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【映画】Strangers/池田健太


タイトル:Strangers 2024年
監督:池田健太

風になびく樹々音が劇中でやたらと繰り返され耳に残る。この音が妙に孤独感を呼び起こすのは、恐らく人気のない広々とした公園や空間の中にある樹々の音に、独りでいるときだけ耳にするからだろう。雑踏や人気のある場所では、どうしても樹々以外の音が耳に入ってくる。この作品でどこか孤独感を感じるのは、そういった記憶が呼び起こされるような気がする。登場人物が二人三人いたとしても、ノイズを除去して余計な音を削ぎ落とし、樹々の音や靴音など限られた音だけを画面の中に落とし込む事で、直子という主人公が抱える閉塞感が伝わってくる。技術的な事を言うとつまらないが、こう言ったアンビエンスの使い方はそこにある音ではなく、後から付け足した音なのが一聴して分かるが、監督のインタビューでもその部分については明らかにされているので、やはり意図して作られた演出なのは間違いない。むしろこの演出があるからこそ、非現実的な不条理さが際立ってくる。さらにそういった場面の多くが引きで撮影されていて、距離感を詰めがちなホラー演出が希薄で、どこか冷めた感覚がある。
それを踏まえるとサスペンススリラーというには、その要素が画面の外にはみ出している感じがあって、中々に独特な雰囲気を醸し出す。ホラーやサスペンスに限らず複数の内容を跨ぐジャンル映画ともいえるが、主軸になるのは他人に身を委ねるばかりで自己を喪失した女性の物語である。しかしながら、それらひとつひとつの位相がずらされていて、主人公が追い詰められつつも、ホラー的な切迫感とは異なる緊張感が画面に溢れている。距離を取れない室内は黒沢清作品の様なじわりと侵食してくる感覚はあれど、そこに収まりきらない何かが常に画面の外に予感として横たわる。
マッチングアプリで男性との密会を繰り返す山口という女性のキャラクターとの境界線が、曖昧になるに連れて自己喪失と自己発見がアンビバレントに訪れるバランスが面白い。そこから発生する殺人が人物を通して繰り返され、ホラーの様相も持ちながら当事者感がどこか薄れるズレがなんともユニークであった。
パンフレット代わりの冊子にあったキーワードがどれも理解出来なかったので、作品をしっかり捉えきれなかったと感じている。終盤10分で物語が大きく展開する様子に混乱させられるが、二度三度鑑賞しないとミステリーは解けないのだろう。
気になったのはやたらと繰り返される物の落下だったが、恐らくは物語とあまり関係はなく、主人公の手際の悪さを象徴している動作なのだろう。
ひとつ苦言をいえば、橋本秀幸によるポストクラシカルな余韻たなびく音楽をもう少し上手く扱えたらと感じた。そこに頼りたくない感もあり、ばっさり切っているのかなと思うが、せっかく雰囲気との相性が良かった分だけ、勿体無いと感じてしまった。

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