11月に読んだ本
今月は、4冊読めたので上出来かと!
忙しかったのにこれだけ読んだ自分をほめたい。
でもどの本も飛び抜けて面白くてめちゃくちゃ読むのが楽しかった。
いや、内容は重くてつらい場面もあったんだけど、あまりにも本の完成度が高すぎて読むことに幸せを感じた時間でした。
『生まれた時からアルデンテ』平野紗季子 文春文庫
最近、平野沙希子の新刊が出ていたのを見て、この本を再読したくなった。
フードエッセイストの肩書を持つ彼女は自身の食生活を綴ったブログが話題になり、雑誌等での連載を多数持つ。
その彼女の食へのこだわり、、、というのとは違う、探究心!がぎっしりつまったエッセイになっている。
食べ物を選び、それを食べる時、そしてそれを味わうという過程に生まれるドラマティックな感情のほとばしりは、読んでいてこちらも胸が高鳴り、おなかがぐうといって、つい冷蔵庫をあさりに行ってしまう。
平野沙希子さんの中で食事は毎回非日常であり、生まれたてのゆらめく感動がともにあるようだ。それは銀座の風月堂のフルーツサンドであっても、コンビニのスイーツであっても同じだ。だからつまらない食事をしてしまうことを悪に感じてしまっているんじゃないかと思うほど、日常の食事が感激に包まれている。
山本宇一さん(表参道LOTUSオーナー)との対談では、「平野の場合さ、おいしいものが好きとか色々言ってるけど、食べものが身体に入った時とかお店に入った時に心揺さぶられることの中毒なんだよね」と言われていて、あ、ほんとその通りな感じがすると思った。店のたたずまいを見た時からもう平野さんの中でドラマが始まっている。そのすべてに矜恃があるかどうか、ただのはりぼてではなくちゃんと中身のつまった容れ物であるかどうか、そして接客から内装、メニュー、どんな食器にどう盛り付けられるのか、そしてもちろん味はどうか。こう書くとなんだかミシュランの調査員のような星をつけるような人を思い浮かべるかもしれないけれど、平野さんはどこにでもあるような小さな喫茶店みたいなお店にも、光るものがあるを見つけ出す。そこがとても面白いんだと思う。食べ物は調理された瞬間から形態を変えていく。その変化の中で一瞬の最高点を見つけ出すことも素晴らしく上手な人だ。再読してまた改めてこのひと友達になりたーいと思った(笑)
『菜食主義者』ハン・ガン クオン
食の本つながり、、、、かと思うかもしれないが、こちらは全然趣向の違う本だ。
ハン・ガンノーベル文学賞受賞のニュースに飛び上がったのは、わたしだけじゃないと思う。
『すべての、白いものたちの』を読んだときのあのざらりとした感覚は今も忘れない。そう、人間の感情と身体のはざまにある感覚をことばにすることにものすごく長けたひとだなと思った。
この『菜食主義者』は3人の語り手がいて、一人が突然肉や魚を見るのも嫌になってしまい菜食主義になるヨンへの夫、もう一人はそのヨンへが持つ蒙古斑に執着していく義兄、最後はその義兄の妻でヨンへの姉インへ。彼らが語る三部構成になっている。
すべての動物としての欲望が薄く薄くなっていき菜食へ、そして自身が植物に近い状態になっていくヨンへ、それを1ミリも理解できず、どんどん離れていく夫と、人間の獣的な欲望を芸術として表すことにのめり込み最後は自分の欲望に囚われていく義兄、そしてもっとも人間臭くすべての出来事に翻弄されていってしまう姉のインへ。三部とも中心にはヨンへがいてヨンへが少しずつ正気を失っていくことに多かれ少なかれまわりの人間が影響を受けていく。
何と言っても、やはり感覚を切り取る力がすごい。人間の獣的な部分から植物的な部分までものすごい振れ幅で身体をめぐる感覚をとらえる。読んでいてものすごく喉がかわいてしょうがなかった。
わたしの語彙力ではうまく伝えられないのがもどかしいけれど、ここに人間の原動の深淵があると思う。もう少し書きたいけれどこの作品に向き合う体力が今の自分になくて、これはまた絶対再読したいと思った。そしてハン・ガンの他の作品もすべて読みたい。
『方舟を燃やす』角田光代 新潮社
読書会、課題本で読んだ1冊。久しぶりの角田光代。
2人の主人公がそれぞれの半生を交互に語る形式で物語は進む。恐怖の大魔王や、口裂け女の噂話が猛烈に流行るオカルトブームの中、母親を亡くしたときの記憶を引きずりながら生きている飛馬。自然食信仰やワクチンの可否、自分ですべて選択してよいものをこどもたちに与えてきたつもりの不三子。二人の人生のキーワードは”信じるとは” 。飛馬が信じてしまったせいで起こったかもしれないこと。そのこと自体も本当のことが何かわからない。不三子がよいものと信じておこなってきたことが、子どもの体にとってどうだったのか。それも実際によかったのか悪かったのかはわからない。そういうところまで、本当に細かく描かれていてものすごくリアル。誰が悪いわけでもないのに起こってしまう人生の悲劇。それが何かを信じたせいだとしたら、、、。後悔、反省、羞恥、、、そんなことを繰り返しながら時は流れる。信じるとは何なのかどうしても考える。「信じるイコール絶対」という印象はあるかと思うけれど、人間は誰しも信じたいものを信じる、感情がベースの生き物。信じることさえも危ういものなのだと改めて思う。それにしても角田光代の作り出した世界はとてつもなく現実だった。
『たまたま生まれさせられたあなたへ』垂井真 放課後
デビュー作よりずっともくめ書店の棚を彩ってくれている、垂井真さんの新刊。
今回は珍しい企画ものだ。垂井さんの誕生日に本を買ってくれたひとに、そのひとの誕生日の掌編をひとつ垂井さんがプレゼントしてくれるというものだった。それは本を1冊買ったからついてくるおまけのギフトとしてはあまりにも贅沢で、わたしもどんな物語をさずけてもらえるのか気になりすぎてお願いしてしまった。
ということで、この中にはわたしの誕生日にまつわる1編も入っている(どれがそうなのかぜひ当ててみてください!)。
他の方に向けたものも全部読めるので、この物語はどんなひとに当てられたものなのか想像するのも楽しい。すべての小編がだいぶ違うテイストで書かれていてものすごく楽しい。読むところを日付で選んでもいいし、開いたところから読み始めてもいい。時折はさまれる引用文もどれもすごくよくて、よすぎてふと泣きそうになる。垂井さんのつくる本はこれだから油断できない。ふつうにランチパック(古い!?!?)とか食べてる気分で気軽に読んでると、とつぜんめちゃくちゃ深い琴線にふれてくるときがあるのだ。あれ、なんで泣いてるんだろうわたし、、、みたいな自分でもよくわからない涙が流れたりするのでこまる。でも、なにかすごくきれいなものにふれたいなと思う時つい開いてしまうのが垂井さんの作品だったりする。
来月は、年の瀬なのでどれくらい読めるかわからないけど、3冊くらいはよみたいなぁと思っております。
ブック倶楽部メンバーが教えてくれた、すごろくで次読む本を決めるっていうのやってみたかったけど、1ヶ月に読める本が少なすぎてすごろくが完成しない、、、、そもそも、、、