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note賞を獲ったガラスペン狂いが語るガラスペンの使い方。
どうも、230本という圧倒的物量でぶん殴って創作大賞2024note賞を獲ったガラスペン狂いです。
性能調査開始から約四年半、調べたガラスペンはいまや250本に迫る勢い。つまりそれだけ多くガラスペンで字を書いたというわけです。そこ、9割以上正の字だろとか言わない。
字の下手さは相変わらずですが、ガラスペンを扱うノウハウの蓄積量は自負しておりますので、ここはひとつ「ガラスペンの使い方」について語ろうと思います。
用意するもの
ガラスペン
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100均でガラスペンを売ってるご時世です。ムック本の付録でもAmazonなどの激安通販でも作家ものの高級品でも、お好きなガラスペンをご用意ください。
ペン先の研磨の具合によって合う合わないがあるんでほんとは文具店で試筆して買うのがベスト。詳しい理由はnote賞受賞作をご覧ください。
あとラメインクを楽しみたい方は中字以上の字幅を選ぶのが良いでしょう。
字が細すぎるとせっかくのラメが映えませんからね……。
今回メインで使用するガラスペンはきゃろくろガラス工房さんの「旅のガラス」シリーズのひとつとなります。きゃろくろさんの記事もぜひ詠んでみて下さい!
万年筆インク
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多くの方は「いろいろなインクが使えるから」という理由でガラスペンを使いたいと思ったのでは無いでしょうか。
私が学生の頃は万年筆インクと言えば染料インクか古典インク、顔料インクは辛うじてセーラーの「極黒」が出たばかりでした。万年筆用なので万年筆に入れても問題ないインクしか無かったのですね。自分でも何言ってるかわかんないな!
令和の現在では顔料インクは当たり前。ラメインクもエルバンのエメラルドチボーあたりから注目を集めるようになり、いまや天下のセーラー万年筆までもがラメの入ったインクを売ってます。
いまや「万年筆に入れるのは自己責任」なインクがインク沼を席巻してるってわけでして。
かつてはあまり良く思われていなかったらしいシーン効果や分離色も人気が高いですね。
ガラスペン同様にお好きなインクをお好きな経路で購入すればいいですが、ラメインクのラメの大きさはインクによってかなり差があります。
細字以下の字幅や溝のひねりがきついガラスペンはラメが詰まりやすいのでご注意を。
紙
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インクがにじまない紙であれば何でもOK。万年筆向けの紙であればまず大丈夫です。
ペンレストまたはペントレイ
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ペンレスト使用:HASE硝子工房 レティチェロチャレンジ
机の上から転がり落ちるのを防ぐため、筆記に使うガラスペンは必ずペンレストかペントレイの上に置いてください。
買ったガラスペンにペンレストがついていればそのまま使えばいいし、無ければ箸置きでも全然オッケー。
私は自宅では木製のペントレイ、旅先ではハイブリッドオパールで自作したペンレストを使ってます。
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筆洗
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ペン先を洗うための水を入れておくもの。ペン先の破損を防ぐためにガラスのコップではなくプラスチック製かシリコン製の容器を使った方が安全です。
私はかつてスタバで売っていたプリンの容器をため込んで使っています。
キッチンペーパー
余分なインクを吸い取ったり洗浄後のペン先を拭くのに使います。毛羽立たなければ布でもキムワイプでもなんでもいいです。
できれば用意したいもの
インクポット
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同じインクをひたすら使う場合、インク瓶からインクポットに移しておくと便利。残り少ないインク瓶の中身をインクポットに開けて使うのも良いでしょう。
蓋が栓になってるタイプのインクポットだと、栓をしたときインクの入れすぎであふれる危険性があります(n敗)。なのでおすすめは蓋が被せるタイプのHARIO製。個人的にはフラスコタイプよりビーカータイプのほうが好き。
栓タイプのほうが可愛いの多いんですけどね……。
ライティング用の下敷き
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筆記環境や個人の好みはあるでしょうが、原稿用紙など1枚ペラの紙に書写などする場合は下敷きがあったほうが書きやすいかと思います。
私はランチョンマットの敷かれたダイニングテーブル以外に書く場所がないので共栄プラスチックのライティングマットを使ってます。
ペーパーウェイト
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私はノートを開いたときのふくらみを押さえるために使っています。
材質はなんであれ筆記中にガラスペンをぶつけないよう注意しましょう。
インクマドラー
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ラメインクを攪拌するために使います。また、ごく少量のインクをパレットに移す場合はマドラーをインクに浸けて引き上げ、ついた滴を落とせば無駄が少なくて済みます。
写真は哲磋工房の「インクマドラー」ですが、普通のマドラーはもちろん、インクが染みこまない棒であれば何でもいいです。
パレット
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万年筆用インクには自分で好きに調色するためのシリーズがあります。調色をやってみたい方はパレットを用意しましょう。
百均のパレットで十分なんですが、個人的なおすすめはレジン用調色パレット。
絵の具用のパレットと違って数が必要ですが、シリコンなのでガラスペンのペン先を破損させる危険性が低いですし、多めに調色したインクを小瓶に移すのにも適しています。逆に少量のインクを隅に寄せてペン先ですくい取る、と言う使い方も可能(後述)。
スポイト
インクポットやパレットにインクを移したり、ペン先に直接インクを載せるのに使います。
後者はインク瓶やインクポットに入らないガラスペンにインクを付ける目的のほか、溝ごとに違う色を差してグラデーションを楽しむという使い方もあります。
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スポイトじゃないとインクを付けられないガラスペンの代表格
前者の用途だけならストローでも代用可。インク瓶に突っ込んだストローの上を指で押さえて引き上げ、パレットの上で指を離します。この原理を使ったガラススポイトがclartからリリースされています。
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ナノ歯ブラシ
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神戸派計画のポップアップストアでスタッフさんから教えてもらいました。
柔らかくて細い毛が詰まった歯ブラシはガラスペンの溝にもよく効きます。
アルカリ電解水(水の激落ちくん/ガラスペン洗浄セット)
ガラスペンを水で洗ってもインクが落ちきらない場合、ペン先にアルカリ電解水をかけてナノ歯ブラシで洗います。
入手が容易なアルカリ電解水の代表格と言えば水の激落ちくん。
呉竹からガラスペン洗浄セットが出ていますが、洗浄セットの洗浄液も実はアルカリ電解水なので、自宅でガラスペンを使うだけなら激落ちくん+ナノ歯ブラシで良いでしょう。
ただし旅先にガラスペンを持っていくつもりなら洗浄セットに軍配が上がります。
小型の蓋付きガラス瓶/ユニコーンボトル/点眼容器/タレビン
インクを小分けして持ち運ぶのに用います。小型の蓋付きガラス瓶のうちタミヤ瓶は小分けインク物々交換の代名詞扱いを受けてます。
ユニコーンボトルは万年筆にも使うような普段使いインクの持ち運び向け、点眼容器やタレビンは多種のインクを少量ずつ持ち運びたい人向け。
ビニールチューブ/ぷにゅグリップ
ガラスペンを保管する際にペン先に被せて保護するものです。大半の場合は購入時にビニールまたはシリコンのチューブが付いていますが、チューブがついていないガラスペンの保管に不安があるなら買っておくといいでしょう。
ぷにゅグリップは凹凸が持ちにくい軸にはめて持ちやすくするのにも使えます。
白手袋
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カットしてほつれ止めを塗っている
手の汗や脂が筆記中の紙につくとその上に書いた字が滲むので、予防のために着けています。
インクの付け方
基本的なインクの付け方
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インク瓶またはインクポットにペン先の1/3~1/2を浸けてから引き上げ、ペンレストかペントレイにガラスペンを乗せて少し待ちます。
余分なインクを落とす場合、インク瓶の縁で落とす方法はペン先が破損する可能性があるので、キッチンペーパーなどで吸い取ります。不要な紙に何文字か書いてインクフローが安定してから本番に取りかかるのも一つの手でしょう。
ペン先の全てをインクに浸けないのは毛細管現象で溝がインクを吸い上げるから。また、大型かつ細字のペン先の場合、インクによってはペン先に付けたインクを使い切る前にペン先最先端が乾いて埋まってしまう(=インクが出てこなくなる)ことも。
一度に大量のインクを付けるよりは少なめのインクを筆洗を挟みつつ何度も付けるほうが、特に長文を書く場合には有効です。
ラメインクの付け方
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ラメインクを使うときの悩みは瓶の中を攪拌してもすぐにラメが沈んでしまうこと。大きいラメの場合は特に顕著です。
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ペン先に確実にラメを乗せたい場合、インクマドラーなどの攪拌棒でラメインクをよく混ぜ、引き上げた攪拌棒からレジン用調色パレットにインクを垂らして「ラメ溜まり」を作り、そこにペン先を浸けたほうが成功率が高いです。
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(ほんとはパレットを傾けてハートの尖端に
インクを集めたいのだが独り撮影だと
無理なので諦めた)
シリコン製なのでパレットに残ったラメをペン先ですくい取っても(超極細のペン先でもない限り)破損リスクが低いのでおすすめ。
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その他、先述のスポイトを使う方法も使えます。頻繁に使うインクは点眼容器やプラスチック製のタレビンに入れておくと良いでしょう。
ガラスペンでの書き方
ガラスペンの持ち方
特に決まりはないです。
ご自身が持ち慣れた持ち方で構いません。ただしガラスペンによっては、立て気味に持つとインクが出てこなかったり、寝かせ気味に持つと紙を引っ掻いたり……など書きづらい場合があります。
だから試筆して買う必要があったんですね(MGTN構文)
ガラスペンで書く際の注意点
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ガラスペンはつけペンと違ってインクを貯める溝がペン先全体に付いていますから、筆記中に適宜軸を回す必要があります。インクが出にくくなったと思ったら軸を回してインクの残ってる溝が紙に当たるようにしてください。
また、気になっている人が多いであろう筆圧について。
私はPILOTの筆圧測定で平均の倍をたたき出した女ですが、筆記中にはペン先を破損したことありません。ワークショップで太字のガラスペンを使っている最中、気づけばかなりの力を込めてることも。
ただし極端な細字、とくに最先端部分が長いペン先はやはり気を遣います。ガラスペンはペン先最先端が紙に接地さえすればインクが落ちていきますので、意識して手の力を抜くためにあえてペンを極端に低く傾けたりペン先から遠い位置で軸を持ったりしてます。
ペン先の洗い方
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キッチンペーパーでペン先に余ったインクを吸い取ってから、プラスチック容器に入れた水の中でふり洗いします。
まぁ私は流水でさっさとインクを洗い流すことのほうが多いんですが。
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洗ったペン先の水分はキッチンペーパーで拭き取ります。
一連の作業が終わったら溝にインクが残っていないか確認してください。もしインク残りがある場合は流水ですすいでみて、それでも駄目だったらアルカリ電解水+ナノ歯ブラシで洗います。
超音波洗浄器は事故ってペン先破損するかもしれないので、自分でやるのは極力避けたほうがよろしい。紙当たり最高だったガラスペンでやっちまったあげく修理から戻ってきたら微妙に感触変わって黄昏れた私が言うんだから間違いない。
ガラスペンの保管
――これはちょっと参考にならんだろうな。
私の場合ガラスペンの本数が多いので、素敵なケースに並べるなんて考えたこともありません。購入時の箱にそのまま入れて作家ごとにまとめて収納してます。
ごくまれに箱が付属しないガラスペンにぶち当たった場合、プチプチに何重にも包んで細長い缶や空き箱に入れています。
オマケ・あると面白いもの
ガンヂーインキ消し
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ガンヂー白液を塗ると顔料の色(ピンク)だけが残る
サトウヒロシさんがインク水彩の技法の一種として紹介、オリジナルインク「墨花火」の作例の素晴らしさによってインク沼界隈での知名度が一気に上がった「画材」。
墨花火・隠れ黄
— サトウヒロシ@画家 (@salty_f) October 23, 2024
月と猫
シルエット→ガンヂーインキ消しで「色現し」
というシンプルな描き方。
たぶんこの描き方が1番わかりやすく、使用頻度が高いと思う。 pic.twitter.com/M8blwGF1AV
乾いたインクの上からガンヂー白液を塗ると染料の色が抜けるのです。ガラスペンで書いた字やイラストと組み合わせるとたいへん面白い。
白液しか使わないので万年筆用・ボールペン用のどっちでもOK。逆に言えば青液や赤液が無駄になるということなので、TAGあたりから白液単品に相当する商品を出して欲しいところ。
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ガンヂーインキ消しを使う場合はインキ消しもインクもすべてパレットに移しましょう。万が一にも白液が残った状態のガラスペンをインク瓶に突っ込むわけにいかない。
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ガンヂーインキ消しは大活躍
また、ガンヂー白液を不活性化するために乾燥はミニドライヤーの熱風で行います。
このドライヤーは複数のワークショップで見かけますね。私もひとつ買いました。
終わりに
気がついたら道具の説明が大半を占めてますね……。
書けば書くほど色々出てきて執筆開始から公開までずいぶん時間が掛かってしまいました。
その間に創作大賞2024の受賞が決まり、せっかくだから最終審査結果発表後の公開にしようと思ったら更に書きたいことが増えるありさま。
ワークショップの受講で得た知識を正の字以外の筆記に取り入れたのが大きいですね。特にガンヂーインキ消し。
書いても書いても「まだ足りないんじゃないか」という気持ちがぬぐえないので、何か疑問点とかありましたらお気軽にコメントください。
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ご紹介ありがとうございます!
めちゃ詳しいです❣️そして楽しく拝読していたらハコペンWSのことも出てきてびっくりしました。ありがとうございます✨
— ハコペン miroom開講中 (@hakoppen2018) February 4, 2025
「note賞を獲ったガラスペン狂いが語るガラスペンの使い方。|みねのもみぢば」 @momidiba #note #やってみた https://t.co/Q14t708a43
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