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赤ちゃんはなぜ言葉を覚えるのか 一冊の育児書が教えてくれたこと

口から生まれたみたいに
おしゃべりだけど、
上手に話せたことなんてなかった。

私の「話す」に欠けてたものを
気づかせてくれた本との出会いについて書きます。

言葉を育てる方法を探したこと


初めての子どもは男の子でした。
私には似てない、
色白の柔らかそうな男の子。
息子は1歳になっても聞き取れる発語がありませんでした。

まわりの子は、ママ、パパ、
ワンワン、ジージ、バーバ、などの名詞を言うようになってきたけれど、
息子がやっと初めて言えた単語は、
当時大好きな番組、機関車トーマスが荷台に載せている、
ざいもく(材木)。
次に出たのは、れんけつ(連結)。
しかも変な発音。じゃいのこ、れんつけん。
材木と連結だとわかるのに二か月かかったっけ。。。

そして1歳半検診、要観察の判定をいただき、さらに渡されたのは自閉症の冊子でした。

姉の子ども3人の子守をしたことがあるので、薄々、この子は何か違うなぁと気づいていました。
息子は目も合うし、いつもニコニコしていて、後追いもしたけど、お腹が空いても訴えるように泣くんじゃなくて、
あーもうダメだぁ、お腹空いちゃったぁ、
って感じにさめざめと泣く。
それに、ダメだよとか、こっち見てとか、こちらの言うことに関心がありませんでした。

2歳まで様子をみましょう、と心理士さんから言われ家に帰ったものの、不安で胸がいっぱいになり、半年間こんな不安の中で耐えるなんて無理だと思いました。

なぜ2歳までなのか、
なぜこの子は私の言葉に関心がないのか、
そもそも
なぜ赤ちゃんは言語を獲得するのか。

いろんな疑問が頭の中に溢れました。

この疑問を解決すれば、
この子は話すことが出来るかも。
藁をもすがる思いでした。

何かこの子のために出来ることがきっとある、その気持ちが生きる希望になって、私はその答えを教えてくれる本や情報を、取り憑かれたように探しました。

脳内で停滞している何か

を取り除けば、この子もきっと話すはず。私の中に希望の火が灯った。

自閉症について書かれている本を何冊か読んで、広汎性発達障害、という言葉を初めて知りました。
広汎性とは知的な遅れがなかったり、理由のはっきりしない、という意味。
何冊も本を読んで発達障害やら自閉症スペクトラムというカテゴライズされたものの意味は理解できました。

もしこの子が発達障害だとして、
じゃあどうすれば治るのか、
治りません。
残念ながらどの本にもそう書いてありました。
じゃあ私と息子はこれからどうすればいいの?
症状を緩和するような働きかけが必要。

じゃあ何をどう働きかけてあげればいいの?

繰り返し問い、探し回り、
その答えを具体的に教えてくれる本にとうとう出会うことができました。
これが私の人生を変えてくれた、
中川信子さんの本との出会いです

中川信子さんの本に辿りついた幸運

著者の中川信子さんという人は確か、日本で初めてのST(スピーチセラピスト)になった人だったと思います。

ST(スピーチセラピスト)は言語聴覚士といい、子どもの発達の遅れがある子どもの療育や、病気で言語に障害が出た人に対応する方です。

刊行された2004年はまだそれほど発達障害という言葉が日本では知られていない時期ですが、中川信子さんはそれよりずっと前から言葉の発達に不安のあるお子さんの支援をされていました。

中川信子さんの支援は、単に言葉を教えることではなく、話したいという気持ちをはぐくむということです。

赤ちゃんの興味に合わせて台詞をつける

この本は二つの章に分かれていて、
一章では
全ての子どもたちが、豊かなコミニュケーション能力を獲得するためのアドバイスが書かれています。

赤ちゃんに豊かな言語や表現を増やすため、こちらが思ったことや、こうしなさいという働きかけでもなく、
子どもの興味や目線に合わせて、
台詞やト書きを言ってあげるのです。場面ごとにその参考になるような語り方をアドバイスしています。

語りかけは当たり前のようにしていたけれど、
子ども目線にして話していたかというと、
そうでもないことに気がつきました。

例えばりんごを食べる時、
これ何?
りんごと言わせるんじゃなくて、
りんごだね、サクサクする、
甘いね、美味しいね。赤ちゃんが何に興味を持ったかに合わせて話す。

言葉を知らない0歳の赤ちゃんの脳は、
人生の中でも飛び抜けて吸収が良い時期です。

自分の目線や興味に合わせて
言葉をかけてもらうと、
その事象に合わせた言葉や表現を覚えるだけでなく、
お母さんに共感してもらった体験をしていることになり、
心に寄り添ってもらった、自分を見ていてくれている、という経験も積むことになり、安定した心とコミュケーションの楽しさを覚えていく。

言葉とともに心も育つ。
なんて素敵なんだろう。。。
そしてなんて優しい世界なんだろう。

弱りきっていた私の心にも
寄り添ってもらったような気持ちになりました。
そして、自分の「話す」に足りていなかったものも教えてもらったように思えました。

2章ではことばの遅れや、
行動に気になることがある赤ちゃんへの働きかけについて触れています。

息子の状態にぴったりなことがたくさん書かれていました。

生まれつき受け取るアンテナが弱いために、発達が遅れがちな赤ちゃんがいることを、優しく教えてくれています。

これは別の本で得た知識ですが、
人間には固有覚という感覚があります。
それは自分が一つの個体であることの感覚。
どこかぼんやりとしている息子は、もしかしたら固有覚が弱いのかもしれないと思いました。

息子は私と自分が別の人間であるという感覚が薄く、私に何か伝えなければという気持ちが掴めていないのだ、と分かったのです。

固有覚という言葉は直接的に使われていませんが、この本にも個有覚を促す方法を脳科学を踏まえ紹介しています。その一つは、
大人の手を借りないと出来ない遊びをすることです。主に体を使った遊びで、その遊びの楽しさを知ると、子どもは「もっとやって」と求めてきます。

自分とお母さんが別の存在であり、お母さんにお願いするとまたしてもらえる。だから言葉を覚えたいという欲求を産むのだ、ということを知ることが出来た時、私は心から子育てを楽しいと思うことが出来ました。

定型発達の自然と言葉を獲得する子ではなかったことで、話すということの根底にどんな心の動きがあるのかを知る機会を与えてもらえた。そして子どもだけでなく、私自身の育て直しをさせてもらっているような感覚でした。

子どもは自分にとって必要な刺激を貰うと笑顔になる、それが心が成長しているサインなのだそうです。
私は本の通り、息子が笑顔になる刺激を毎日与えました。

こうした生活を続けていくうちに、
私の中にもたくさんの変化がありました。
これから続く子育てで、
彼に教えてあげたいことがみえてきました。

私とあなたは別の個体、
お父さんも、お友達も。
あなたから私に必要なことを伝えて欲しいし、
伝えてくれることはとても嬉しい。
そして伝わることはとても楽しいよ。だからたくさん話そう。

誰かの伝えたいことを受け止めると、
その誰かはとても嬉しい。
誰かが嬉しい気持ちになることは、
あなたにもとても嬉しいことだよ。

たとえアンテナが弱く生まれたとしても、
そう思う心を持つことは出来るはず。

スピーチセラピストのspeechがもつ意味

中川信子さんの別の著書の中で、
スピーチセラピスト(言語聴覚士)はなぜ英語で話すという英単語、
say やtalkではなくspeech を使うのか、ということに触れていました。
ちょっとうろ覚えなので、確かな表現になっていないかもしれませんが、紹介します。

speech というと日本語では演説やスピーチ、ちょっと一方的に話しているイメージでコミニュケーションとは遠くなるような気がします。
しかし say は単なる言うという意味で、例えば独り言でもsay 、
talk なら〜について話す、会話する意味合いで、
これはコミュケーションに近いような気がするけれど、
speechは、場、相手に合わせて、自ら伝えたいという心で言葉を発するという意味であるから、speech を使うのだそうです。

おしゃべりな私の「話す」に足りてなかったものは、より場に合わせ、相手の気持ちに寄り添い伝えようという気持ちが足りないこと。

これは今でもとても難しい。
でも、振り返ることは出来る。
あの時、私はちゃんと寄り添えていただろうか、伝えるための言葉を選んでいただろうか、、、
だいたい出来てないなぁ、残念なくらい。
でも「気づき」はとても大事だと思います。

私はこの本に出会い、
私を育て直すチャンスをいただけたように思います。

一見、普通の育児本にしか見えないのですが、
脳科学に基づいたアドバイスを
子どもと親の心に寄り添いながら、
子どもが一生涯において幸せな人格を持つために必要な成長の促し方を、愛情ある眼差しと文章でまとめた良書です。
私はこの本に出会えてほんとうに良かったと思います。

さて、発語のなかった息子は今14歳。口から生まれたみたいにおしゃべり君。ただただ好きなことを饒舌に話しております。

そろそろ意味がわかるかな?

speechの意味って知ってる?ってところから話してみたいと思います。


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