川の字と、ラブホテル。
「暮らすように旅する」という言葉が定着し、久しい。観光体験や宿泊施設のキーワードに「日常」は切り離せないものとなっている。
そんななか、圧倒的に「非日常」を提供し続けている存在が、ラブホテルだ。
仕事で、ラブホテル研究家のONIさんにお話を伺う機会があった。表立って記事にする目的でもなかったのがもったいないくらい、個人的にとても面白かったので、クライアントさんの許可(と応援)をいただいて、ちょっとだけ書き記すこことする。
まず、ラブホテルを歴史的に紐解こうと試みても、記録がほとんどないそうだ。施設においてとびきり素敵な体験をしたとしても、それは極めて私的空間での秘めごと。旅の土産話のように、翌日のランチタイムに、クラスメイトや同僚に報告をしたり、SNSに写真をあげることは稀だろう。クラスメイトにもご近所さんにもSNSのフォロワーにも見せることのない、内なる衝動を解放できる、日常から離れた場所なのだ。
衝動。予定なんてしていない。閉ざされたショートトリップは突如はじまる。だから、「休憩」というシステムが生まれたし、女の子が突然行っても満足できちゃうように、化粧落としから乳液まで、アメニティも超充実。
メリーゴーランド、お城、電飾…。ONIさんのWebサイトに掲載されているような非日常の権化と言わんばかりのインテリア。それらも、かつての時代に編み出された、女の子を喜ばせる仕掛けだったという。はて、本当にそんなことで女が喜ぶっけ?って気もするのは、発案したのが男性だったからかもしれない。
日本のラブホテル文化を支えているのは、日本の住環境やメンタリティとONIさんはおっしゃっていた。たしかに、思い当たるところで言うと、親子が川の字で就寝する日本の子育てスタイルと、赤子の時代から子どもをベビーベッドで寝かす欧米スタイルという違い。カップルから家族になった瞬間、淫靡なものは家庭環境には持ち込まないぞというメンタリティ。でも備わっているものだから、どこかで発露させないと、ご近所さんに見せる表の顔にも歪みが出てしまうよね。
別の折に、コロナ禍でもラブホテル業界は売り上げが落ちなかったという話を聞いた。人間の衝動の受け皿であるラブホテルは永久に不滅であります。
(一方でこれまでの話は若年層の場合で、高齢者は喫茶店でお茶をするように日常の延長にラブホテルがある、という話も興味深かった)