【映画】バーナデット ママは行方不明 Where’d you go Bernadette/リチャード・リンクレーター
タイトル:バーナデット ママは行方不明 Where’d you go Bernadette 2019年
監督:リチャード・リンクレーター
ビフォアシリーズのリチャード・リンクレーターによる家族ドラマなのだけど、とにかく異才を放つケイト・ブランシェットの演技の凄さが際立つ。彼女はトッド・フィールドの「Tar ター」の時と同じ様に、破天荒な天才の物語がぴったりハマる。しかも自信過剰で男性勝りな「Tar ター」とは真逆で、一見挙動不審に見えるバーナデットの姿は真剣なんだけどコミカル。とはいえ沈黙や饒舌な場面でも場の空気も生み出している所は流石と言いたくなる。この辺りのセリフやテンポはリンクレーターの手腕でもあると思うのだけど、それにしてもケイト・ブランシェットの存在感なくしては成り立たないほど物語の根幹を担っていた。
物語は老朽化が進んで、天井から水漏れや木の蔦が家の中まではっている屋敷に住む家族の話。しかしよく見るとドアの外枠に何本もの鉛筆や、階段には本がデコレーションされていたり、部屋ごとに改装している途中なのが分かる。話が進むにつれてバーナデットがかつて建築家として時代の寵児だった事や、夫エルジーがアニメ会社からマイクロソフトに転職して家族との時間も取れないくらい忙しい日々を送っている事が分かってくる。家族間のコミュニケーション不全が互いに憶測を生んで、すれ違っていく様が悲痛さを伴いながらもコミカルに描かれている。バーナデットはとある事件から建築家を辞めて専業主婦になるものの、日々の生活をみると諦めきれていないのがありありと分かる。美しいからと色とりどりの薬を詰めた瓶を作ったり、曲線の美しいジャガーの車に乗り、本を借りるわけでもなくレム・コールハースが手がけたシアトル中央図書館に行く。ひとつひとつが彼女の中で整合性をもっていても、それを知らない人にとっては奇異なものにしか映らない。そういった彼女の行動は夫も周辺の住人も理解はされず、挙動不審な人に見える(実際に映画を見ていてもどこか怪しい人に見える)。でも夫や住人からは見えないバーナデットの姿が彼らとパラレルで描かれる時、彼女の悩みや行動は不思議なほど親密に感じられる。だからこそ、周囲とのズレが顕著になるほど観ているこちらとハラハラとさせられる。普通の主婦になりきれないバーナデットから滲み出るバイタリティはとにかく魅力的。
同時に一番近い存在で理解の深い娘との会話が救いになるし、ラストにかけての展開も親子の話になっていくのは必然だと思う。ケイト・ブランシェットの魅力に寄るところも大きいけれど、それ以外の配役も分かりやすく程よい塩梅だったと思う。
本作は一時期コロナ前までA24とも歩調を合わせた映画会社アンナプルナ制作の映画で2019年に公開された。この頃営業不振で経営が上手く行かなかったようで、コロナ禍は一本も作品がリリースされず、昨年やっと「シーセッド」で久しぶりに劇場映画をリリース(素晴らしい作品。アマプラで観る事が出来るのでおすすめ)。一方同じ年にA24は「エブエブ」でアカデミー賞を総なめ。両者の評価は水をあけられた感もあるけれど、アメリカのインディペンデントシーンがマジョリティを獲得している昨今、アンナプルナの作品もこれからどうなっていくのか見届けていきたい。
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