大好きな場所、立山
「そんなにたくさんやりたいことがあるなんて、幸せなことだよ~もう絶対その山小屋には行くべきっしょ!!」
思い立ったが吉日
2年程前の9月、休職すると決めたことを友人に電話で話した時のこと。
「これまで頑張ってきたからこそもらえる時間だよ。今何かしたいこととか、行きたいところはある?時間は有限だよ」
周囲で休職や転職を経験している人がいなかったためか、休む=怠惰だと決めつけていたからか。ゆっくり休んで楽しいことしなよ!という友人からの言葉にとても驚いた。
ステレオタイプに押し固められていた思考が、心が、一気に解き放たれた瞬間でもあった。
「習い事で茶道・華道・書道がしてみたいかな。あとは、自然環境に関わるボランティアもしてみたいし。そうそう、北アルプスに行きたい。すっごく気になっている温泉のある山小屋があってさ。」
自分でも驚くほどに次々に言葉が出てきた。友人が背中を押してくれたこともあり、直ぐに立山(富山県)へと車を走らせることに決めた。
山小屋に宿泊予約の電話をし、最低限の準備をして、夜中23時頃に車を出発。目的地までは片道520kmはある。行きはゆっくり下道で向かうことにした。
立山連峰を、眺める
立山駅へ着いたのは昼の13時頃。山の麓の駐車場に車を停め、これから「いつか行きたい憧れの場所」へと向かう。でも駅からはさらにケーブルカーと連絡バスを乗り継いで向かわないといけない。すぐになんぞ顔を見せてはくれない立山連峰。
バスの窓から初めて見た立山連峰は白く輝いていた。山なのにどうしてキラキラしているのだろう?何が光っているのだろう?と不思議でたまらない。9月中旬だけど雪なのだろうか、と思ったほど。
終点は室堂平(むろどうだいら)。雲にすぐ届いてしまいそうなくらいに空が近い。ここは日本なのだろうか。これほどに美しいものを見たのは初めてだった。(このあとどんどん更新されていくとは知らず)
15時をまわった頃だろうか。夜に泊まる「みくりが池温泉」という温泉・食事付きの山小屋にチェックインをした。二段ベッドの共用部屋に荷物を置き、またすぐ山小屋の入り口...喫茶店へと向かった。
青々しい空を仰ぐ。ソフトクリームを舐める。太陽の光に照らされたキラキラ光る斜面を眺める。コーヒーをすする。自然の、いい味がした。
美味しい時間を平らげた後は室堂平を散歩した。目の前に広がるみくりが池は青い鏡のように澄んでいた。
散歩を終えて、いつもよりも少し早めの夕食を食べた。ここは本当に2000m地点なの?という程に豪華で美味しい定食。食後には天然の温泉にも浸かった。おもてなしの心なのか?それとも温泉の効用なのか?身体の芯がとても温かくなった。
お楽しみの夕暮れ時がきた。雲よりも高い位置から夕暮れを見るなんて初めての体験。わくわくして山小屋の玄関を出ると、目の前には見たこともない光景が広がっていた。
名前も知らない人とすごいね、きれいだね、と言い合って乾杯をした。定年退職後に日本アルプス登頂を楽しんでいるらしい。松阪から来た元気なおじ様方だった。
毎日ここで働いていている山小屋のスタッフでさえも、「こんなにきれいな雲海が見られるのは1年で数えるくらいしかない」らしい。いそいそと一眼レフカメラを持ってきては仕事そっちのけで写真を撮っていた。いいなぁ、と思った。
雄山を、歩く
朝。またもやこんなに晴れ女を発揮してしまってよいのだろうか?というくらいの空。筋雲がうつくしい、空。
目の前のことでいっぱいだった頭の中も、こんなにも雄大で壮大な景色を見たら大したことはないように思えた。
室堂平を一周しながら立山連峰の一つ、雄山の山頂を目指す。約1時間強の道のり。山頂には立山神社があり、神主さんも常駐している。
鳥居をくぐって山頂の3003m地点まで登ると、お祓いまでしていただける。厳かな雰囲気に身が引き締まるなぁと、ここから眺めながらカップラーメンをすすった。うますぎた。
いいなぁ、わたしもこんな定年を迎えたい。おば様方に手を振りながら雄山をあっと言う間に下山してしまった。
思いもよらないサプライズ
まだ、ここに居たい。でもそろそろ現実に戻らなくてはならない。後ろ髪を引かれるとはこういうことかと思いながら、みくりが池に、室堂平に、そして立山連峰に背を向ける…さみしい気持ちでいっぱいだった。
下りの連絡バスに乗り、あれよあれよと下界へと戻っていく。ここから家路につくまではまた長い道のりだなぁと思いながら車を探していると…なんとあの松阪のおじ様から思いもよらないプレゼント。お互いに名前は知らなかったけれど、「どこから来たか」だけ伝え合ったおじ様方とわたし(笑)
駐車場にはものすごい数の車が停まっていたのに。車のナンバーから探してくれたのか、たまたま見つけたのか…真相は分からないけれど、とってもうれしいプレゼントだった。松阪のじじい(おじ様)ありがとう~~
うれしさと、あたたかさを心に閉まって、また520km先の自宅へと車を走らせた。今度はこの大好きな場所に大切な人を連れてきたいな、と思いながら。
▽当日書いた記事