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#22 はじめての海外文学からの読書週間『ムーミン谷の仲間たち』
先週から突如勝手に始まりましたこの読書週間。
現在開催中のフェア ”はじめての海外文学” のリストから何冊か気になるものをピックアップして読んで感想を述べるというものです。
フェアについては前回の自分のnoteか、下のホームページをご覧ください。
書店での開催も青山ブックセンターをはじめとして全国いくつかの本屋さんで開催されるようです。詳細は決まり次第発表とのことです。
さてさて2冊目はみなさんおなじみのこちら
『ムーミン谷の仲間たち』トーベ・ヤンソン/山室静訳 講談社(文庫もあるよ)
フィンランド文学翻訳家の古市真由美さん推薦です。
リストには単行本の方が出ていましたが、文庫化もされているのではじめて読まれる方は文庫を買われることをおすすめします。
見出し画像はうちの本棚の写真ですが、実は元々ムーミンシリーズが大好きで、うちにはムーミン全集とコミックスがずらりとそろっております。
残念ながら『ムーミン谷の十一月』だけないのですがこれもいつか欲しいとずっと思っている1冊……いつか、買います。いやすぐ買います。
今回久しぶりにこの『ムーミン谷の仲間たち』をひっぱり出して再読してみました。
まぁなんて楽しい時間だったでしょう。
寝る前に子供と一緒に読んでもいいような、短いおはなしが9話入っているのですが、あっという間に読んでしまってもっとずっと読んでいたかったのにと思ったほどです。
小さい時からずっとムーミン全集は家にあって、何かというとページを開いていました。
はじめて読んだときはまだ小学生だったので、面白い生き物がたくさん出てくる本というくらいの認識でしたが、もっと大きくなって再読してからはムーミン谷の世界の住人たちの孤独や不器用さを知って本当に大好きになりました。
ムーミンブームでなんだかたくさんのグッズが出て、まさに消費されてしまっているムーミンですが、本来の魅力はひとりひとりのとてもちっぽけなキャラクターたちの物語にあります。
そこにあるのは手垢のついた癒しなんかじゃなくて、現代の私たちが感じているのと同じ生きづらさや孤独感です。
まさにこの『ムーミン谷の仲間たち』にはそういう孤独を抱えるキャラクターたちがたくさん出てきます。
古市さんも先日のオンラインイベント「はじめての海外文学スペシャル」でご紹介されていましたが、6話目の「目に見えない子」に出てくるニンニという女の子はまさにそう。
(こちらのオンラインイベント、リストの中からたくさん魅力的な本が紹介されているので、ぜひ見てみてくださいね)
「目に見えない子」はずっと親代わりの叔母さんから皮肉を言われ続けてきたために、姿が見えなくなってしまったという女の子のお話。
ムーミン一家は姿が見えない子にどうやって話しかければいいのかと戸惑いながらもわりとすんなりと受け入れ、それぞれのやり方で接します。例えばママは
「きっとこの子はしばらくのあいだ、見えなくなっていたいと思ったのよ。(……中略……)気分が晴れるまで、そっとしといたほうがいいわ。」
と言ってありのままを受け入れるようにします。
ちびのミイは容赦なく
「あんた、ぶたみたいによくねてたわね……」
なんて言ってはやしたてたりします。
そうするとすかさずムーミントロールがやってきて
「ミイのことなんか、気にかけないこと(……中略……)ぼくたちのところにいれば、きみはまったく安心なんだよ。」
となぐさめたりして本当にそれぞれです。
そのかいあってかニンニは次第に姿が見えるようになってきて、どうしてもみえなかった顔も最後はとある感情を思い出すことで……という話。
現代にも繋がる社会性がここにはあります。
それから1話目の「春のしらべ」も印象的です。
旅をしているスナフキンと偶然出会った1匹のはい虫。スナフキンに憧れていたというはい虫は大興奮で騒ぎまわります。
せっかく今とてもいい春の歌を捕まえようとしていたスナフキンはそれが煩くて仕方ありません。
でもはい虫の方はお構いなしで、せっかく出会えた憧れの人にぜひとも名前を付けてもらいたいと願うんです。
それを聞いてスナフキンは
「おまえさん、あんまりおまえさんが誰かを崇拝したら、ほんとの自由はえられないんだぜ。ぼく、よく知ってるがね。」
と言うのです。
それでも名残惜しそうに、悲しそうにするはい虫にスナフキンは
”ティーティ=ウー” と言う名前を授けます。
その途端はい虫はただのはい虫からティーティ=ウーになり、飛んで消えてしまいます。
誰もいなくなった後で、スナフキンは自分がとても冷たく接したことを後悔して歌のことも忘れ、ティーティ=ウーを探し回ります。
ようやく見つけた時にはティーティ=ウーは前のはい虫だった頃とは変わってしまっていましたが、スナフキンはティーティ=ウーとのおしゃべりに満足し、また歌を捕まえにいくのでした。
こちらもみんなから省みられない名も無い生き物が、名前を持って強くなるさま、それだけじゃなくその名も無い生き物を蔑んでしまったという一人の普通の人(スナフキンは人ではないけど)が描かれています。
なんでもないシーンだけどトーベが書くと春の命が芽吹くように、物語が命を孕んでいくから私たちのお腹の中にすとんと落ちるのです。
今回わたしが読んで1番好きだったは、最後の「もみの木」
時期的にも今読むのがとってもおすすめ。
冬にはいつも冬眠してしまうムーミン一家はクリスマスがなんなのか知りません。
でもクリスマスがやってくるって大騒ぎしている人々を見て、これはえらいことだ大変恐ろしいことが起きるに違いないと、慌ててみようみまねで準備をはじめます。
まずはもみの木が必要だと聞いて、何に使うんだと首を傾げながらフィリフヨンカさんの家から勝手に切り倒してきたり、綺麗なもので飾るんだと聞いておそらく危険なことからその中に隠れるためだろうと貝殻やシャンデリアの飾りで飾りつけたりと、まあオリジナリティ溢れるやり方でやっていきます。
それから御馳走が必要だと聞いて、クリスマスってお腹をすかしてるの?とジュースやこけもものパイなどを並べます。
そうしてビクビク待っているとはい虫がやってきて「クリスマスおめでと」というのです。
そしてはい虫たちがそれぞれムーミン一家のクリスマスを褒め称え、うっとりして最後にはい虫のおじさんが「ただ、あのてっぺんに星があるといいんだがなあ。」言うとはい虫は「そうでしょうか」と答え「考えさえ正しけりゃ、それはあってもなくてもたいしてちがいはないんじゃないですか。」と言うのです。
この最後が素晴らしくて何度も読んでしまいました。
ついあらすじを大体書いてしまいましたが、実際に読むともっとずっと味わい深い物語なのでぜひクリスマス前のこの季節に手にとってもらいたいなと思います。
クリスマスプレゼントにももってこいですね。
今週は大好きなムーミンの世界にひたれて本当に幸せな週でした。
ムーミン好きだけど本は一度も読んだことないと言う方、そもそもあんなメルヘンチックなキャラクターに興味はないと言う方、どちらにもぜひ一度読んでもらいたい童話です。きっと想像とは違った世界がそこに開けていると思いますよ。
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