美味しい珈琲はいかが?2 2杯目
「おはようございます。今日もよろしくお願いします。」
「香さん、おはようございます。」
一通りの掃除や準備が終わった後にマスターが私にしてくれること・・・。それは「珈琲を淹れてくれること」。
「今日はいい豆が手に入ったので、飲んでみて下さい。」とサラッとマスターが珈琲を差し出しながら言った。
「前みたいに1杯、6000円の珈琲とかじゃないですよね・・・?」
以前に、同じシチュエーションで「ブルーマウンテンNo.1」を出してきた事があったので、恐る恐る聞いてみる。
マスターは笑いながら「そんなことはありませんよ。でも4000円は貰いたいですよね。」
「4000円!」私は、やられた!と思いながら、珈琲を一口。
「あれ?この珈琲は、ブルーマウンテンよりも苦みはあるけどスッキリしていて、香りも独特ですね。」
「解りますか?さすがは香さん。」マスターも同じ珈琲を飲んでいる。
「この珈琲はキリマンジャロと言ってタンザニアと言う所で栽培された物なんですよ。」
「この珈琲にも、ランクとかあるのですか?」
「ええ。今飲んでいる珈琲はAAという最高のランクですね。」と言いながら、生の豆を見せてくれた。
その豆は「薄緑色」をしていて、それから焙煎をするって訳。
「この豆は、ストロング気味に炒る方が美味しくなるのですよ。覚えておいてくださいね。」
「はい。解りました。」
また、時給よりも高い珈琲を頂いてしまった・・・。
・・・マスターが色々な珈琲を私に淹れてくれるのは、マスターなりに理由があって、珈琲嫌いの私に珈琲を好きになって貰いたいのが、一番の理由。
おかげで、珈琲は飲めるようになったのだけど、それはマスターの腕がいいからであって、「他の店の珈琲は飲めない。」のは変わらない。と言うか、マスターの淹れた珈琲しか飲めないのだ。
「カランカラン」いつものように常連さんがやってくる。
「いらっしゃいませ。」私は挨拶をする。常連さんの特等席に案内をする・・・と言っても、この『喫茶小さな窓』はカウンターには5席と2人掛けのテーブルは1席と小さな作りなので、特等席も何もあった物ではない。常連さんはカウンターの真ん中の席だから「特等席」なのだ。
「いつもの珈琲でいいですか?」とお水とおしぼりを出しながら話しかける。
常連さんは腕時計を外しながら、「ああ、それで頼む・・・と言うか、いい匂いしてないか?」
「分かりますか!」と、私はびっくりした。
「そりゃ、わかるさ!いつもの匂いじゃないからな。もしかして香ちゃん、またいい珈琲を飲んだんじゃないだろうな?」
「バレました?今日はキリマンジャロAAという珈琲を頂きました。」
「それで、どうだった?感想を聞かせてくれよ?」
「そうですね・・・他の珈琲よりも少しだけ苦みと酸味はありますけど、それでもスッキリとしていて、バニラ?のような香りもしました。」
「ほう・・・。」
常連さんはマスターに手招きをして
「香ちゃんは、やっぱり才能あるな。」
「ええ、私もそう思います。最初はまぐれと思っていたのですが、確信に変わりました。」
「何をヒソヒソと話してるんです?」と私が不思議そうに聞くので
「香ちゃん、絶対にこの店を辞めないでくれよな。」と常連さんが言って来た。
「やだなぁ、辞めるつもりはないですよ。それよりもサンドウィッチも食べます?また新しいメニューを開発したのですけど。」
「そう来なくっちゃな!頼むよ。」
マスターが珈琲を炒り始めるのだが、私は動かない。
「香ちゃん、今日は外に出ないのかい?」
「ええ。今日はここで作っても大丈夫な物ですからね。」
マスターが珈琲を淹れ始めると同時にサンドウィッチを作り始める。
「お待ちどう様です。」とマスターが珈琲を差し出すと同じタイミングで「お待ちどう様!」
今日のサンドウィッチは「エビとアボカド、トマトとベーコンのサンドウィッチです!」
「ほほう。」
常連さんは珈琲を一杯。続けてサンドイッチを一口。
「香ちゃん、美味しいんだけどさ、ちょっと酸味が強いかな?」
「ありゃ、そうですか。それではこちらはいかがでしょう。」と出してきたのは同じサンドウィッチ。
「ん?同じ物じゃないか?」
「まぁ、食べて見てくださいよ。」私は常連さんに促す。
「それじゃぁ」と、サンドウィッチを一口・・・。
「あれ?さっきのと比べて、酸味がないというより、こっちの方が少し甘みもあるな。」
「これは、ソースに違いがあるんですよ。」
「どういう事だい?」
「初めに出したサンドウィッチのソースはマヨネーズとケチャップを混ぜただけなんですが、後に出したソースはケチャップを炒めたんです。そうすることで、ケチャップの酸味は飛びますし、甘みも出るんですよ!」
「なるほどなぁ〜、これもメニューに決定だな!野菜が多いから、サラダ感覚で食べれるのもいいな。」
「ただ、お値段が・・・。」
「どうした?」
「昨日出したミックスサンドに比べて、材料費が高いんですよね。エビとかアボカドって高いですから・・・。」
「それじゃあ、裏メニューって事で、どうだい?常連しか知らないメニュー。」
「ん~、アボカドは日持ちするからいいんですけど、エビは冷凍の物は使いたくないんですよね。」
「どうしてだい?」
「冷凍エビは解凍したら、臭いんですよ。今出してるエビは軽くしか火を通してないんですけど、冷凍物はしっかりとを通さないと危ないですし、歯ごたえも違いますからね。」
「そうか・・それはもったいないな・・・。」
「まっ、予約してもらったら作りますよ!」私は明るく答えた。