【介護日記】認知症母の絶妙なおしゃれ
母はうつくしい人だ。
そしてお洒落さん。
認知症になっても、彼女の美しさは揺らがないし、
お洒落の次元はさらなる高みをめざしている。
時の狭間をたゆたうようになり、
母は一日に何度も着替え、化粧をするようになった。
その服の組み合わせが、これまでと比べたらとてもおかしいのだが、これまた絶妙にお洒落なのだ。
最初はそんな母の様子に、あれだけおしゃれが好きだった母にショックを受け、「それは…変じゃない…?」と言ったこともあるが、
気に留めずに「あら、そう?」ときょとんとする彼女の様子に、
なんというか、まあ、おかしくないかも、と私が根負けしてから、
『私の知っている母という定規』を振りかざすのをやめた。
そうすると、ボーダーにボーダーを重ね、花柄で締めてくる辺りも、
え、おしゃれ〜!
kunelとかFUDGEに出てくる素敵パリジャンみたい!
と子バカ炸裂で褒める。
すると、ふふっと照れる母の顔が、愛おしくてたまらなくなる。
でも私は母に洋服で褒められたことはあまりなく、
自分でコーディネートした日の朝は、
ドキドキしながら母の前に立ったものだ。
母はさっと全体をチェックし、
よければすぐ「うん、よかね」と言い、
悪いときは特に何も言わない。
そうすると私はオーディションに落ちた気分で、すごすごと引き下がる。
それは大人になっても変わらず、
今朝は「あら、よかね!」と合格点を賜った、ありがたや。
洋服に関わらず、私の知る母という定規は測るたびに苦しくなる。
あなたはこんなんじゃないの、と勝手に測っては、勝手に怒って勝手に泣く。
母からしたら余計なお世話だと思う。
でもこの定規を捨てることはしない。
使わないだけ。
たまに取り出して、眺める。
ため息をつく。
それくらいしてもいいだろう。
こっそり、遠目に、
でも、私の中の母を押し付けないよう。