【映画】Super Happy Forever/五十嵐耕平
タイトル:Super Happy Forever 2024年
監督:五十嵐耕平
ぱっと見でなんでこんな陽気そうなタイトル?と思わせるが、見終わった後にこれ以上のタイトルは無いと感じる。SHF(Super Happy Forever)というどうみてもカルトなセミナーの存在と、凪のカップラーメンを食べる時の「ずっとめちゃめちゃ幸せでいられる」というフレーズ。物語の前半後半それぞれでタイトルに由来するフレーズが織り込まれるのを耳にした時、無常感というかどうにもならない感情が込み上げてくる。
宮田が何故セミナーにハマったのか、凪の死因など物語で明らかにはされてはいない。死についてはコロナ禍の時期に亡くなった友人がきっかけであると監督のインタビューで明らかになっているが、セミナーやホテルの閉館なども含めてコロナ禍を挟んだ5年間という時間の流れがバックグラウンドにあるのだろう。
前半の自暴自棄な佐野のただならぬ雰囲気と、後半の凪の視点の中の佐野の穏やかさの違いのコントラストも物語の上で大きいが、人気のない現在と活気のある5年前の対比も印象的だった。前半の色の褪せた雰囲気と後半のカラフルな世界観は監督の意図ではあるものの、演者でここまで鮮やかに変化される描写の違いは、思い返せば返すほどコントラストが頭の中でくっきりと再現される。スマホや赤い帽子など前半で語られる言葉と後半の場面が重なり合うとき、臨場感が生み出されていき、佐野が何を失ったのかが余す事なく伝わってくる。
映画は終盤の信号待ちの場面に向かって、一点に集中してふたりの物語が終わり、もう一つの物語で綴られる。佐野の服が凪との再会の場面と、前半で同じものを着ていて、彼が凪の不在を穴埋めするように、5年前のあの日の出会いを象徴する赤い帽子を探し求め続けていた。戻る事のない現実に直面していたからこそ、宮田がハマるカルトセミナーが許せず暴力的な態度をとったのだろう。
月永さんの、すごく悲しい気持ちとすごく嬉しい気持ちが同時に押し寄せるという感想が一番しっくりくる。言葉にしようと思うと、中々難しい作品で、思い返すほどアンビバレントな感情が込み上げてくる。
音楽の使い方が素晴らしく、シャルルトレネのLa Merと、そのカバーであるボビー・ダーリンのBeyond the seaの挿入も印象的だが、D.A.N.の櫻木大吾のトラックも素晴らしい。