日本史のよくある質問 その13 「荘園」とは?③
前回まで記事では、日本史(古代史)の初期荘園、その衰退までについて触れました。
荘園とは?① 荘園とは?②
も読まれると、話の流れがつかみやすいと思います。
初期荘園の繁栄は長くは続かず、新興勢力の「富豪の輩」(主に有力農民)が院宮王臣家(皇族や上級貴族)などと手を組み、荘園を拡大していきます。
この荘園の特徴は、
・専属の荘民がいる
・山林なども含む領域的な支配をしている
・違法だが、黙認状態
の荘園が拡大していくのです。
さらにこの荘園には、重税から逃げ出した多くの民が保護を求めて流入し、荘園の経営を支えていきます。
朝廷からすれば、公田を富豪の輩に奪われ、民は手出しできない荘園に逃げ込んでしまうので非常に困った事態になります。
そこで朝廷は、このような違法な荘園の拡大を阻止しようと動き出します。
というわけで、今回のテーマは…
③院宮王臣家と延喜の荘園整理令
です。
延喜の荘園整理令が出されたのは延喜2(902)年のこと。
時の天皇は醍醐天皇。
「延喜の治」と呼ばれる天皇親政を目指した天皇として有名です。
そして、この政策のキーマンは藤原時平です。
藤原時平というと、あの菅原道真
を大宰府送りにした張本人ですので、あまり良いイメージを持たれていないかもしれません。
ただ、時平は崩壊しつつあった律令制の再建のために尽力した人物でもあります。
藤原家というと、律令制の庇護者というよりその逆、律令制を崩壊させた大荘園領主というイメージが強いと思います。
しかし、少なくともこの時代については違っていたようです。
この時代の藤原氏の収入は、主に
・食封(朝廷から支給される給与のようなもの)
・位田、賜田(官位に応じて与えられる田)
などで、荘園ではありません。そのため、律令制が機能しなくなればきちんと食封がもらえなくなる可能性があり、その維持は収入の維持のためにも必要な事だったのです。
さて、このような背景から出された延喜の荘園整理令ですが、9通の太政官符で構成されています。
その中で、院宮王臣家に関する内容をざっくりまとめると、
・院宮王臣家が山川藪沢を占有してはならない
・民の私宅を借りて、そこに収穫物を集めてはならない
・勅旨開田や、院宮王臣家の土地集積を禁じる
という内容です。
※山川藪沢=明確な管理者がいない共有の土地(山林や原野、川など)
※勅旨開田=太政官からの許可を得て行われた開墾
つまり、違法な占有はもちろん、勅旨開田のような合法的な開田、さらに農民からの借り上げや買い取りまで厳しく禁じています。
この内容を見る限り、醍醐天皇や藤原時平の律令制再建にかける熱意を感じられますね。
ただ、この内容を見る限り、「今存在する荘園をどうする」というより、「今後、荘園を増やさないようにする」ということに力点を置いているように見えます。
実際、院宮王臣家と国司の力関係を考えても、現在の荘園を収公(没収して国の管理にする)というのは難しかったのでしょう。
国務に妨げがない限り、今ある荘園を黙認するという現実的な対応も取られていました。
そして一方で、
・班田を励行すること
・優良な調・庸(現物の税)を徴収すること
など、既存の税制を立て直しも試みています。
この頃になると、今までの制度に基づく徴税はめちゃくちゃの状態でした。
例えば
・人々が戸籍を偽る
成人男性だけ税が重い制度だったので、男性が全くいない、老人しかいない、人数もデタラメ…という嘘だらけの戸籍が作られました(偽籍)。
それが長年続いたため、もう戸籍に基づいて班田をしたり、税を徴収することは不可能になっていました。
・納めるものの粗悪化
当時は布などの現物で税を納めていたのですが、その品質がどんどん低下していきました。
品質が低いものが多ければ、国に入る税収は減っていることになります。
という状況でしたので、国家財政は大ピンチに陥っています。
これらのことから、延喜の荘園整理令は
・今後の荘園の拡大を抑える
・今ある荘園は、支障がなければ黙認
・既存の税制を復活させ、律令体制を立て直す
という理念と現実の3つの柱で構成されていると言えます。
では結局、この政策は上手く行ったのでしょうか…?
結論から言うと、上手く行ったとは言えないようです。
同じような命令が後にもたびたび出されていることからも、政策は思うような成果を挙げなかったことが推測できます。
整理令で咎めを受けた荘園もありましたが、院宮王臣家と富豪の輩の関係は相変わらず親密でした。
偽籍や調・庸の品質低下も止まらず、律令体制の崩壊は決定的になります。
そして、「律令国家」から「王朝国家」への変貌という、日本の政治史でも有数の大変革期に突入していくのです。
次回は、承平天慶の乱などを発端とするこの大きな変革、そして荘園はその変化にどのように対応していったのかについて書いていきたいと思います。
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