一塊いつくわいいしなるがゆへに、樹木じゆもくすくなし。往々ところ/\、此石山おゝけれども、運送うんさう便たよりよきところきりいだして、今はほりとるやうになれども、運送うんさう不便ふべんやまはいたづらにそんして、きりことなし。

いし寶殿はうでんは、すなはち  立山石たつやまいしにして、そのへん便所へんしよとして もつぱら きりいだし、採法さいはうすべてかはることなし。ゆへりやくせり。

いろ五綵ごさいこんず。きりかたちす事、みな方條ながてにのみあり。

溝渠みぞ河水かは涯岸きしあるひは界壁さかいめ敷石しきいし敷居しきい土居とい庭砌ていれきとうようてゝ、器物きぶつせいすることなし。おほきさは、三四尺より七八尺にもおよび、はう五寸に六寸のものを五六といひ、五寸に七寸を五七といひて、なを おほいなる品数ひんすうあり。

ふもと塩市村しほいちむら石工せつくあり。みなみ尾嵜おさきたつはなといひて、たつかしらたるいしあり。ゆへに、龍山たつやまといふ。

※ 「播州ばんしう」は、播磨国はりまのくに
※ 「便所へんしよ」は、ここでは、適切な所という意味。便所びんしょ
※ 「五綵ごさい」は、五采ごさい。青・黄・赤・白・黒の五色。
※ 「塩市村しほいちむら」は、現在の兵庫県高砂市米田町塩市。
※ 「たつはな」は、竜ヶ鼻たつがはな。参考:高砂市Webサイト「ふるさと文化財登録制度」「竜ヶ鼻(平成24年登録)



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