『全自慰文掲載 又は、個人情報の向こう側 又は、故意ではなく本当に失敗し、この世の全ての人間から失望されるために作られた唯一の小説』その1
※この小説は、本当の意味での「実際のところ」を表現するため、誤字脱字、文法の間違いなどを、そのまま掲載しています。
献辞1
金子郁容さんが言っている「自分自身を傷つきやすいバルネラブルなものにするボランティア」という考えかたは、たしかに面白い。――『世紀末は世紀末か』/赤間啓之・いとうせいこう著より抜粋。
献辞2
「見本人」っていうわけやな? 結局、日本人は。――松本人志の『リンカーン』内の発言より抜粋。
献辞3
ゴミというものが、整然としたところには必ず入っているんですね。
部屋が片付く、ということは、ゴミを片付ける、ということを前提にしないとありえない。
エントロピーを、溜めて、吐き出してやらなきゃならない。
ところが、ゴミの方がどんどんどんどん大きくなって、最後には、ゴミの方が実態になってきてしまう。――【養老孟子×安部公房】社会のゴミとは何か?より抜粋
Ⅰ-1
あーあ。
――いきのこちゃtか(「生き残ちゃったか」の誤変換)。
……なんて、凡俗さ。
……恥ずかしい。
……もう一階(「一回」の誤変換)、……やり直させてくれないか、冒頭から、冒頭の文章から(文法上、重複しているが、原文ママのまま掲載)。
自殺して、いや、自殺し切れず、未遂に終わって、生き残ちまった場合、こんな書き出しになるなんて、思っていなかった、といえば、嘘だ。
そこじゃないのよ、問題は。
もっとこう、文法も完璧で、誤字脱字もない、そんな描写が良かったんだよ、自分は。
でも、もう、遅い。…というか、無理だね、こりゃ。
――なんだっけ、この状態、あ、そうだ、体外離脱か。…いや、臨死体験? って言うんだっけ? どっちだっけ? …ああ、臨死体験としての体外離脱かな? うん、そうそう、その臨死体験としての体外離脱している状態で、自分の生身の体に頭から、ぬっと抜け出し、今、病室の天上から、意識を取り戻していないベットで寝たきりの自分も、病室の様子も、そこに集まっている姉と結婚した義兄(読み方が分からないので、「義理の兄」と変換した後、省略)の夫婦、母、父たちの姿やふいんき(「雰囲気」ではなく、「ふいんき」が正解だ、と思っているミス)が、全部見えちゃってんだから。
――それに加えて、自分の場合、今こうして思っている自分の思考や言語それ自体が、全部、自分の周りに文字として全部目に見えちゃってんだから。
……本当にさ、もう一度、書き出しから、やり直させてくれない?
別にこの時、体外離脱している自分のみが、この、自分の文章、いや違った、自分の思考の文字化は、見えてないはずだから、気にすることない、というのは、重々、分かっているんだけどさ。
実際にさ、自殺という坑道(「行動」の誤変換)を起こしてみたら、こんな、平凡以下の、物書きとして、才能がないことが丸出しの、滅茶苦茶な思考の持ち主であることが、誰かにバレる気がするんだって。
公開処刑にも、程があるって。
……ていうか、そもそも、よく聞く体外離脱をしていること自体、ベタ過ぎて、恥ずかしくないか?
もっと他に、なかったのかよ⁉
もっと奇抜な体験、なかったのかよ⁉
自分の思考が文字になっている以外、マジで、普通に、自分の頭から自分の意識が、意図(「糸」の誤変換)みたいに伸びてる、よくある、例のアレじゃねぇかよ。
ていうか、なんだ、お前。
以前、Twitter、あ、いや、Ⅹか今は、いやもう、どうでもいい、そんな面倒くさい区分けは、とにかく、西加奈子さんとその著作について、「作家たるもの、個人的な体験を専売特許のように語ってはいけない」みてーなこと、ほざいときながら、この様って、なんだ、お前はよ。
結局、物凄く貴重な個人的体験を語っちゃってんじゃん、お前も。
しかも、個人的な体験として、大して売りにならない、エピソードとして超絶弱い、っていうね。
……なんて、凡俗さだ。
でもまぁ、――ぜんぶ、そういう、自分自身が隠しておきたかった、凡俗さが、今回の、自殺未遂の罪と罰とも言えるのか。
ん?
――よくよく見ると、輸血の、血液のパックの、アレ、正式名称なんて言うのか知らんが、アレ、色んなチューブとか管とかと一緒に、自分の体のすぐ側に、置かれてあるな。
まぁ、当たり前か。
のどぼとけ(変換されなかった、という誤変換)を、母がいつも使ってる包丁で刺したんだから。
元々、切れ味、悪かったから、刺し味も悪かったのか。
結構な勢いで、ぶっ刺したつもりだったんだけどなぁ、自分の首元。
…誰の血を、輸血したんだろう。
憎き父親の血、でもねぇんだろうなぁ。今は、近親者や知人の血は輸血しねぇ、って聞いたことがあるしなぁ。
ん?
担当医らしき医師が、病室に入ってきたぞ。
母、父、姉と義兄(読み方が分からないので、「義理の兄」と変換した後、省略)に、お辞儀してんな。
まさか、今夜が山です、的な、そういう、ベタなやりとり、するんじゃねぇだろうな?
「お疲れ様です、先生」
「いえいえ。こちらこそ」
「はっきり申し上げて、一さんの容態なんですが、今晩が山です」
言っちゃったよ、おい。恥ずかしい。
まんまじゃねぇかよ、恥ずかしい。
ひねりねぇな、恥ずかしい。
「でも、――やるべきことは全てしてもらいましたから。私たちも、覚悟は、決めてます」
「いえいえ」
ひどくショックを受けて、体中を震わせている顔を覆っている姉に向かって、義兄(読み方が分からないので、「義理の兄」と変換した後、省略)は体を抱き寄せ、だいじょうぶだよ、だいじょうぶだよ、と小声で姉をなだめながら、
「でも、まさか、僕たちが不妊治療をしていた病院と、彼が同じ病院に搬送されるとは思わなかったです」
は?
そうなの?
嘘でしょ。違うでしょ。
不妊治療って、よく知らないけど、保健適応外でしょ? 専門的な病院しか、やらないでしょ?
嘘だよ、そんなの。
「――なんとも珍しいケースです」
「僕たちが、不妊治療の時に、お互い、この病院にしめいきょうけつ(「指名共血」の誤変換)していたことが、こんな時に、役に立つなんて」
「まぁ元来、明かしてはいけないことなんですがね」
「ありがとうございます」と母。
「いえいえ、たまたまですから」と義兄(読み方が分からないので、「義理の兄」と変換した後、省略)。
え?
なに、え?
自分、この、姉の結婚相手の夫さんから、輸血、されたってこと?
あるわけねぇって、そんなこと。今の輸血の制度上。
――でも、母が以前、「浩之(姉の夫の名前)さんは、ab方(「型」の誤変換)だからねぇ。天才肌なんでしょうね」とか、言ってたなぁ。
じゃあ俺、ab方(「型」の誤変換)だったの?
へぇ。
――ってことは、やっぱり、特別で、転載(「天才」の誤変換)、だったんだ、自分。
……いや、恥ずかしいって。
…………超絶、恥ずかしいって。
……めっちゃくちゃ低俗な、血液型占いなぞを信じてた、典型的な痛いやつじゃん。
なんて、低俗さ。
……なんだか、顔が熱くなってきた気がする、いや、実際は、自分、浮いているし、体の変化は感じられないんだけど、――こりゃ、本当に、一刻も早く死んだ方がマシだな。
この先、先生が言うように、山を越えてしまったら、髪も伸びて、卑下(「髭」の誤変換)も伸びて、爪も伸びて、すね毛も伸びて、チン毛も伸びるわけでしょ?
……いや、恥ずかしいって。
……最後の最後まで、自分の見た目、外見ばかり気にしている、この凡俗さたるや、じゃねぇか。
それにしても、義理の兄の輸血かよ、グロテスクだなぁ。
グロテスク、といえば、さっきから姉が、うつむいて、泣きながら、自分のお腹を、さすっているよ、ああ、もう。
そっか。
――やっぱ、出来たんだね、不妊治療の末に、赤ん坊が。
んで、流産しちゃった可能性があるわけだ、弟の自分の、今回の自殺未遂のショックのせいで。
だとしたら、ますます無理、生きてらんねぇわ。
だって、そもそも、自殺しよう、と思った原因だからなぁ、姉夫婦に子供が出来るかもしれない、っていうことが。
ん?
なんだ、これ。
上の方にある、真っ暗闇に、吸い込まれていく。
その暗闇の中に吸い込まれようとしている際に、本体から離脱した状態の自分と、本体の自分とを、つなぐ糸みたいなものがあるんだけど、何者かが、それを切ろうとしている。
よく見れば、暗闇の先に、ほのかに、光がある。
あそこへ、逃げよう。
――って、これも、お決まりじゃねぇかよ!
ふざけんな! 恥ずかしい!
立花隆の『臨死体験』に出てくる、エピソードまんまじゃねぇか、これ‼