天球図

文明と地図を考える その6

今回は、古代ローマ時代の地図について触れていきたいと思います。

古代ローマの地図で最も有名なものは、「プトレマイオス図」です。

画像はWikipediaからの引用です。

この地図を見てみると、

・全体像が扇型になっている

・地中海の南北が妙に詰まって見える

・インド方面の海岸線が詳細に描かれるようになった

・アフリカ大陸とインドが、南側でつながっている(インド洋は内海)

など、いくつかの特徴が見てとれます。


プトレマイオスは、2世紀にエジプトのアレクサンドリアで活躍した地理学者・天文学者です。前回取り上げたエラトステネスも、アレクサンドリアで活躍した学者でしたね。

プトレマイオスもエラトステネスも、ギリシャ人です。


実は、古代ローマ人をよく見てみると、ちょっと「ん?」と思う部分があります。古代ローマ帝国の規模や、続いた年数などから考えると、理系の学者で著名な人が少ない気がする…。

あれだけの素晴らしい遺跡を残した古代ローマ人ですから、さぞかし…と思いきや、ちょっと意外です。

どうも、新たな説を生み出したり、地道な観測を続けたり、ということは、古代ギリシャ人の方が得意だったようです。

古代ローマにはあんなに立派な建築や政治システムがあるのに?と思いますが、古代ローマ人は「実用性」を重んじ、「応用力」に非常に長けた人々だったようです。

つまり、理系の基礎研究や新たな芸術・文化の創造は古代ギリシャ人が、それを実用化し応用して発展させることは古代ローマ人が担っていた、ということです。

地図も、描くためには地道な資料収集や観測が必要ですから、古代ギリシャ人の得意分野と考えてよさそうです。


話をプトレマイオス図に戻します。

まずこの地図の「全体が扇型状である」という点ですが、描き方にその原因があります。

この地図は、地球球体説に基づいて描かれています。しかし、地球が球体であることは、地図を描くうえで大変不都合です。

なぜなら、球体を正確に平面に展開することは不可能だからです。

そうなると、地図を描くためにはどうすれば良いのか…。

方法は2つあります。


・できるだけ細く切り刻んで、平面に広げる

 …うーん、見づらい…。

・透明な球体(地球)に光を当て、紙に写った影を地図にする(投影法)

 …球体を正確に写し取ることはできませんが、平面にはなります。

(画像はWikipediaからの引用です)

プトレマイオス図は、初めて投影法を使っています。

この地図で使われている図法は、今でいう「円錐図法」と呼ばれる図法になります。円錐に球の影をを投影し、展開しているため扇形になります。

(現在の地図も、色々な投影法を駆使して描かれています)

古代の人々も、球を平面に展開できないことはわかっていたはずなので、平面の地図を描くには工夫が必要であることには気づいていたと思います。

しかし、エラトステネスの世界地図は、そのための対応を取った様子はありません。悪く言えば「何となく」で済ませていた部分があります。

しかし、プトレマイオス図はその対策を取っています。

つまり、プトレマイオス図は、「それぞれの位置関係や距離が正確な地図を描く」という明確な目的があったと考えられます。


実際、プトレマイオス図には、世界の主要都市などの正確な位置を割り出すため、現在のものに近い緯度・経度の線を地図上に引かれています。

それぞれの正確な位置を割り出すためにはできるだけ細かく等間隔に経緯線を引く必要があります。プトレマイオス図はその原則に忠実に従いました。

改めて、エラトステネスの世界地図と比べてみましょう。

比べてみると、エラトステネスの世界地図と違い、プトレマイオス図の経緯線は等間隔であることがわかります。

ちなみに、2つの地図が描いている範囲はほぼ同じ、ヨーロッパ、アフリカ大陸北部、アジアです。(東経0~130度付近、北緯20~70度付近)


ところで…先述しましたが、地中海に注目してください。

…何となくですが、エラトステネスの世界地図の方が正確に描いてあるように見えませんか?

プトレマイオス図の方が、正確性を重んじていたはずなのに…。


その答えはエラトステネスが地球の大きさを測った手法に注目すると見えてきます。(さらに、プトレマイオス自身のミス?もあります)

その答えや、プトレマイオス図のその他の特徴については、次の記事で触れていきたいと思います。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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瀧波一誠
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