【映画】最近観た映画2022年12月
あけましておめでとうございます。
今年も色々映画を観ていこうと計画を練っています。本題に入る前に少し小話を。
この数年、ミニシアター系の作品がソフト化される時にブルーレイとDVDがそれぞれちゃんとリリースされない事が増えてきてる。最近だとジャック・リヴェットとエリック・ロメール、二月に出るシャンタル・アケルマンの作品はバラ売りはDVDのみで、ブルーレイはボックスのみ。ブルーレイを買うならボックスしか選択肢が無い状況が立て続けに起きてる(まあ、全部紀伊國屋なんだけど)。流石に全部買うとえらい金額になるので、メルカリなどで安く出るのを狙っている状況なのだけど、それ以前からブルーレイスルーでDVDのみリリースというのも少なからずあった。個人的にDVDのクオリティは配信のクオリティを下回っているので、出来れば買いたく無い。さらに配信自体もいつ切られるかわからないので、好きな作品はブルーレイで持っていたいのが本音である。数年前にサマーフィーリングと20センチュリーウーマンがDVDのみのリリースで、仕方なく買ったが出来ればブルーレイで欲しかった。ミニシアターの観客層がブルーレイに移行してないと思われてるのみだろうか?4KやUHDでなくとも、DVDよりも画質の良いブルーレイの品質は担保してほしいし、バラでも購入出来る選択肢はほしい所。音楽のサブスクと違って、映画のサブスクは観れないものも多いので、その選択肢はあって欲しいと痛切に願う。なんでもかんでも買えないし、全部はいらんのだよ。
というわけで愚痴っぽくなりましたが12月に観た映画です。
・浮雲/アキ・カウリスマキ
次から次へと舞い込んでくる不幸の連続の滑稽でオフビートな展開。カウリスマキの作品は金太郎飴といえばそうなんだけど、抗えない魅力があるのだよな。それにしても出てくるインテリアや小物が、昭和の頃の日本映画に出てきそうなデザインなのがノスタルジックな雰囲気を醸し出してる。
・昼顔/ルイス・ブニュエル
撮影は結構大変だったみたいで、最初はドヌーヴがブニュエルに反発してたようで、ただ撮影が進むにつれてわだかまりは解消されていったらしい。時代のせいか、思ったほどいかがわしい感じがなくこざっぱりした印象。
・蒲田前奏曲/オムニバス
古川琴音はいつもかなりアレな不思議ちゃんの役ばっかりな気がするのだけど。蒲田は地元なのでロケが何処なのかすぐ分かる。
監督四人が参加したオムニバスなのだけど、程よい所と力が入りすぎてる所があって全体的にアンバランス(これは結局四つ目の話で問われてる事)。映画というフォーマットよりも同じテーマの下で配信ドラマみたいな形の方が自然たったかも。
・マルホランド・ドライブ/デヴィッド・リンチ
劇場公開の頃から何度も観てる一本だけど、いつ観ても凄いなと思わされる。初見時は頭を抱えた謎解きは、解けたら面白味が半減するんじゃないかといったらそうでもない。ナオミ・ワッツの演技の凄みが愛憎劇をさらに掻き立てている所は、ぐわんぐわんと心を揺さぶられる。20年経っても世界の映画ランキングの上位に居続けるのも納得。
・乱れる/成瀬巳喜男
とにかく高峰秀子の表情に尽きる。浮雲同様に第二次大戦の爪痕を感じさせながらも、戦後の社会が変化していく様と、その社会の変化に翻弄されていく主人公の様に普遍的なテーマを持つ。
・台北暮色/ホアン・シー
傑作とは言い切れないかもしれないけど、個人的にはすごく好きな作品。三人の男女が恋愛とは違う形で、歩み寄っていく様が心地よい。ラストの引きで撮った道路のシーンは、マジカルな瞬間を捉えている。アンビエントの様な空気感は、かなり尾を引く。
・アンガー・ミー/エリオ・ジェルミーニ
ケネス・アンガーというと、作品のイメージからかなりゴツい人間像をイメージしていたのだけど、意外と柔和な印象。カイエデュシネマやシネマフランセーズに関わっていたりと、不思議な経歴が彼の口から語られる。
・アマデウス・ミロス・フォアマン
80年代の映画の中でも突出した傑作。配信が無いのは残念だけど、未見の人は是非観てほしい一作。フォアマンはキューブリックに、バリーリンドンで使った高感度のレンズを借りようとしたけど、借りることはできなかったみたい。
・修道女/ジャック・リヴェット
同時代のゴダールの中国女でもちらっとタイトルが出てきてた。社会から隔絶された修道院の内情を描いたことで、反発を生んだのも無理はないかなと。
・トラック29/ニコラス・ローグ
ニコラス・ローグの作品はどれも面白いと思うのだけど、これはちょっとイマイチ。地球に落ちてきた男のボウイを彷彿とさせるゲイリー・オールドマンの役柄は、エキセントリックだけど気味が悪い。
・MEN/アレックス・ガーランド
A24らしい作品ではあると思う。カーペンターの物体X並みに異物感はあるのだけど、それ以上に映像の美しさに浸るのが良いと思う。男女で見える世界が大きく異なる映画なんじゃないかと。裸の男が出てきた時の怖さって、当然怖いけど男性か女性かで全然違うよな。
・ザ・ブルード/デヴィッド・クローネンバーグ
これニコラス・ローグの赤い影のクローネンバーグ版だよな。ちょっと説明的すぎる感じがあってそこが微妙だった。ある種のニューエイジっぽさはクローネンバーグに通底しているようにも思える。
・クラッシュ/デヴィッド・クローネンバーグ
変な小物を出さなくても、十分に違和感を演出出来る事を証明した傑作。車が関わらないと欲情出来ない倒錯した男女のしょーもない話なのに、妙な説得力があってこれでいいのだと。ヨーロッパの映画のような気怠い間があって、それが魅力的だった。
・退屈な日々にさようならを/今泉力哉
死んでいると知らなければ、心の中で生き続ける。東北の震災や、昨年の北海道の船の事故など、家族が行方不明になった遺族の証言などを見ていると、こういった心情が続いているのだろうなと思う。映画のテーマはそれよりももっと軽薄なものかもしれないけれど、通底しているのはそう言った取り残された人たちの気持ちを切り取っている。
・銀座カンカン娘/島耕二
戦後数年経った後の東京の風景の田舎加減。対照的な銀座の街並み(セットだろうけど)。朝鮮戦争直前の高度成長期手前の時代のあっけらかんとした空気。笠置シヅ子をもうちょっと観たかった。
・ケイコ目を澄まして/三宅唱
ほわんとしたイメージがあった岸井ゆきのの鋭い表情は映画にぴりっとした緊張感をもたらしてた。音が聞こえない世界は想像するしか無いのだけど、聞こえない事が普通である事の日常を丁寧に描いている。
・黒い家/森田芳光
エキセントリックで極端な演出がハマる部分とハマらない部分が顕著に出ていて、トータルで見ると演出がキツい。1999年という時代も、サイコスリラーが出揃った頃なので踏襲した感じも否めない。(ハル)は傑作だったと思うけど、これはちょっと無いかな。黒沢清のキュアと異なるのはゴシックさの欠如も大きいと思う。それはそれでステレオタイプな感じもあるけど。
・ヴァージン・スーサイズ/ソフィア・コッポラ
久しぶりに再見。レディバードやムーンライト、ウェイヴスの様なA24の青春ものの入り口にあったのはからなんじゃ無いかと思った(ジアコッポラのパロアルトストーリーやアメリカンスリープオーバーなんかも)。90年代の終わりを告げて、00〜10年代のインディペンデント作品への影響は少なく無いと思う。noteでフレアの事をあえて触れたけど、今では極々当たり前な表現にカウンターカルチャーとアメリカンニューシネマの復古を違った形で描いた重要作だと思う。
・サイコ/アルフレッド・ヒッチコック
ヒッチコックは有名すぎて避けてきたんだけど、いい加減観ようと思い鑑賞。主人公が入れ替わる前半後半は当時かなりショッキングだったのでは?ただ似た様なテーマ血を吸うカメラの方が映画としては面白かったな。
・ホモサピエンスの涙/ロイ・アンダーソン
ロイ・アンダーソンは散歩する惑星がめちゃくちゃ面白かっただけに、その後も追い続けているけどどうもしっくりこない。映像の作り込みは凄いのだけど、オフビートさが笑いに転化出来てない。毎度消化不良を起こしてる。
・ドレミファ娘の血は騒ぐ/黒沢清
元々ポルノ映画として撮られていたのもあってか、映画としては歪さを感じるのだけど、ゴダールの中国女、ウィークエンド、東風あたりのテイストを丸々コピーしていて、そういった時点で観ると楽しめる。伊丹十三の役所がとにかくよかった。
・The First Slam Dunk/井上雄彦
僕の弟とこの映画について話していたら、ピアスという短編が引用されていると言っていた。それは抜きにしても、山王戦という物語のクライマックスを、最高の形で観ることの幸福感は否応なしに感じられる。CGのぎこちなさも随所にありながらも、息を呑むゴールシーンの緊迫感は素晴らしい。
・グロリア/ジョン・カサヴェテス
笑ってしまうほどのケレン味と、切実な疑似家族愛のストレートな物語。勢い任せな印象はありつつ、ニューヨークの雑多で猥雑な街並みの魅力が全面に出ていて圧倒される。これを真似たベッソンのレオンが霞んでくる。
・大怪獣のあとしまつ/三木聡
賛否両論を巻き起こした作品だけど、個人的には寒々しいものを感じた。時効警察的なギャグが全部滑っていて、無理に押し込めなくても良いのでは?と思う。三木聡のギャグは嫌いじゃないのに、どうも何もかも噛み合ってない。
・よこがお/深田晃司
カサヴェテスのグロリアとは真逆の作品だと思う。深田晃司監督のインタビューでも語られていたけれど、事件に巻き込まれる時に人は気丈に振る舞うよりも、心の弱さの方が露呈する。周囲との関係を取り繕ったり、逃げ場なく攻め立てられた時、どうにも逃げ場はなくなってくる。ひとつの答えを求めがちなマスに対して、それに振り回されるひとりの人間の姿が無情に突きつけられる。筒井真理子の危うい演技の凄みも見どころ。
・ヴィヴィアン・ウエストウッド最強のエレガンス/ローナ・タッカー
先日亡くなってしまったヴィヴィアン・ウエストウッドのドキュメンタリー。奇抜なイメージの大半はマルコム・マクラーレンがこさえたものではあると思うが、意外と普通な彼女の姿と、アクティヴィストでもあったエキセントリックな姿が同居した、ある種アンビバレントな存在感がくっきりと浮かび上がってくる。アパレル市場で日本の大きさも皮肉なまでに感じさせる。
・D.O.A./レッチ・コワルスキー
ピストルズ解散前夜、ロンドンパンクの最期を生々しく撮影したドキュメンタリー。ピストルズを解雇されたバンドのコンポーザーであるグレン・マトロックが、リッチキッズでプリティヴァイカントを演奏している辺りに、パンクの時代の終わりが垣間見れる。ポストパンクを感じされるジェネレーションXや、シドアンドナンシーの虚像を取り払ったインタビューなど、時代の節目を否応なしに感じさせる。
・サラダデイズ/スコット・クロフォード
ロンドンパンクの地続きは、やっぱりDCハードコアシーンだと思う。実際はワイアーなどイギリスのポストパンクを含めたシーンではあるものの、レーベルやジンなどDIY精神は継承されている。アメリカではベトナム戦争もあって、オーバーグラウンドでは激しい音楽は敬遠されていたものの、こういった下地もあってニルヴァーナのブレイクに繋がっていく。けれども、ここにあるのはグランジの先のポストロックなどに連なるシーンに繋がる音楽が既にこの頃に芽生えていたのもよくわかる。