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【映画】オルエットの方へ Du côté d'Orouet/ジャック・ロジエ


タイトル:オルエットの方へ Du côté d'Orouet 1971年
監督:ジャック・ロジエ

改めて感じたのがヴァカンスを題材にしたフランス映画の多い事。ロジエのヴァカンス映画に最も近いのはエリック・ロメールの諸作だと思うのだけど、劇中で夏場の南仏は最低という台詞から「緑の光線」での鬱々とした上手くいかないヴァカンスが頭をよぎる。先日久しぶりに再見したオゾンの「まぼろし」にしてもある種のヴァカンス映画だし、一年のうち11ヶ月を仕事に費やして夏の休暇にかける意気込みは有給休暇制度があるにしろ並々ならぬものがある。
冒頭ゴングの陽気なジャズロック「Ego」が流れるだけで、何かコミカルな事が起きる予感を高らかに告げる。ロジエの作品の中でも「アデュー・フィリピーヌ」から「トルテュ島の遭難者たち」、「メーヌ・オセアン」へと連なるヴァカンス映画の一作ではあるものの、女性3人組のひたすら享楽的な雰囲気は他とは少し異なる。「アデュー・フィリピーヌ」も享楽性はありながらも、アルジェリア紛争のバックグラウンドの中での早すぎるヴァカンスが主題となっていたし、「トルテュ島の遭難者たち」は狂気じみたヴァカンスへの自意識がふんだんに盛り込まれていた。「オルエットの方へ」での前半の不思議なくらい躁状態の騒がしさは、箸が転がっても云々みたいなちょっとしたことでも笑い転げる様はちょっと異様にも映る。とはいえジョエルはひとりその狂騒に嫌気がさしてはいるのだけど。しかし狂騒に嫌気がさして一番に抜けるのがカリーンだったりと、女性3人組というパワーバランスが崩れた時の脆さも物語にぐさりと引き裂く。
そして下心丸出しでストーカーばりにジョエルを追っかける、ジルベールという存在が狂騒感に輪をかける。3人組と男ひとりのバランスは、そもそも異物として足蹴にされているが、彼がいなくなった途端にバランスがあれよあれよと崩れてくる。すでに嫌気がさしているジョエルに対して、特に思い入れのなかった他ふたりにとって、退屈さが垣間見えた休日の刺激となっていたジルベールという存在が不在になる事で多大な喪失を覚える。うざいと思っていた人間がいなくなった時にふと寂しさを覚えるのは、「バグダッドカフェ」などでも描かれているけれど、こちらは自分たちのわがままが取り返しのつかないものになったという感傷さが強く残る。まあラストで更なることの顛末が用意されているのだけど…。
それにしてもヴァカンスの始まりが9/1からというのも不思議ではある。入れ替わりで夏休みを取るにしても、夏の季節は終わりだろうし、実際劇中でも寒い寒いと連呼している。波は荒く、海岸に隣接した家に吹き荒れる風は、暴力的なほど吹き付ける。夏休みの始まりが夏の終わりの始まりであることのズレが、人気のない海と浜辺の3人の姿が重なり合う。陽気さと陰りがないまぜになった感覚が、常に画面に映し出されている。前後の作品と比べると起承転結の薄い淡々とした日記の様な映画であるし、意外と物語がばっさり切られて描かれない部分も多い。ビターな後味が残りながらも、騒がしいヴァカンスの享楽的な狂騒感の残る映画でもあった。

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