「ペンの日」にガラスペン製作体験をしてきたはなし。
ガラスペン研究家として決定的に足りない経験があります。
それは「自分の手でガラスペンのペン先を研磨する」こと。
数多のガラスペンの性能を比較研究してきた結果、なめらかに書けるペン先や逆に紙を引っ掻くペン先の形状は解ってます。
でも、理想のペン先を作るのがどれほど難しいのかを真の意味で理解しているとは言い難い。
作家モノを自分で再研磨するなんて論外。セリアのガラスペンで試そうと思ったら再研磨不用の良個体に当たったので計画は頓挫。研磨ワークショップに申し込むも大人気で落選続き。
なんだかんだで機会を得られなかったのですが、会員登録してる「手紙舎のブイン!」内で、ペンの日あわせで開催されるガラスペン製作体験のイベントを発見。
体験範囲はガラスペンの軸とペン先をバーナーワークでくっつけたあとペン先を研磨するというもの。まさに求めていた内容だったので即行申し込みました。
イベント開催日は11/26の「ペンの日」。あわや喉風邪で参加出来なくなるかと思いましたが、処方薬のおかげで何とか回復、無事に当日を迎えることができました。
工房到着と素材選び
製作体験を行う工房
ガラスペン製作体験を行うのは高円寺にある「ガラススタジオ ブリエ」。
バーナーワーク教室、ワークショップと商用量産品がメイン。今をときめく超有名作品コラボのガラスペンも手掛けています。
明確にブリエ名義とわかる作品を購入する場合、1点ものオーダーか工房内で販売されている作品を買うかの2択ですね。
ペン軸・色ガラス選び
工房に到着した時点では前の回の参加者がまだ作業中だったんですが、早めに中に入れてもらえて体験用のペン軸を選ぶことに。
定番のスイッチバック軸や動物のついた軸、複数の色を載せて表面に凹凸をつけたキラキラ軸が中心。
ファーストインプレッションはクリスマスツリーのような青い紡錘形の軸だったんですが、残念ながら細かいドットが散っていて握ると痛みを感じたので断念。
次点でキラキラ軸か引き出しの一番奥にあったティールグリーンの軸かで大いに迷った挙げ句――
「すみません、どっちの軸のほうがレアですか?」
――あまり作らないというティールグリーン軸を選びました。
続いてペン軸とペン先をつなぐ玉パーツになる色ガラスの選択。寒色から中間色のクリア系が殆どで、鮮やかな赤など「いかにもありそう」なものがありません。これは暖色系や乳白色系の色ガラスはおおむね扱いが難しいからで、教室ではなくワークショップであることを考えると妥当な措置じゃないかなと思います。
私としては不透明緑があったら良かったのですが、無かったのでグレーにしました。クリアのグリーンだと持ち手と同化しちゃうので、色相じゃなくてトーンを合わせに行ったかたちです。
ペン先選び
ペン先はストレートタイプとひねりタイプの2種類。ストレートはあとでスタッフさんにひねって貰えるので、最初からひねられた(=ひねり度合いの決まった)ペン先はほぼありませんでした。
私が選んだ軸は持ち手部分の径が大きかったので、全体バランスを考えると選択肢は大きめの2つぐらいしか無かったのですが、ここでペン軸選びから思ってたことが口からポロリと。
「……なんかclartoみを感じるなぁ」
「えっ!? 私clartoの方にも所属してるんです!」
「丸善コラボのクリームソーダ買わせていただきました!」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「江戸切子のガラスペンもペン先clartoさんですよね?」
「あ、はい。私が担当してます」
他の参加者の方から「何でわかるんですか!?」と訊かれました。トチ狂った頭の中を検索すれば即座に出てくる程度にはclartoもののスイッチバックは波長が長く線が太めで特徴的なんですよねぇ。
詳しくお話しを伺うと、10本溝のclartoに対してブリエは8本溝でより深いらしく、この時点で別途完成品を買わねばと決意。
酸素バーナー作業
クリアガラスで練習
参加者全員が材料を選び終わったら、スタッフさんが酸素バーナー作業の一連の流れをデモンストレーションしながら教えてくれます(撮影不可)。
流れをつかんだら太めと細めのクリアガラスで練習タイム。
太めの棒を回転させながら酸素バーナーであぶり、棒が光るまで熱する。
細めの棒を回転させながら酸素バーナーの火に入れ、先端を溶かして玉を作る。
玉ができたら火の外に出し、冷めるまで細めの棒を回転させ続ける。
左手に太めの棒、右手に玉のついた棒を持ち、双方を回転させながら先端を酸素バーナーの火に
当て光るまで熱する。回転を維持しながら火の外に出して太めの棒と細めの棒がまっすぐになるようくっつける。
くっつけた棒を回転させながら再び火に入れ、火の中で細めの棒を焼き切る。
焼き切った部分がきれいな玉になるまで火の中で回転させ続ける。
玉を火から出して冷めるまで太めの棒を回転させ続ける。
納得行くまで1.から8.を繰り返す。
――こうして書き出すと結構な工程数だな……。
過去にソフトガラスでのとんぼ玉教室通いの経験がありましたんで、両手でガラス棒を回すのにはわりと早く慣れました。むしろ垂れにくくて扱いやすかったまである。
練習作はスタッフさんがあとで脚をつけてペンレストにしてくれます。だいたいみんな2、3個で練習を終えるそうなんですが、一人ぐらいはらぺこあおむしみたいなペンレストを爆誕させてないだろうか。
ペン軸と色ガラスで本番
いよいよ本番。最初に色ガラスで玉を作り、玉と軸を同時に熱してからくっつけます。
見るからに玉の接着位置がズレてるんですが、「回転させていくうちに中央に寄ってきますよ!」と仰るのを信じてそのまま作業続行。軸径とのバランスを考えて大きめの玉を作りました。
続いてグレーの玉にペン先をくっつけるのですが、それぞれ先端だけ熱するので火から離すとすぐに冷めてくっつかなくなるので苦労しました。そしてやはり中心からズレる。
スタッフさんによる修正
このあとはスタッフさんによる最終調整。ペン先にひねりをいれる場合、左手と右手を異なる速度で回転させるという高度な技術が要求されるので素人にはまず無理。
ペン先は「ちょいひねり」をお願いしたんですが、調整が終わったらグレーの玉とペン先の位置ズレが見事に直ってました。ただ火の中で回転させてただけにしか見えなかったのに……!
調整の終わったガラスペンは徐冷材に突っ込んで冷めるまで待ちます。
ペン先の研磨
私にとっての本命作業・ペン先研磨のターン。
基本動作は「ペン先を耐水ペーパーの上に立て、軸を回転させながら縦方向に引く」となります。必ず奥から手前に動かし、手前から奥に動かしてはいけません。
この「軸を回転させながら引く」が難しい。
軸の回転に集中してたらペン先がピョンピョン跳ねた感じがしたので耐水ペーパーにちゃんと当たってないことしばしば。
そして更に難易度が高いのが、「ペン軸は最初垂直に持ち、回数が増えるに従い徐々に傾けながら研磨する」点。低め仰角のほうが回転研磨しやすいんで、気がつけば高め仰角を疎かにしてペン先最先端にカドができちゃうんですよ……。
筆記仰角の範囲が広いペン先を作れる作家さんはめちゃくちゃ技術力が高い。それが心底理解できました。
完成!
最終的に研磨のダメなところをスタッフさんに手直ししてもらうカタチにはなりましたが、ペン先の接着と研磨のほとんどの工程を実際に体験出来たことは私に多くの知見を与えてくれました。
恐らくガラスペン作家ごとに研磨時の手の動かし方は異なるでしょうから、機会があれば積極的に見学したい所存。
あ、結局工房作のガラスペンも買いました。
余談
イベントは昼食からの開始でしたので、主催の方が予約してくださった「チョップスティックス」でベトナム鶏飯をいただきました。
ブンボーフエという麺料理も気になったのですが、「辛」のマークが付いていたので喉の調子を考慮して回避。食べた方いわくそこまで辛くないとのことだったんで、次はこれ目当てにお店に行きたいですね。
また、体験の後に「ハティフナット」というカフェへ。内装がすっごく可愛かったのに写真撮る余裕なくて残念。
ここでのおしゃべり中に他の参加者の皆さんから紙モノやシール、小分けインクなどをいただき自分の気の利かなさに少々どころではなく自己嫌悪……ブインイベント初体験でノリがわかってなかった、反省。次にお会いするときはお礼を持っていかないとですね。