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【映画】MEN 同じ顔の男たち MEN/アレックス・ガーランド


タイトル:MEN 同じ顔の男たち MEN 2022年
監督:アレックス・ガーランド

「エクス・マキナ」、「アナイアレイション」とSFが続いたアレックス・ガーランドの新作。「エクス・マキナ」に続いて再度A24とのタッグで、アリ・アスター的なオカルトっぽい雰囲気も感じさせるホラー調の作品。ミッドサマー以降、ホラーやオカルトはA24の十八番になってきているものの、そこはアレックス・ガーランドだけに一筋縄ではいかないホラーやオカルトに似て非なる映画に仕上がっていた。監督も語っているようにホラーの体裁を借りながらもジャンル映画としてのホラーを覆そうとしている。ホラーの外観を取り払うと、ここにあるのは日常の中にある男女間の問題、特に暴力的な対立の中にある双方の意見が折り合えない割り切れなさが浮かび上がってくる。主人公のハーパーが受けた暴力は絶対悪なのは間違い無いのだけれど、自殺なのか事故なのか判別しきれない夫の死は、彼女への誹謗中傷を招いてしまったという事が会話から示唆されている。というのも、村の中で男たちから放たれる暴言の数々や、彼女を擁護しようともしない警察の対応など、それら誹謗中傷を「ロンドンで散々受けた」という台詞から、どの様な種類の暴言があったのかがなんとなく見えてくる。夫の死の原因や理由は関係なく、被害を受けた側にも問題があるのでは?というセカンドレイプにも似た状況があったのでは無いだろうか。だからこそ安住の地を求めて、都会から流れ来たものの同じ事が繰り返される。ホラー的な演出は表面的なもので、あくまでも被害者が受ける新たな被害を描いている。死というエクストリームな状況に、自らも非があったのではと自問し苛まれる事も少なからず含まれている。そして追い討ちをかけるように、その非を責め立てる暴力がのしかかってくる。

同時に古代の石像に記された、性器を顕にするシーラ・ナ・ギグ(PJハーヴィーで知った人も多いと思う)やグリーンマンといった性のシンボルや、たんぽぽの綿毛など生殖に纏わる表現も繰り返し登場する。ここはラストの「遊星から来た物体X」を想起させる”あのシーン”にひっかけていると思うのだけれど、具体的にそれが何なのかは記されていない。最後に登場するリドリーが妊娠していたりと、色々含みはあるのだけれど、夫婦の不破が性的なもの、もしくは子供を持つ事から起きたのかもしれない。物語のなかで明確には言及されていないので、想像するしかないのだけれどそう考えると色々納得がいくような気もする。夫が求めていたのが”愛”であり、それを与える事が出来ない妻の関係はただ単に不仲なだけという事でもないのかなと。

ともかくああだこうだ考えるよりも、映像の美しさは特筆する部分だと思う。ボケ感を活かした被写界深度の浅い森の風景のアブストラクトな美しさ。闇世の中で光り輝く天の川。たんぽぽの舞い散る所など詩的な映像美は大きなスクリーンで観るべき。最後のおぞましいアレも、ふと「エクス・マキナ」の監督だった事を痛感させられる凄さとエグさがある。一体何を見せつけられているのか訳がわからなくなる異様さと、妙な説得力はなんだかもうどう受け止めて良いのやらと困惑するくらい。

冒頭とエンディングで流れるレスリー・ダンカンのLove Songは恋人とのすれ違いを歌った曲で、冒頭は彼女が歌ったバージョン、ラストはエルトン・ジョンによるもの。男女それぞれで歌われる事で、互いに求めながらも成就しない想いが示唆される。なかなかに憎い演出だと思う。


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