『悪魔の手毬唄』をBlu-rayで観る
遂に、遂に――市川崑監督×石坂浩二コンビによる東宝金田一シリーズのBlu-ray化が始まった。1月18日発売の『悪魔の手毬唄』『獄門島』に続いて、2月15日には『女王蜂』『病院坂の首縊りの家』がリリースされる。
と言いつつ、2006年にDVD-BOX「金田一耕助の事件匣」が発売されたときのような高揚感がないのは、BS、CS放送、配信でも使用された既存のHDマスターを使用したBlu-ray化らしく、2021年に発売された『犬神家の一族 4Kデジタル修復版』みたく、目が冴えるほどの高画質化は望むべくもない。〈Blu-rayで所有する〉以上の付加価値に乏しく見えたのは事実である。
しかしながら、VHS、LD、DVDとメディアが移り変わるたびに付き合ってきた金田一シリーズだけに、当然、発売と同時に義務的に購入。
まずは、シリーズ第2弾にして、最高作の誉れ高い傑作中の傑作『悪魔の手毬唄』。
岡山の寒村、鬼首村へ古くから伝わる手毬唄の歌詞に沿って起きる奇妙な連続殺人。亀の湯の女将・青地リカ(岸惠子)の夫が殺された20年前の忌まわしい事件との関連を、金田一耕助(石坂浩二)と磯川警部(若山富三郎)が追う。
市川崑の華麗な映像技巧は、画面いっぱいに血しぶきが飛び散る強烈なショック・シーンと、叙情的なシーンを巧みに交錯させるところへ発揮させる。さらに、おなじみの加藤武に加えて、岡本信人、常田富士男ら最高のボケ役を揃えて、ユーモアを織り交ぜる余裕も見せる。
事件の原点に、サイレントからトーキーへの映画界の移り変わりが関わってくるため、そのきっかけになった映画『モロッコ』の映像を長く取り入れるなど、枝葉の魅力が豊かな彩りをもたらす。
峠で金田一がすれ違う老婆が原作では、“おりん”なのに、映画では、“おはん”であることを除けば、金田一ものの映像化作品としては完璧と言って良い(脚本家の桂千穂は、後に市川崑が映画化した『おはん』をやりたかったからではないかと推理)。
あだしごとはさておき、Blu-rayで観る『悪魔の手毬唄』は事前の予想に反して、失望することはなかった。DVDと比べると発色が強くなり、冒頭のシーンでも、鬼首村の樹木が重なりあうディテールがくっきりと浮かび上がり、冬枯れの世界へと没入させてくれる。
U-NEXTで配信中の同作と比較しても、同じHDマスターらしく、グレーディングも同様。したがって、〈Blu-rayで所有する〉以上の付加価値がどこあるのかという話になるが、40Gを超える大容量で収録しているだけに、画質面では、HDマスターが本来持っていた情報量を過不足なく見せてくれる。
大きな違いを感じたのは、音質。本作は〈音楽映画〉でもあるだけに、映画館以外では体感しずらかった音への驚きを味わうことができるようになったのはBlu-rayの恩恵と言って良い。
冒頭近くで村の若者たちが奏でるギターに始まり、岸惠子が辰巳柳太郎の演じる仁礼嘉平に、過去の話はしないでくれと懇願する台詞を言い終わった次の瞬間、間髪入れずにメインタイトルが出て、そこに村井邦彦による『哀しみのバラード』が大きく響くという音楽の強調、その後の手毬唄に、芸人をやっていた岸惠子の三味線など、実に多彩な音が本作からは響いてくるだけに、Blu-ray化の最も大きな目玉は音質にありと言って良いのではないか。
映像特典に関しては、事前予告からは期待薄だと思っていたが、予想外に充実。撮影現場のスチールがふんだんに収録されており、『市川崑「悪魔の手毬唄」完全資料集成』の写真と比較させながら見るのも一興。
また、今回はDVD-BOXのときのように、パンフレットを再編集してブックレットとして収録されていない分、特典にデータとして収録されているのは嬉しい。他にも宣材が一式収録されている。
初収録としては、特報と海外版予告編がある。これまでのメディアでは一度も収録されていなかったもので、特報は劇場公開前に流れたきりと思われるが(筆者は初めて観た)、市川崑が凝ったライティングで登場するのが見どころ。海外版予告編は日本版と同じ編集だが、吹き替えられており、文字と声が変わると、キム・ギヨンの映画のような不気味さと滑稽さを醸し出す。
それから、DVD-BOXの特典ディスクに収録されていた市川崑監督と石坂浩二の対談「名探偵金田一を語る」が収録されているのも、新たなファンには嬉しい特典だろう。横溝映画のファンは、所有していても損がない1本だ。