メッテルニヒ(著:塚本哲也)【僕の辞書に不可能の文字はある。けれども話し合い次第では、読書紹介も可能な場合があるんだ】
ナポレオンを倒した外交官。
その後、ウィーン会議を主催し、
半世紀の平和な時代をもたらした男。
今回は、知ってる人には有名人であるところの、
メッテルニヒの紹介本を解説してみます。
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ハプスブルグ家が支配するオーストリア帝国。
マリーアントワネットの実家ですが、
フランス革命後、激しく革命政府と戦い、
さらには革命政府を簒奪したナポレオンとも戦い続けました。
しかし天才ナポレオンの前に実に4度も撃破され、
そのたんびに屈辱的な講和条約を結ばされ続けます。
(日本は一度負けただけですよね)
「戦争はほかの国に任せておけ。幸福なるオーストリアよ。汝は結婚せよ」
とまで言われるくらい、政略結婚により勢力を拡大してきたハプスブルグ帝国ですが、こういう風に戦争はそんなに強くないので、
(プリンツオイゲンやヴァレンシュタインがいた時代は例外として)
戦争になるとだいたい負けます。
しかし、それでも致命傷を食らわないのは、
やはり外交の力でダメージを削るから。
(日本は一回負けただけで平和国家になってしまいましたね)
この時代も圧倒的なナポレオンの要求に抗った辣腕の外交官がいました。
3回目のアウステルリッツ戦の敗北の後、
臥薪嘗胆を期して賠償金を払いきり、
国力を再建してきたオーストリアですが、
早くも4年後にはワグラム戦でまたも大敗。
ナポレオンは、
亡国か、それとも皇女を俺の嫁さんにするか?
というきつい条件を突き付けてきました。
名門王家から見て、ナポレオンはどこぞの馬の骨であり、
そんな相手に皇族を下賜するなど、
屈辱という言葉を通り越してNTR・・・どうにかなってしまいそうですが、
メッテルニヒの進言により、泣く泣く皇帝は娘をナポレオンのところにやったのです。
しかしまあ、お姫様は割とナポレオンと仲良くやっていました。
根がイタリア人であるナポレオンは、親戚になればもう逆らわないだろう、と思ったのでしょうが、ナポレオンの無理難題は5度目の戦いを招きます。
フランス軍の主力はロシアにて壊滅。
今度こそ本当に勝機(と思いつつこれまで何度もコテンパンだったんだけど)
案の定、勢いを取り戻したナポレオンはオーストリア軍をぼこぼこにします。安定の弱さ。
一時休戦の使者として送られたメッテルニヒですが、
一時休戦と言っても、
国際平和の枠組みを作ろうとするメッテルニヒと、
どこまでも自分が勝利することを前提とするナポレオンとの交渉は、
ついに決裂。
再び再戦しますが、
しかしこれ以降は同盟軍が負けることはありませんでした。
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戦後、有名なウィーン会議を取り仕切り、
敗戦国フランスには王政復古の後、寛大な条件で赦し、
革命を抑え込む保守による国際平和の枠組みを実現します。
以降、フランス発の戦争は(欧州では)起こりませんでした。
100年後のヴェルサイユ体制なんぞとは雲泥の差を感じます。
貴族が平民を支配する時代に戻したわけですが、
当然ながらメッテルニヒは現代の価値観から見て、
反動の黒幕。民主制を否定した権威主義者という理解をされています。
でも同時に、この体制は戦争が起こらないようにするのが目的でした。
大きな戦争が起こらない時代が、30年は続き、
それをメッテルニヒが裏で国際外交をコントロールすることで実現していた。
人の形をした安全保障みたいな男です。
もうちょっと再評価してみては?
という本です。
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戦争の天才に対して、外交官が用いた戦略は、
合従連衡、つまり団結して戦おう。
それだけ。
シンプルですし、この大同盟はそもそもフランスに何度も撃破されてしまいます。
しかしそれでも粘り強く同盟関係を維持し続け、
決して完全に負けることがなかった。
戦い続けることができた。
アクロバティックな天才の力に対して、
ただ原理原則に忠実な、基本に忠実な、
話し合いの力だけで戦い続けた男。
外交官として彼は、
軍事力だけで帝国を維持することなど不可能である。
という良識を絶対に捨てなかったのでした。
メッテルニヒが身に着けた良識からして、
ナポレオンの天才に依存した帝国は永続不可能なものと、最初から判断していたのだと思います。
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この本はどちらかというと初心者向けの歴史本です。
難しくなく、長くなく、専門用語も控えめでサラッと読める内容です。
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お姫様が連れ帰ってきたナポレオンの連れ子にも、寛大でした。
フランスの元帥が、
「殿下に父君のことを話しても良いか?」
と遠慮がちに聞いてきたときも、
「いいですよ。ただし、彼の父上が自分の野望のため平和を顧みず、ついにはフランスの崩壊まで招いたことも、きちんと教えてくださいね」
以上、世界を管理した外交官のお話でした。
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