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ウクライナ軍のクルスク攻勢について【え。時事ネタなんてやるの?「やる。だって第一次大戦に関心がある素人だから」】

ウクライナ戦争では、戦争の歴史が第一次大戦時代にまで引き戻されたようだ。

第一次大戦型の戦争では、要塞化された前線を、どれだけ攻撃しても突破できない。
わずかな土地は手に入るが、それに見合わない大量の損失を出す。
「西部戦線異状なし」の世界だ。

フランス軍に至っては1917年ごろには攻撃すること自体を止めてしまった。
AJPテイラーいわく、攻撃は災いの元である。
ただ防御に徹して、敵の兵員を削り続ける消耗戦が吉となるのである。

当然であるが、
この状況を打破する試みが考え出された。

1、浸透戦術。
ドイツ軍がは、現代風に言うなら特殊部隊を作って、それを敵陣後方に送り込んで、相手の陣地を内側から破壊するという戦術を考えた。
まあ特殊部隊戦術である。
1918年の春の攻勢で一定の成果を出した。

2、反転攻勢。
敵が最近になって占領した部分で、
敵の攻勢が攻勢限界に達して停止する。
そのタイミングで反撃すると、うまくいくらしい。
1918年の夏は、連合軍がこの方法で成功した。

3、迂回機動。電撃戦。
第二次大戦になってから考え出された。
ドイツ軍は敵陣を正面攻撃せず、戦車部隊などの機動部隊を使って、
相手が前線を築いていない地域を迂回して相手の後方に回りこみ、
後方から敵陣地を攻撃して崩壊させる。
ドイツ軍はこの方法を電撃戦と名付けた。
第二次大戦以降はこの方法が普通になった。

4、物量突破。縦深攻撃。
ソ連軍が考え出した戦術。ドイツ軍の電撃戦の改良版。
圧倒的な物量で多方面から電撃戦を行う。
突破口が複数あるのですべてに対処できずに、どれかが貫通する。
圧倒的な物量が前提でないと成功しない戦術。
第二次大戦以降はソ連圏での基本的な戦術となった。

この戦争の開始時点では、ロシア軍もウクライナ軍も、
4、縦深攻撃 3、電撃戦 のやり方を教えられて育った。
ただ23年以降、このやり方は無効化され、
前線の突破は不可能になった。

ドローンや精密兵器の登場により、戦車の突破力が無くなったからだと思われる。
戦車が要らなくなったわけではないのだが、かつての神通力はなくなった。
西側性の高性能戦車も、次から次へとドローン空爆で撃破されてしまう。
ロシア戦車も同様である。

その結果、ウクライナ戦争では、かつての西部戦線を思わせるような状態になった。
ロシア軍は伝統的に人海戦術を使ってきた歴史があるので、
人的消耗を恐れずに肉攻撃をしているが。

ただロシア軍が、消耗戦可能だったのは、当時のロシアが人口爆発していたからだ。

今のロシアは少子化。日本よりは良いとは言え、1年で140万出生男女込み。
前線では一日の戦死者が1100人。1年で40万。3年で120万。

一方、ウクライナ側は、さらにポーランド、バルト三国、ドイツ軍が後詰でやって来る。
みんな欧州諸国はやる気がないと言っているが、
おそらくウクライナが崩壊する予兆があれば、ためらわずに参戦するだろう。

特に東欧諸国はロシアに侵略された歴史があり、ロシアに対する誤解はまったくない。
倒さない限り倒される。
ナチスドイツもそういう相手だったが、今回もそういう敵だと理解している。
そこらへん、平和ボケの心配はまったくない。

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またウクライナ戦争が第一次大戦化していることについて、
23年のウクライナ軍の反転攻勢が失敗したことについて、
英国のシンクタンクが分析している。

要はかつてのソ連軍のスタイルで、縦深攻撃をやったが、
兵力が足りなすぎて失敗したらしい。

前線1キロメートルあたりに配備された砲兵と戦車の数が少なすぎた。
(攻撃正面一キロ辺り3門の大砲)

・またロシア軍が防御陣地を作る時間的余裕があったこと。

・ウクライナ軍が攻撃してくることが事前に完全に知られていたこと。

・西側の武器供与が控えめすぎて、兵器が用意できず、攻撃開始が遅れたこと。

・さらに予定よりも少ない兵力で攻撃をしなければならなかったこと。

・対地雷用の工兵部隊の配備がまったく足りなかったこと。

・砲撃開始から3時間後に主力の攻撃が始まるなど、ミスが目立ったこと。

・ドローンの偵察力によって戦車攻撃が無力化されたこと。

英国の分析ではこれらの要件が、攻撃失敗の原因だったと総括されている。
要するに集中、奇襲、欺瞞、速度の原則を守れなかったから負けた。
なんのことはない。いつもの世界戦史である。

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さて、今回のクルスク奇襲である。

多くの人は、ロシアが反撃を受けたことを単純に喜ぶか。
もしくは、ウクライナ軍の攻撃がハイリスクすぎて適切なのかどうか?

ふたつに大きく分かれていると思う。

ハイリスクだというのは、
東部戦線において、遅滞防御を行っているとはいえ、
ロシア軍の方が数的優勢だということ。

それなのに貴重な兵力を割いて、別方面で戦端を開いて大丈夫なのか?

また進撃するにしても、補給線の延長が前線に大きな負担をもたらすのではないか?

ウクライナ軍はそのようなリスクを押してまで、あえて攻撃に踏み切ったのだ。

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なぜウクライナ軍がクルスク奇襲に踏み切ったのか。
私なりに結論から推論してみる。

1、政治戦略的理由。
要するに西側諸国から「停戦しろ」という圧力が来た場合、
その場合は占領地を奪還できずに停戦させられてしまう。

そうなったら現在までに占領された陣地や、国民を取り返すのは不可能に近くなる。
一度、停戦したら再戦するのは難しくなる。
日本のように拉致被害者を簡単にあきらめてしまうような国ではない。

だからこそ、まだ優勢に戦えるということをアピールしなければならない。

2、迂回戦術。
第二次大戦の電撃戦は、敵の要塞化された場所を攻撃するのではなく、防御がない場所まで迂回して進撃しろ。という答えだった。
だからこそ、敵がいない地点を攻撃して、せめて敵前線を背後から回り込むような動きをする。
英国報告書での反転攻勢の失敗総括の話を、思い出して頂きたい。

3、陽動。
他の場所で大規模な攻撃か反撃をするので、クルスク方面にロシアの戦力を誘引しておきたい。
クルスク攻勢に割かれたウクライナ軍部隊は、陽動だとすると、適正な戦力ではある。
多すぎず、少なすぎない。

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私としては、3だと思う。

もちろんこのままクルスク戦線に予備兵力を突っ込んで、
戦果拡張する可能性もないではないが。

この場合、補給線が延びてしまうのがネックだが、
ただ初めからウクライナの補給ルートは北の方を通っているらしく、
オチェレティネ方面など南部の方がハルキウ方面より苦戦している。
北部は補給線の面でそこまで気にしなくてもいいみたいなのだ。

一方で、ウクライナには予備兵力が無いという声がある。
しかしウクライナでは、この春に徴兵数を多くしたばかりだし。
ポーランドも「ウクライナ軍団」とかいう援軍を出してくれる。

さらに、本当に予備兵力がないなら、こんな攻撃はしないだろう。

ウクライナが独断で攻撃しているわけではない。
これは西側が完全に知っていて黙認している。
その証拠に、これまでロシア領攻撃では絶対に使われなかった、
西側製装甲車がクルスク戦では使用されているのだ。

アメリカなどは「ウクライナの攻撃に驚いた」とか言っているが、猿芝居である。
なぜこんな黙認をしたのか?

先日のドイツのラインメタル社長襲撃で、一線を越えたと判断したのではないか?
これまでロシアが、ロシアから亡命した人を暗殺する場合には、まあ遺憾砲しか撃ってこなかった西側だけど。

西側市民を直接テロ攻撃してくるとなると、話は別だ。
報復の必要がある。と判断されたのだろう。

そこで、
「お前がそういうことするんなら、俺らもやり返すけど、いいんだよな?」
ただ直接に手を汚さず、ウクライナに攻撃許可を出したというわけだ。

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もちろん個人の感想です。



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