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【映画】ゴダールのマリア Je vous salue, Marie/ジャン=リュック・ゴダール


タイトル:ゴダールのマリア Je vous salue, Marie 1985年
監督:ジャン=リュック・ゴダール

マリアの処女懐胎を扱ったという事で、公開当時はキリスト教や信者からの反発がかなりあったとフランス語版のWikiに長文で詳しく書かれている。とはいえキリスト教内でも全ての人が反発したというわけでもなく、中には受け入れる人も少なくなかったという事らしい。色々問題を抱えていたこともあって、フランス国内では30万人ほどの動員がありヒットしたという。
変則的な作品で、ゴダールのパートナーであるアンヌ=マリー・ミエヴィルの短編「マリアの本」が冒頭に置かれて、その後にゴダールの「こんにちはマリア」が続く。「マリアの本」は離婚する夫婦の間に挟まれた少女マリーの物語となっていて、母性や親子愛をテーマにしたドラマに仕上がっている。ゴダール作品の様なポストモダンな作風ではないものの、各キャラクターの表情の機微や、ラストでのマリーのダンスシーンなど細かな表現が印象に残る。
一方ゴダールの「こんにちはマリア」では、いつもながらのゴダール節の中でマリアの処女懐胎と、並行して進化論を否定する教授とエヴァ/イヴの恋愛模様が描かれる。宗教観というテーマは、後の「ゴダールの決別」にも通じるものがあるが、映画的な描写の美しさや完成度では「ゴダールの決別」の方が上回っていると感じる。しかしかといって「ゴダールのマリア」が駄作かというとそうではなく、こちらはこちらで不思議な魅力がある。マリアとジョセフとイエス、天使ガブリエルなど宗教観を俗っぽく描いていて、コメディタッチな軽さが80年代ゴダールっぽいノリを感じる。宗教観を差し引いて観ると、セックスシーンは無くともやたらと登場するヌードシーンからマリーの肉感の印象が色濃い。そんな世俗的な描写が反発を生んだのだろうけど、そもそも映画が作られる過程を見るとそちらの方が主題だったのでは?と思ってしまう。
そもそもの始まりが「パッション」と「カルメンという名の女」に端役で起用されたミリアム・ルーセルに惚れ込んだゴダールが、近親相姦をテーマにした作品を作ろうと試みるもルーセルから拒否された事から、テーマを変えて処女懐胎へと変更された経緯がある。しかしその後、ゴダールとルーセルが恋仲になり、ミエヴィルとの関係も保つため短編と長編を合わせた形になったというのが事の顛末のようだ。本当かどうかは定かではないものの、半年に渡る長い撮影期間もルーセルとの関係を長引かせるためではないかという憶測もあり、結果的に撮影中にふたりは衝突。この作品を最後にルーセルがゴダールのもとを去ったという事のようである。
そう考えると、込み入った展開よりもミリアム・ルーセルをミューズとして仕立てて、作品を撮りたかっただけのような気もする。素の所ではただ愛欲の形を作品に落とし込もうとするゴダールの非道さも無くはないが、愛欲や性欲を拒むマリアの姿と、役目を果たした後のルージュを引いて終わるラストはゴダールらしいポストモダンな仕上がりになっている。後半少したるい感もあるが、挿入される草花などの自然や、妊娠のメタファーとしての離陸する飛行機の描写、もうひとつの肉欲にまみれた恋愛物語が交差する描写が織り混ざって、80年代ゴダール作品の中でも少し浮いた作品でもある。けれど何か引っ掛かるものがある一作なのかなと?

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