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朧の森に棲む鬼(新橋演舞場)
上演時間4時間。休憩30分。
劇団新感線の作品をオール歌舞伎俳優でやる舞台です。歌舞伎だと思うとあてが外れちゃうので100%新感線だと思ったほうが良いと思います。私はまず伝統音楽の世界から歌舞伎を好きになったので、”歌舞伎とは何か”という定義の最も重要な部分が歌舞伎音楽です。なので、これを歌舞伎として見ると音楽と音響が好みではなく…。もちろん新感線としてならばOKですから、私のようなタイプの方は歌舞伎じゃないぞっていう心構えで見た方が楽しく見られると思います。あと衣装に柄物の洋服生地をたくさん使っていて、歌舞伎を見慣れている人には軽く見えるかもしれません。
ライ役とサダミツ役が幸四郎/松也のダブルキャスト、それ以外はシングルです。両方拝見しましたが、正直どっちもよかったです。こっちを見た方がいいとか両方見た方がいいとかは思いません。どちらでもいいと思います。
私の感じた違いを書き留めておきますと、まず幸四郎ライは、「嘘をつくという自分の才能を発揮したい」っていうのが一番にあるようなキャラクターだなと思いました。それに対して松也ライは、「支配欲を満たすために嘘を使ってのし上がる」という感じに見えました。シンプルに松也ライのほうがたち悪いです。幸四郎ライはもともとは悪くないけど朧(森の魔女みたいな存在)の魔力の影響でどんどん変わっていっちゃってるような…。
見た目の美しさや口跡とか立ち回りは松也ライのほうが鮮やかなのですが、周囲の人との関係性が幸四郎ライのほうが感じられました。個人的に、主役よりも主役を取り巻くキャラクターがすごく魅力的だったので、幸四郎ライだと周りの人の気合いがなんか違う気がするし、染五郎との戦いとかも見てるほうの気持ちが違っているからアツいんですよね…。ただ幸四郎サダミツが楽しそうでとてもよかったので、それを見るために松也ライを選ぶのもありかもしれません。
クールな男装の麗人を演じていた時蔵がよくて…ツナの夢女子になってしまいました。ストーリー上しょうがないかもしれないけど、できればツナは”女”を見せないでほしい(私の希望)。このような新作にはあまり出演されない印象の時蔵さんですが、古典の実力がいかんなく発揮されていました。とくに一場面だけ女の衣装を着ているところがあるんですけど、そのときの打掛の扱いとか身のこなしとかが完全に古典歌舞伎で、ぜひ注目してほしいです。とある場面の花道での独白が最高すぎました…。
ライの弟分、キンタを演じていた右近もめちゃくちゃよかったです。身体能力もお芝居も…鬘も似合ってて…そしてキンタというキャラクターが本当にいい役なんです。人をだます主人公と対比される、人を信じる役、そして硬派。女なんか目に入らなくて兄貴一筋な、若干ブロマンス的なところもある役なんですが、兄貴には相手にされてません。明るさとか人として可愛いところが右近さんに似合っているなと思いました。
染五郎演じるシュテンもまたストーリーの鍵を握る良い役でした。敵国の首領、なのに美少年(「可愛い顔してる」と言われていた)。オーエはお金に困っていない国だからかちょっとお人よしでもある。心ある将軍が祖国を離れて、彼と一緒に新しい国づくりをしたいと思うくらいのリーダーなんでしょう。立ち回りがいっぱいでかっこよかったです。
猿弥、新悟は個人的に『新作の神』って呼んでます。弥十郎のオオキミ役も意外と見せ場があってよかった。終わり方が不思議な作品で、ネタバレになってしまうのですが、結局最後はどうなったの?って見た人どうしで話し合いたくなる終わり方でした。あんまりよくわかってなくても勢いで「わー!!素晴らしかった~」と劇場を後にするような作品です。
すごくハードなので、けがなく、事故なく、声が枯れることなく、千秋楽まで駆け抜けられるように祈っています。