職人尽歌合 27~34番
二十七番 蒔絵士 対 貝麿
蒔絵士
此御たらいは いかけ地にせよと 仰せられ候
手間は よもいらし
貝磨
此 太刀のさやは
はくたいの かゐか 入へき
※ 「いかけ地」は、沃懸地。蒔絵の技法のひとつ。
※ 「はくたいのかゐ」は、白帯(白い帯状のすじ)の貝、でしょうか。
二十八番 絵師 対 冠師
絵師
墨画は 筆勢か 大事にて候
冠師
別当とのゝ 御拝賀に めさるへき
御かふりにて候 いそかしや
※ 「別当」は、院、親王家、摂関家、大臣家などの家政機関の長官のこと。
※ 「拝賀」は、任官・叙位などのときに、朝廷・神仏などにお礼を申し述べること。
※ 「御かふり」は、御被り。冠のこと。
二十九番 鞠括 対 沓造
鞠括
難波とのは 大かたを 御好ある
沓造
まりくつは はたかなるか
わろきと
※ 「難波との」は、難波別院(大坂にある真宗大谷派東本願寺の別院)のことでしょうか。
※ 「沓」は、くつ。
※ 「まりくつ」は、鞠沓。
三十番 たち君 対 つし君
たち君
すい御らんせよ
けしからすや
能 見申さん 清水まて いらせ給へ
※ 「たち君」は、立君。路傍に立って客をひく娼婦のこと。
つし君
や 上●いらせ たまゑ ゐなか人にて候
みしりまいらせて候そ 入せ候へ
※ 「つし君」は、図子君。店で客をひく娼婦のこと。
三十一番 銀さいく 対 箔うち
銀さいく
なむりやう の やうなる かね哉
薄うち
なんりやう にて うち出 わろき
※ 「銀さいく」は、銀細工。
※ 「なむりやう」「なんりやう」は、南鐐。美しい上質の銀のこと。
三十二番 針磨 対 念珠挽
針磨
こはりは 耳か 大事にて候
念珠挽
数とりと 七へんの玉
むつかしきそ
※ 「こはりは耳か大事」は、小針は耳が大事。針の耳は、針の穴のこと。
※ 「念珠」は、数珠のこと。珠を一つ繰るごとに念仏を唱えるところから 数珠、念珠と呼ばれます。
※ 「七へん」は、念珠の玉の種類のことでしょうか。念珠の玉には七つの種類があるようです。(親玉、主玉、四天玉、弟子玉、露玉、浄明玉、中通し玉)
三十三番 紅粉解 対 鏡磨
紅粉解
御へにとかせ給へ かた紅粉も候は
鏡磨
しろみの御鏡は ときにくゝて
※ 「紅粉解」は、紅 や 白粉 を売る店のこと。店には 紅粉解 がいて、粘度のたかい 艶紅 を 紅皿 で溶いて ほお紅として売っていたそうです。
※ 「かた紅粉」は、紅花からとった 艶紅 を乾燥させたもの。
※ 「しろみの御鏡」は、白鑞の御 鏡。白銅で作られた鏡のこと。白銅は銅を主体にニッケルを10~30%含む合金で、現在の五十円硬貨と百円硬貨は白銅製です。
三十四番 医師 対 陰陽師
医師
殿下より 続命湯 独活散を
めされ候間 唯今 あはせ候
陰陽師
我らも今日は 晦日御祓
持参候へきにて候
※ 「続命湯」は、漢方薬のひとつ。言葉がもつれる、手足がしびれるといった症状の改善に用いられるそうです。
※ 「独活散」は、漢方薬のひとつ。独活の根茎を乾燥させたものだそうです。
※ 「晦日御祓」は、大みそかに行われる清めの行事。晦日祓い。
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖