#24 はじめての海外文学フェアからの読書週間ジョゼ・サラマーゴ『白の闇』
4週に渡って書いてきた ”はじめての海外文学フェア” から気になる本をピックアップした本の感想ですが、今回でいったん終了とさせていただきます。
本当はもう1冊マヤ ・ルンデ『蜜蜂』を購入しているのですが、来週はちょっと読んでいる暇がなさそうなのと、年末が差し迫ってきて書店員としてもママとしてもてんやわんやの師走なのでしばらく読めそうにないからです。無念……
(このまま飲みながら読めたら幸せだったー!)
『蜜蜂』スウェーデン語翻訳家のヘレンハルメ美穂さんおすすめで、ご本人がオンラインイベント ”はじめての海外文学スペシャル” でこの本の面白さを紹介しているのですが、それがめちゃくちゃ面白そうなので、しつこいようですがぜひぜひ見てみてくださいね〜。
さて本題に入ります。
今日はジョゼ・サラマーゴ『白の闇』
今年の3月20日に文庫化した作品で、このタイミングでの文庫化というところで大きく話題になったのが記憶に新しい作品です。
なぜなら、これは原因不明で全く目が見えなくなってしまうという伝染病が蔓延した世界を描いた作品だからです。
ちょっと1冊目に読んだ『白い病』を彷彿させますが(タイトルも似ている)、内容は全く違っていました。
『白い病』の方は浅はかな人間たちが窮地に追いやられたときに見せる欲や利己心を嘲笑うような作品でしたが、こちらはもうそんなものすら持てなくなる世界を描いていました。
ある男が車を運転しているときに突然なんの兆候もなく全く目が見えなくなりパニックに陥ります。
そこから始まり、その男を助ける人たち、目医者ととにかく周りの人たちが次々に同じ状況になっていくのです。
焦った政府はとにかく失明者を隔離しようと、今は使われていない精神病院に患者を詰め込みます。
そして感染を恐れて結局誰も世話人はつけられず、日に3度の食事を運ぶ以外は放置状態(それすら守られない)。
水もまともに出ない場所で、これが地獄かという生活を強いられるのです。
1歩でも外に出ようものなら容赦なく射殺。
そういう状況で、特にクローズアップして描かれるのが最初に失明して最初に隔離された人たち何人かなのですが、その中の目医者の妻。彼女一人だけがなぜか失明を免れて見えている状態が続くのです。
この設定が物語をめちゃくちゃ面白く展開させていくのですが、まず想像してみて欲しいのです。目が見えないという世界を。
しかもこの病の特徴なのか、見えなくなると真っ暗闇になるのかと思いきや、全くなんの陰りもない白い光の中に置かれるんだそう。
私はこれを想像しただけで頭がおかしくなると思いました。
まだ、まだですよ。暗闇の方が1000倍マシな気がします。
白の闇ってそういうことかー。
絶対熟睡できないですよね。昼も夜も分からなくて時間の感覚はなくなっていき、おそらく自分が何者なのかも分からなくなっていく。
それゆえ登場人物には全く名前がありません。
みんな目医者とか医者の妻、最初に失明した男などと呼ばれています。
医者の妻は一人だけ見えている状況で、これもまた気が狂いそうになる気がしました。
しかも見えていることは隠していたので、自分が見ていることは周りには気づかれていない。それもまた見ちゃいけないものをずっと見ているような気になるでしょう。
でも彼女はとても強くて頭が良かった。
だから徐々にリーダーシップを発揮していきます。
彼女の周りにいた人たちがかろうじて人間の尊厳を保てたのも、彼女が懸命に動いていたから。
とうとう世界中の人が失明したとき、インフラは全く機能しなくなり、食べ物が手に入らなくなり、町中に死体なのか生きることを放棄した人たちなのかゴロゴロと転がる人たちが溢れます。
水がないのでトイレも機能せず糞便に塗れて。
世界は本当に全て目の見える人たちのために作られてきたんだなと思わされます。
今現在盲目の人たちがもしもこの物語が読めたとしたら、一体どう読むんだろうとすごく気になりました。
自分たちは普段からこんな世界で生きているんだと思うのではないかと思って怖くなりました。
これは確かにとんでもない作品だなぁ。
誰も描かなかった世界だと思う。
ありえないシーンがたくさん出てくる。
ある日いきなりこんな世界がきたらどうしようと震える。
正直いって文体はとても読みにくいです。
サラマーゴさんの特徴なんだそう。
改行はほぼなく、会話の境目も分からないので誰が言ったことなのかかなり注意深く読まないと分からない。
内容も重いので読むのにとても疲れたというのが一つの印象。
でもそれは決して悪いことではなく、この特殊な物語が持つ力でものすごく引き込まれるし、この文体ゆえに物語にリアリティと重さが増していく。抜群に面白いです。
今まで読んだことないようなものが読みたい!という方にはものすごくおすすめ。
とんでもないディストピア作品だと思って読んでいるとけっこうびっくりする展開になっていくので、ぜひともラストまで気を抜かずに読んでほしいです。
やっぱり海外文学面白い!
今回、私が読んだ4作品だけでもチェコ、フィンランド、アメリカ、ポルトガルと多国籍なのだけど、どれも全然違う魅力がありました。
物語を読むだけでその国の空気や時代を感じることができるというのも、海外文学の魅力かなーと思います。
海外旅行もできない今、海外文学で少しでも異国の風を感じるというのもいいんじゃないかなと思います。
何か少しでも気になるものがあったらぜひ手にとって気軽に試してもらえると嬉しいです!