「吉岡奇譚」 作者として推したい話
ご覧いただき、ありがとうございます。坂元(筆者)です。
今回は、一作目「僕と先生の話」の続編にあたる「吉岡奇譚」について、まとめ記事を書きました。ご一読いただければ幸いです。
前作のまとめ記事の中で「吉岡先生のモデルは実在する」と書きました。
私は今作の執筆にあたり、その方(仮名:リョウさん)と協議を重ね、時に原案を書いていただき「記憶障害のある吉岡先生ご本人が書いたかのような文章」を目指しました。
とはいえ、これは「坂元 稔」名義で公開する創作小説であり、また、私が描きたかったのは「吉岡先生個人の病態」ではなく「一人の絵本作家の生き様」です。そして「凄惨な日々を乗り越えたからこそ、他者の【痛み】が解り、授けられる【知恵】があること」です。
また、今作は「誰を主人公としてもスピンオフが書けそうなくらいの、人物像の綿密な作り込み」に力を入れました。
そんな「吉岡奇譚」において、作者として推したい話を、ご紹介します。
1.小さな友人
現在の吉岡先生の健康状態と暮らしぶりが判る お話。これを読まなきゃ、始まらない。
小さなキーパーソンとの出会い。
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5.悪夢
フィクションとして公開するにあたり、いくらかの脚色はしていますが、実在する人の、実際の病態・記憶を描くというのは、本当に緊張します。誹謗中傷に繋がりかねないからです。
前作で、先生が「殺人未遂罪だ!!」と叫んでいた『事件』というのは……ここに書かれている出来事です。
先生にとって、最も深くて大きな【心の傷】です。未だ、完治には至っていません。
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6.正義漢
不思議なラジオが聴こえる旧友「玄ちゃん」の、正義感が炸裂します。
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7.自由な暮らし
先生が藤森ちゃんと初めて言葉を交わした「秘密の場所」は、前作では、涙ながらに大切な工場長との思い出を語った、あの場所です。
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10.原点回帰
岩下が再び「担当」となり、吉岡先生が名実ともに絵本作家として再スタートします。
この時点では、まだ引退は考えていません。
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12.深淵
亡き義妹にスポットが当たるのは、おそらく この一回きりです。
彼女の最期は、悲惨なものでした。
そして、藤森ちゃんの過去にも、暗い【陰】の部分があるようです。
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15.言葉の部屋
吉岡先生と岩下が、並々ならぬ「深い仲」である理由が明かされます。
状況としては「主人公が、ただ机に向かって物語を考えているだけ」ですが、先生の頭の中は、大切な親友のことで一杯です。
言葉が溢れて、止まらないのです。
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17.守るべき家族
吉岡先生が【解離性同一性障害】(いわゆる多重人格)であることは、前作の『僕と先生の話』で概ね明らかになっているため、深くは掘り下げません。また、今作『吉岡奇譚』において、先生が多重人格であることは、ストーリーの進行上、あまり【意味】を持ちません。
「先生が いかなる疾患であっても、俺達がすべきことは変わらない」という、岩下・悠介・坂元の方針は、前作から変わっていません。
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25.何を食べるか
5話で登場した「悪夢」の現場となった場所は、養豚場です。だからこそ、先生は決して豚肉を食べないのです。
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27.今ここに在るものは
先生が、人格の交代によって、暴れたり、叫んだりしてしまう時、意識・記憶は途切れてしまいます。
悠介は、先生の激昂や発作の対処法について完璧に把握・体得しているわけではありません。毎回「手探り」です。
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30.「諒」
先生と岩下の深い絆を再確認することとなる お話です。今作における「神回」ではないでしょうか。
もはや「真面目すぎて手に負えない」ほどの彼との、至って大真面目な【対話】が、先生を『吉岡 諒』たらしめてきました。
彼が居なければ、先生は廃人でした。
しかし、先生と彼を巡り逢わせたのは、先生自身の「生きたい……!」という切実な願いです。先生は、自分の力で、活路を拓きました。
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31.自らを「ゴミ」と云う
倉本くんが過去に どのような目に遭ったのか……詳細は、彼を主人公とした物語『長い旅路』で描かれますが、彼の境遇は、若い頃の吉岡先生と似ています。
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33.発露
「セクシャリティーを理由に差別を受ける」ということの苦しみが、痛いほどよく解る先生。「ブラック企業を辞めるために、身体を傷つける」という行為に、覚えがある悠介。
2人にとって、倉本は まさに「かつての自分」と呼べる存在であり、だからこそ、2人は彼を受け入れ、支えるのです。
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36.動揺
フラッシュバックに伴う激昂で、マグカップを割ってしまう倉本。先生と悠介は、至って冷静に受け入れ、あっさりと赦します。(本人が深く反省しているからに他なりません。)
先生が、工場長や岩下から受けた【教え】が、倉本に引き継がれてゆきます。
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以上となります。
今作を読み終えた上で、再度 前作をお読みいただき、「吉岡先生自身の視点」と「稔の視点から見た先生」の対比を楽しんでいただけたら、嬉しいです。
また、2つの作品を通じて、先生の配偶者となった悠介(松尾)の変化・成長を感じていただければ、幸いです。