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【映画】カンフーマスター Kung,Fu master!/アニエス・ヴァルダ


タイトル:カンフーマスター Kung,Fu master!
監督:アニエス・ヴァルダ

いわゆるショタものと片付けてしまうのは忍びない。しかしながら倫理観を揺さぶりつつ、その衝動への希求は突き進めば進むほど破滅へと導かれる。思いのまま生きなさいと諭す母の助言の通り行動すれば、自ずと当然の結果に陥る。
「幸福」のような倫理観を揺さぶる歪んだ家族観を描いたヴァルダだけに、彼女が作り出したものかと思っていたら、ジェーン・バーキンからの提案だったというのはちょっと意外だった。自身の実体験(とはいえあくまでもイマジネーションの範囲ではあった)を元に物語のきっかけをヴァルダへ提案した本作は、倫理や道徳が当時よりも強力な力を持つ現代(偶然にも同日に観たナミビアの砂漠でも少しばかり同じテーマ性をかすめる)においてまかり通るものではないだろう。ただここにあるオイディプスコンプレックスな物語は、人間の欲望を反映しつつも抗えない欲求があるのも事実だと思う。性に目覚め始めた15歳の男子と、40歳にして再び恋心を抱く大人の女性の関係は脆くもドラスティックな関係にしかならないと悟る。
そしてそれ以上に本作の中で重要なのはジャック・ドゥミとアニエス・ヴァルダの関係が重くのしかかっている。夫婦関係にあったドゥミとヴァルダだが、バイセクシャルであったドゥミがエイズに罹患していた現実が、本作でエイズについて執拗に繰り返し挿入される理由でもある。
コンドームの使い方や、エイズへの啓蒙は本作の後の90年代に盛んに取り上げられていたが、キースヘリングやフレディ・マーキュリーが逝去するのは90年代に入ってからで、80年代の状況は劇中でマスクをする男女の広告がある様に理解が深まる以前の時代というのが如実に示される。血液や体液から感染するという事実も分かっていない時代の最中であるという事が、それらから見えてくるし、他人事の様に茶化す十代の無垢な暴力性も世相を表している。この辺りはラリー・クラークの「Kids」の十代のリアルさへと連なっていく。
ジェーンの子供達のシャルロット・ゲンズブールやルー・ドワイヨン、ヴァルダの息子マチュー・ドゥミら子役たちや、ヴァルダの「ダゲール街の人々」を彷彿とさせる街の人々などセミドキュメンタリーな雰囲気も含んでいる。この頃のシャルロットは毎度こんな役柄ばかりで大丈夫か?と思わせるが、それ以上にマチューも同様だろう。現実と虚実の混ざり具合が絶妙にマッチしているからこそ、妙にリアルな物語に仕上がっていて、うら寂しい感情が込み上げてくる。
カンフーマスターというタイトルは日本人には馴染み深いスパルタンXの事である。ダンジョンズ&ドラゴンなど80年代らしいゲームが並ぶが、オタク文化がまだ未文化の時代らしい雰囲気がある。

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