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【映画】ミュージック Music/アンゲラ・シャーネレク
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タイトル:ミュージック Music 2023年
監督:アンゲラ・シャーネレク
徹底して作り込まれた映像の美しさ。全カットスチールに出来るくらい、ここまで徹底された映画も中々他にないと思う。冒頭の長回しなどにシャンタル・アケルマンマンっぽい雰囲気があるが、淡々としながらも劇的に物語が醸成されていく様は中々に圧倒される。
細かい演出や小道具など、特に説明がないまま進むので、おそらく見逃していた部分や理解が追いつかないものも多く、おそらく一度見ただけでは理解しきれない部分もあったと感じている。しかしながら、それ以上に映像美にただ浸り尽くすというのも楽しみの一つのあり方かもしれない。
本作はオイディプス王の物語が下敷きにされているということで、その部分が理解できていないとシュールな印象になってしまうと思う(僕もよく分かっておらず後から調べて理解した)。
冒頭、子供を羊小屋に置き去りにするシーンや、両足に枷の痕があること、父との邂逅を果たしながらも父と知らずに殺してしまったり、投獄の末に出会った妻が実の母だったりとオイディプス王の物語に沿いながら描かれる。そして主人公ヨンはそれぞれの罪に気がつくことないことや、自傷での失明ではないが徐々に失明へと進む点も元の物語に沿う。現代に置き換えて脚色しつつも日常の中に落とし込む監督の手腕は素晴らしいと思う。
楽曲の使い方も趣味が良く、ヴィヴァルディなどのクラシックから、監督が映画に会う音楽を求め一年かけて探し当てたダグ・ティエリによる楽曲も映画の雰囲気ととてもマッチしていた。タイトル自体がMusicとある通り、音楽が物語の根幹にもなっていて劇中主人公ヨンが妻であり母であるイロとの出会いが音楽を聴き始めるきっかけとなっていた。そして悲劇からの再起の拠り所としてあったのが音楽と歌であり、それらが自然な流れの中でシームレスに繋がっていた。