北の伏魔殿 ケースⅢ 作為と不作為 -⑤
○不作為によって生じる結果の重大性を恐れるべき
私が、悪質業者を許認可で不認可にし、訴訟で勝ったことは業者間ですぐに知れ渡った。それを上手く利用し、県が悪質業者には一歩も引かず、安全性の基準を満たさない場合は、訴訟になることも辞さず、不認可にするという姿勢であるということが周知された。
そんな中、ある事業者の工事で、周囲に幼稚園があり、長期計画の中で徐々に工事現場が近づいていき、最終的には5mほどの近さになるというものであった。私は、「幼稚園と一定の距離を取れるまでは認可するが、100mを切るようになった場合は、幼稚園児の安全に問題があるので、認可しない」と業者には日頃から伝えていた。業者は、その土地を購入していたため、不認可の方針には、多少不満を持っていたものの裁判の事例もあり、私のスタンスから指導に従わざるを得ないと考えている感触を得ていた。
私が異動することになり、後任者には引き継ぎで経緯を説明し、認可はしないようにと釘を刺しておいた。その後任者は、地元私大の学閥で、私が大勢の職員の前で、総務課長から「お前なんか面倒を見てやらない」と言われたと公表したことについて「(公表したことについて)そんなことを言うなんて」と私を非難した職員だった。しかし、そうだとすると私は、公表もできないことを大勢の職員の前で言われたということで、そんな矛盾に気づかないのか、それとも学閥の先輩はどんなことでもかばわなければならないのか、県の行政に占める学閥の存在は、まともな論理も主張でできないようだ。
私は業務を合理化するとともに、政令市への権限委譲に伴い業務が半減した。他係も政令市への権限委譲があり、トータルⅠ人工分が減ることになり人員減が見込まれたため、他係の業務を私が引き受けることとしたが、後任者は、過去の業務の不備を理由に実質的に元の係にその業務を突っ返した。一方、業務が半人減となっており暇なため、日がな一日スマホばかりいじっている。
そんな中、私が不認可とするように引き継いだ業者について、彼は「不認可にすると、訴訟になるおそれがあるから認可する」と公言し、「不認可にして訴訟になってもいいなら認可するぞ」と上司を脅かすかのように言っていたらしい。私が不認可にした当時の上司は入れ替わっており、訴訟を恐れる管理職は結局、認可することを認めた。
私が不認可にした案件では、小児が集まる児童公園と業者の現場が120mと近距離にあることを不認可の理由に挙げ、判決もそれを踏襲して、安全性に問題があると認定した。一方、彼が認可した案件は、幼稚園と5mほどで隣接しているというより、敷地内にあるとまで言ってもいいほどである。
これで、事故があった場合、前任者である私が➀業者には認可しないと日頃から行政指導していたこと。②後任者にも不認可にするよう引継書で伝達していたこと。③直前の類似事例の判例でも安全距離を満たさないことが認定されていること。 といったことがあるにもかかわらず、「業者から訴訟を起こされるのが面倒」という理由で認可することに正当性があろうはずがない。事故が起きたら、県の判断や管理職、担当者自身が責任を追及されるのは、必至だろうし、何よりも事故で尊い命が失われるかもしれないという想像力も無い。自分が訴訟対応しなければならないということにしか、頭がいっていない。かくして、こういった不作為が公務員に蔓延して、重大事故が起こるのである。
近年は、行政の対応に関して、第三者委員会を設置して、検証を図るようになってきている。第三者委員会も当局寄りで機能していない場合もあるが、一方、弁護士が主体となっているので、まともな論理を構築できないような案件まで、それを擁護して、自らの評判を落とすほど当局の肩を持つ者もいない。従って、今後の公務員は、現状把握、政策立案、政策の実行段階までその時々の選択が正しいのか吟味し、理論構築することが必須であろう。
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