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マンデラ 自由への長い道(2013年)【映画感想、あるいはそれっぽい感想】

また政治家の決断シリーズやります。
南アフリカのアパルトヘイト体制(人種差別体制)を終わらせたマンデラ大統領。この辺の経緯から数多の映画が作られています。
「マンデラの名もなき看守」「インビクタス負けざる者たち」
インビクタスはラグビー映画でした。
しかしこういう道徳的な作品は説教臭くていけません。

しかしこの系列の中で唯一、あんまり説教臭くない要素が多い伝記映画が、マンデラ大統領個人の半生を扱った映画「マンデラ 自由への長い道」です。

タイトルはいちばん没個性なのに、中身はもっともユニークでした。
以下ネタバレ、アリ寄りのアリです。

作品はマンデラ大統領の人生を語ってます。
まずは弁護士だっけ?になったあたりから。
それから白人政権の人種差別政策に抗議し、運動のリーダーに。
そしてガンジーと対決した英国政府とは違い、
暴力をむき出しにしてくる人種差別政策にたいして、
ついに武力蜂起まで決断するマンデラ。
逆にあっさりと終身刑にされ、ロベン島監獄に送られます。
ロベン島は絶海の孤島。脱獄は不可能です。

しかし勝負はここからです。
普通だったら絶望ENDのところ、この長い雌伏期間に、勉強しつつ後々の準備を固めます。
いわゆる機会が来るまでに入念に準備していた者だけが、
「チャンスの女神の前髪をつかめる」というやつですね。

それにしてもこの映画では、英雄の負の側面もたくさん描かれています。
奥さんウィニーとの関係、女関係、やむを得ずとはいえテロ組織の指導者。
白人政権の「マンデラはテロリスト」という主張はまったくの嘘ではありません。

ただこういうのは「レジスタンス」とか「パルチザン」「抵抗運動」
みたいに文脈によって自由に変えられてしまうので、
頭の固い人にはついていけません。善も悪もごった煮です。

メリトポリで線路ぶっ壊している人たちは「テロリスト」なのか?
モスルで遺跡をぶっ壊してた人たちは「レジスタンス」なのか?
ご自分の判断で容量用法を決めてください。
権威は誰もが自分の立ち位置からしか主張しませんので。
そういうものなのです。

そんなことはともかく。
ついに後頭部が剥げている女神がやってきます!

冷戦の最中はまだ、西側諸国から「味方だからしゃあない」
というお目こぼしを受けてた白人政権ですが、冷戦終結すると、
いよいよ欧米から切り捨てられてしまいます。

もはや国家存亡の時。
白人政権はついに黒人への政権移譲を考え始めます。
南ア白人たちにも、耐えがたきを耐え、忍び難きを忍ぶ、その時がやってきました。少なくとも先行きが見通せる者たちは、ですが。

ここで権力移譲の対象として考えらえたのが、
最も影響力が大きく、そして意外と穏健派のマンデラでした。

ですが賽はまだ投げられたわけではありません。
権力に執着する白人側、復讐を望む黒人側、さらに黒人同士の間でも争いが起き、移行期間は「内戦」と定義してもおかくない危険な状態になっていきます。
しかしまだ本物の内戦ではありません。
まだ収集がつきます。

ここでマンデラがテレビに出てきて、全国放送します。
(以降またうろ覚え)

「皆さん。皆さんの間で平和より復讐が欲しい、
という声が大きくなっている人がいることを私は知っています。
平和などいらない。何も残らなくてもいいから、復讐させてくれ。
人生を奪われた仇を取らせてくれ。それだけでいい。

皆さんの気持ちはよくわかります。
私も自分の人生を奪われたひとりです。
私は半生を牢獄で過ごし、家族との時間を奪われました。
子どもの成長をそばで見てやることができませんでした。

しかしそれでもあえて言わせてください。
私たちが求めているのは、

平和、です。

もし私のことをまだ指導者だと思ってくれているなら、
どうか私の言うことを聞いてください」

これをテレビで見ている白人政権側。
白人大統領「これで決まったな。お前たち、やつの部下として働けるか?」
部下たち 「・・・」
部下A  「イエスボス、私は働けます」
白人大統領「引き返せないところまで来たのだ。もはや後戻りは許されん」

この映画の中では、ここが運命切り替わりポイントして描かれています。

これは道徳の話ではありません。
これは政治の話です。
最短距離で人種差別政策を終わらせる最も合理的な選択肢が「平和」だったというだけで、この「平和」にそれ以上の意味はありません。
その代わりの代償もありました。
平和的な政権交代をしたがゆえに、経済的格差は依然として絶望的に開き、
この後の南アフリカは世界の犯罪首都と言われるほどに犯罪率が高くなります。
政治である以上は、必ず代償があるのです。

でも道徳の話だと安っぽく聞こえてしまいます。
耳に心地よいけど、現実を踏まえていない。
だからこそ大人になればなるほど、道徳の話を遠ざけてしまいます。
本当にそうでしょうか?
本当の「道徳」は焼けつくような現実を直視した上で、
極限の合理性として現れてくるものではないでしょうか?
本当の「道徳」は「政治」的なのです。

日本ではプロパガンダとして消耗されすぎ、
カビの生えてしまった「平和」という言葉の本当の意味を、
この映画の中で見つけてみるのはどうでしょうか?

え?もう内容知ってるって?
すんません。

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